1‐1‐2 Crossroad
「惜しかったな。明」
「結果が全てだよ。俺は負けた、それだけだ」
学校指定の紺のブレザー姿で少年が二人、廊下を歩く。一人は先程の講義の際に仮想空間で黒木講師と激しい戦闘を繰り広げていた少年こと新城明。その隣に並んで歩くもう一人はその友人である三島平治だった。
少々だらしなく伸びる黒髪の明と短く活動的に刈り込まれたスポーツ狩りの彼が並んで歩くのは少々異色であるが、二人は入学当初から妙に気が合った。
「クールぶっちゃって。本当は悔しいくせに」
「悔しいからこそ、足掻いて努力してでも勝とうとするのさ。俺は、誰よりも負けず嫌いだからな」
「君は元気そうで、なによりだ」
長い黒髪とふくよかな胸を揺らしながら後ろから合流してきた少女は、神代鏡。
成績も優秀で容姿もいいのだが、帰国子女だから周囲が遠慮するのか、単に性格の問題なのか、女子の友人があまりいないという少々変わった人物。大きめに作られている制服も彼女が着ると引き締まって見えるのは鋭い目付きと高身長のせいかもしれない。
「お前の目は節穴か? 俺は現在進行形で落ち込んでいるぞ」
彼の諦めが悪いのは確かだったが、負ければ悔しいし多少は落ち込みもする。
「君は、素直に励まして欲しいというような殊勝な性格でもあるまい。それにそんなこと望んでもいないのだろう?」
「まあ、少なくともお前にだけは頼まないな、神代」
事実ではあったがなんとなく認めるのが嫌で、せめて皮肉で応戦する明。
「ならば何も問題は無いだろう。それに三島も励ますのなら、食事をおごるくらいしてやればいいだろうに」
「神代さんもさりげなく俺をけしかけないで欲しいね」
「だって、何も出てこないもんね」
間延びした声を出すのは、神代の後ろから現れた彼女の数少ない友人、天宮水月。
女子としては高身長の神代、対して少し低め身長であるの彼女が並ぶとどこか姉妹のようにも映る。栗色で少しカールのかかった髪が特徴で、胸は少し控えめ、性格については本人が否定しているが周囲の多数意見は天然という結論だった。
「てか、なんで俺のお財布事情知っているわけ。天宮さん」
「だって、平治君は万年金欠でしょ。豊かだったことが無いよ」
「ぐ」
図星を衝かれ言葉に詰まる平治の表情は青い。
「まあまあ、彼だって好きで金欠しているわけではないのだから、許してあげようではないか。なあ、水月」
人のことなのに、なぜか得意げな鏡。
「ぐぐぐ」
何かに耐えるようにうつむき平治がうなる。
「いつの間にか許される立場になっているな、平治」
同情されていた明だったが、今はむしろ彼に対して同情したかった。
「お、お、俺にはなあ、玉の輿という希望が残されているんだよ。だから、だからなあ、別に悔しくなんかないんだからなあぁっ」
微妙な捨て台詞を残し、涙ながらに平治はどこかへと駆け出して言った。
「玉の輿は、希望ではなく欲望だぞ平治」
とは、明。
「外出なら、おみやげよろしくね、平治君」
と、どこかとぼけたようすの水月。
「さすが元運動部、足が速い」
と、全く気にも掛けない鏡。
いつものことなので、気にすることも無く三者三様に見送る明たちであった。
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