2‐1‐4 Demonstration
「結構な顔ぶれね。それでこそ潰しがいがあるというものね」
「好戦的だな。まあ、血湧き肉踊るというのは否定しないが」
こんなことを平然と言えるのは、これが実戦ではなくゲームとしての『GENESIS』だからだろう。少しお茶らけるように明がいう。
「物騒だなあ。普通に相手を倒すだけでしょ」
そういう水月の口調こそ穏やかであったが、倒すという断言は、自分が倒されるつもりはないということを示しているようにも聞こえた。
「そんなこといいつつも、負けるつもりは無いんだな、水月」
争いは好まないが、負けるつもりも無いということなのだろう。なんだかんだで、似たもの同士な三人なのだった。
「ふふ、当然だね」
「接待ではないのだから、負けてやる必要性が無いだろう。君とて、同じ気持ちだろう」
「そうだな、特に神国皇族連には負けたくないな。おそらくあいつも出てくるだろうし」
「うっ。できれば、当りたくない連中ではある」
自分の腕を軽く抱き締めて、そっぽを向く鏡。
彼女や明、そして、三島平治の三人には神国皇族連と少なからぬ因縁があった。
「確か、明と鏡、それから平治君の三人で学院生時代に出場したんだよね?」
「ああ。なかなか個性的な奴らだったよ」
「いっそ選民思想の塊かなんかならやり易かったのだが……。思い出したくも無い」
「そういう言い方をされるとかえって気になるかも。でも、本当に嫌なら無理に話さなくてもいいよ。鏡」
「すまないね、水月。気を使わせてしまったようだ」
「はあ。とりあえず、俺たちのチーム名を決めるぞ。各自適当に名称を思いついたらマルチボードに記載していけ」
少々強引に明は脱線した話題を修正する。しかし、こういったことができるから彼が上官に選ばれたのかもしれない。
世間では、それを貧乏くじと言うのだが。
丁度三人の中間点にホログラムのような四角いボードが浮かび上がる。拡張現実の機能である第二視点とPITによる情報共有を利用した、観測する人間の視点に応じた画像を提供するどの方向にも対応したディスプレイ、多視覚共有板だ。
思考デバイス越しに、三人が思い思いの意見をマルチボードに書き込んでは消していく。
そこに書き込まれるのは、『明鏡止水』、『電研の三連星』、『水月と愉快な仲間たち』、『STARGAZER』、『CYBER ARTS LABORATORY』『チーム電脳技術研究所』、『神国電研』などなど方向性の無い意見が書き込まれていく。
「ブレインストーミングにしても、方向性くらいは決めた方がよかったか? というより、この『水月と愉快な仲間たち』はありえないだろ」
「可愛いと思うんだけどなー。だめかな、明?」
「いやいや。可愛い顔でお願いしてもだめだからな、水月」
明としては、水月は可愛いが、そのセンスはよくわからなかった。
「むう。君の、『チーム電脳技術研究所』も酷いと思うぞ」
少し拗ねたような声で、鏡が明の意見に意義を唱える。
「所属がそのままで、わかりやすいじゃないか」
「じゃあじゃあ、私の明鏡止水ってチーム名もだめなの? 明と鏡との名前と私の水の字を使っているんだけど」
「この一つだけ異色なチーム名はそういう理由だったのか。単に四字熟語がかっこいいとか言う、思春期特有の妄想の類かと思っていたぞ」
「私としては、止める、の字が余ることが気になるのだが」
「それは、おまけだよ。鏡」
「けっこうアバウトなのね」
やれやれといった様子で肩をすくめる鏡。
「鏡のだって、単に横文字使っただけだろ」
「君の考えた神国電研よりは、ましだと思うよ。株式会社じゃあるまいし」
あくまでも自分のネーミングの方が上である、という認識は否定しない鏡。ましだ、とは言いつつも、その顔は妙な自身で満ち溢れていた。
「じゃあじゃあ、私の電研の三連星はどうかな?」
「俺は、踏み台にされたくないからパスだ」
「そうね、名前の段階で白い奴に負けるのが決まっているし」
「それなら、彗星にすればよかったかな」
ちなみに、最終的にはそちらであっても白いのに負ける運命である。やはり、伊達じゃないということだろうか。
「まあ、そっちの方向は著作権とか色々と敵が多いからやめとけ。とりあえず埒が明かないから決選投票としよう。決まらない場合は、票が入っていないものを消去して行って、これを繰り返す」
「ふふ、望むところだ」
無駄に自信にあふれ、勝気な態度を崩さないのは鏡。
「ふふふ。なんか楽しいね」
そして、意味ありげな笑顔が少々怖いのは水月。なんだかんだ、彼女も自分の勝ちを確信しているのだろう。他人には理解されないセンスであったとしても。
「一体なんだ、その無駄な自信は。一人、二票ずつ分散して入れるように。同じのに二つ入れるのは無効だ。一票ずつにすると決まらないだろうし、異論は無いな?」
「わかったよ」
と水月。
「了解だ」
静かに首肯する鏡。
「じゃあ、始めるとしようか」
***
そして、数分後。
「く、どうしてこうなった?」
両手で頭を抱え、首だけを動かし鏡に話しかける明。
「それは、君がネタで変なのに投票するからだろう……」
同じ心境なのか鏡も少し下を向いてうつむいている。
「直前に真っ向から否定されたものに対してそのまま投票するなどとは誰が予想できるだろうか、いや、できない。まさか、一回目で決まるとは」
「わざわざ反語にしなくても気持ちは理解できるさ。しかし、引き分け狙いなら自分の考えたものに入れるべきだったな、君は」
「はは、もう過ぎたことさ」
「しかし、これが国家代表チームの名前か」
呆れるような、諦めたような声で鏡がいう。
「ありえないことが平気で起こる、これが事実は小説よりも奇なりというやつか」
「ありえなくなる原因を作った君がそれをいうとはね。全く笑えないよ」
「何はともあれ、決定だ」
しばしの沈黙の後で明が答えた。
「大勝利。やったね」
明を恨みがましい目で見つめる鏡と、よほど嬉しいのか、はしゃぎまわってブイサインする水月が対照的だった。こうしてチーム名は、『水月と愉快な仲間たち』に決定した。
修正しますた。