2‐1‐1 Demonstration
夜空と呼ぶには明るくなった空を白い光が照らし出していく。
白一色に染まっていた視界が徐々に輪郭を持ち始める。
太陽が作り出す光の輪から対称の位置に、向かい合う機械の天使と黒い金属で造られたドラゴンがいた。否、正確にはAA(avatars agent――意識体代理人)と呼ばれる仮想における一種の戦闘ツールを利用した 戦闘が繰り広げられていた。
朝日を背に、夜の闇が白んでいく。
雲海が視界の端へと流れていくのを合図に両者は肉薄する。
攻撃の軌跡だけが線となって視界に映し出される圧倒的な速さの攻防、それでいて互いに致命的な一発を決してもらわない高度な読み合い。一秒毎に幾重もの攻撃が空を切り、弾かれ、いなされていく。
まるで、演舞や武道の型をみているかのような鮮やかな戦闘。
しかし、間断なしに続いていた攻防は、黒き竜が後退しながら火球を撒き散らすことで一度中断されることとなる。
そして、視界が一瞬赤く埋め尽くされた直後、十二翼の天使、ミカエルを模したAAがついに機械の竜の体を捕らえて、銀色に輝く剣を手に切りかかる。黒い竜はその翼をはためかせ後退し赤々とした炎を吐き出し天使を迎撃する。
絶え間なしに続く炎の弾丸を軽々とよけつつ、天使がドラゴンに近付いていく。息も付かせぬ攻防が数秒間に渡り、炎がついに天使を捕らえたかに見えた。しかし、それは天使が自ら深紅の炎に突入したと言った方が近いだろう。
炎を突き抜けて白銀の天使が剣を振り上げる。その赤を写した白銀の装甲には、ドラゴンの牙が向かう。牙を向く黒竜と剣を手にした天使が交錯する。
そして、僅かに先に攻撃を受けたドラゴンはAAの心臓部であるコアユニットに直撃を受けたのか無数の黒い破片となって砕け散る。
勝負が決まったかに思えたが、飛び散った破片は、それ自体が意思を持っているかのように天使を包囲、欠片は球体状に圧縮されるかのように中央にいるミカエルへと降り注ぐ。
対するミカエルは、剣を高速で振り回し、自身も舞い踊るかのような動きで包囲網を一点突破する。無傷の天使が剣を構えなおし、破片の群れから距離を取る。散らばった黒い欠片は雲のような状態で一箇所に集まり、その姿はあたかも黒い天使のようだった。
聖書の中でも様々な形へと姿を変える不定形な存在の悪魔、サタン。
聖書をモチーフにした絵画ではミカエルに踏みつけられるサタンがドラゴンとして描かれているものもある。また、サタン自身は高貴な天使であったが、それゆえに自身こそが神であると思い込み、その傲慢さから追放され悪魔となった等と諸説ある。
ただ、いずれの話でも共通しているのは、天使、ドラゴン、悪魔などのいずれの姿であったとしても神に対して仇なす存在として描かれていることだろう。結局のところ、正義の証明とは敵となる存在を作り、それを打ち倒すことでしか示すことができない、という皮肉な事実の証左なのかもしれないが。
黒い大剣を手にサタンがミカエルに迫る。
それはまるで、神に反逆する神話の再現のようであった。『GENESIS』というゲームがAA同士による神話の再構築を望んでいるとするのであれば、もしかしたらあったかもしれない無数の神話の可能性が提示されることとなるだろう。
そして、それこそまさに新たな創生といえるのかもしれない。
刃と刃が火花を散らし、両者は向かい合い激突する瞬間に画面が切り替わる。
【Survival】
三つ以上の勢力が交戦する際のエフェクトであるが、この場合『生き残れ』とでも訳した方がいいのだろうか。そこでまた画面が暗転しこう続く。
【Ask for your challenge】
あなたの挑戦をお待ちしております、とでも言ったところであろうか。画面が黒く染まりここでデモムービーは終了する。
さあ、二章も修正始まります。