2‐1‐3 Demonstration
同日、午後。
電脳技術研究所の一室にて。
「そして、これが俺達に与えられた任務と第一回作戦会議だ」
明は、そういって書面を提示する。
「案外いい部屋ね」
品定めするように部屋の中を見渡すのは、神代鏡。
「そうですね。三人で使う分にはかなり快適みたいです」
こちらは単に新しいものに少し興奮したようすの天宮水月。
「上官の話は傾聴しろや、お前ら一応は俺の部下だろうが。まあ、実際しょうもない作戦会議だけどさ」
「しょうもないなら、必要ないな」
立場としては下であるはずなのに、なぜか偉そうな鏡。形式だけとは言われても、それを盾に偉ぶりたい気持ちが明に無いわけでもなかったが、気心の知れた相手同士なので変に気を使わないでいいのは助かってもいた。
「相変わらずだね、二人とも」
そんな様子を穏やかに見守る水月といった、ここしばらくは見ることができなかった少々懐かしい光景が繰り広げられていた。
「とりあえず、俺に統率能力が無いのはわかった。要点は、まあ俺達のチーム名を決めろと言うのと、スリーマンセル、つまりは三対三のチーム戦で、各国の組織やギルドの連中が出場する『GENESIS』の月例大会に出場してこいとのことだ」
「ゲームとしての『GENESIS』なら、実戦を何度も経験している私たちが今更やる必要はないのでは?」
「軍隊で下の人間に拒否権は存在しないし、理由を聞いても無駄だ。そもそも上官の俺からして何も知らないんだからな」
「使えない上官ね」
大げさに両手を胸の辺りで上に向け、はき捨てるように言う鏡。ここでも彼女の口の悪さは相変わらずだった。
「明は上官なんだから、一応は敬おうよ。鏡」
一応、と言っている段階で既に敬っていないが、本人はいたって真面目である。
「それ、フォローになってないからな。水月」
「なら、それに参加して優勝して国家の権威を示せとか、オリンピックのような意味の作戦ではないの?」
「それは、別にいいらしい。なんでも、基本的には俺達みたいな新人が腕試しの要領で出るみたいだが、古参のメンバーや子飼いの傭兵を出してくる国もあるから確実に優勝できるとは上も考えていないみたいだ」
「参加チームはどうなっているの?」
「米帝国、世界連合、EU共同体、東洋中華圏、神国皇族連、王国連、新ドイツ、共産主義連合国共同体、中東連合あたりが国や共同体として出場しているな。他には古参ギルドとして白の教団や、黒の旅団が出てくるらしいな」
「黒の旅団は犯罪組織じゃないの?」
「俺達が仮想でPKしても裁かれないのと同じで、仮想でのさばっている奴らを裁く法律は存在しない。である以上彼らは犯罪組織ではないしテロリストとしても扱われない。実質的に同じことをやっていたとしても、だ」
明確な基準がないこそかもしれないが、仮想で行われる戦闘は正義に基づいたものではなくてはならないと明は考えていた。
自分を騙す方便かもしれないが、例えば法律による死刑は、結局は法の名を借りた殺人ともいえる。それが肯定されるのは、法律という根拠、あるいは正義という意志がその背景にあるからだろう。
そして、快楽や欲得のために戦闘を行う『海賊』連中と電研で働く人間の明確な差異は、その意識の違いだけとも言える。
なぜなら、初めから海賊と自分たちの両者の間に大した差異などないのだから。
修正しました。