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ROG(real online game)  作者: 近衛
一章
2/151

1‐1‐1 Crossroad 

 2031年12月 巨大なドーム状の構造体に一群の人の群れがみえる。

 ドームの透明な天蓋に青い空が透かしてみえるが、透過する光の加減でオーロラのようにも映る。

 それは、あらゆるものが並列して存在し得る仮想空間という場所の特性をよく示しているようにも思えた。

 

 「諸君、今日はAAでの戦闘訓練を行う。のないアリーナでの戦闘だからといって気を抜かないようにしろ。訓練中にできないことが、実戦で使い物になる訳が無いんだからな」 


 ダークグレーのスーツを着た男性、黒木智樹講師の声が仮想のドームに響く。昨今では、一般にまで広く普及しつつある旧来のネットの代替物、仮想空間。

その場を利用しての訓練の一部始終だった。

 『PIT』と呼ばれる携帯端末を経由し自身の意識を仮想空間に没入させて使用する都合で肉体へのフィードバック現象による現実的な危険を伴う。しかし、PIT持っていれば誰でもどこでも、さらには無料で使えるという利便性が爆発的な普及の背景にあった。


 「まずは、見本を示したい。誰か、私の相手をしてくれないだろうか」

 

 恭しく黒木が目の前に整列する生徒達に語りかける。

 『AA』と呼ばれる仮想空間でのロボット型戦闘ツールを使用した競技は、バーチャルスポーツとして人気のはずであるが挙手をする人間はいない。 無論、生徒と教師という関係性がその理由でもあるが、それを差し引いても黒木が強過ぎて誰も相手をしたくないからだ。 ただ単に黒木講師が大人気ない、ともいえるのだが。 


 「困ったな。では、新城明君、相手をしてくれないか」


 困ったというその言葉とは裏腹に、笑みさえ浮かべる黒木。

 彼に呼ばれた新城という少年は、苦笑しつつも彼の隣に進む。

 気に入られているのか、実技科目の優秀さから手ごろだと判断されているのかは定かではなかったが、こうして相手に選ばれることが多かった。

 そして、彼は自分が負けず嫌いであることも自覚していた。


 「手は抜かないでください。勝ったときの言い訳はされたくない」


 「訓練だからといって手は抜かないよ、明君」 


 しかし、明は勝つつもりでいた。 

 絶対に諦めない、という不屈の闘志こそが彼の売りだ。

 対して、黒木は最初から真剣勝負をするつもりでいた。

 何時如何なるとき、どんな相手でも手を抜かないのは、真面目過ぎる性格の所為だろう。

 案外、彼ら二人は似た者同士なのかもしれない。 二人はグラウンドに向けて飛び降り、そして、強く思考する。 


 《Translation》(記号変換)


 オペレーティングソフトの『The Book』のメニューを開いてプログラムを起動することもできるのだが、思考から直接起動した方が手早い。

 教師と生徒、正確にはそれを模したアヴァターと呼ばれる仮想空間上での肉体だったものは、デジタルのデータとなり分解されると同時に上書きされていく。

 二人の姿はモザイクが掛かったようにぶれ、直後に巨大な人型の戦闘兵器『AA』へとその姿を変える。直後に彼らの間にビジュアルエフェクトが表示されシステムアナウンスが挿入される。

 

 【OPEN COMBAT】


 「さあ、戦闘開始といこうじゃないか」 


 「いざ、尋常に」 


 「「勝負!」」 


 二人の声が重なりオープン回線上で響き渡る。

 ただのスポーツをするには広大すぎるアリーナのグラウンドに白い翼をまとった機械の天使、羽を広げた青い機械の妖精がそれぞれの得物を手に対面する。 

 フェアリーと呼ばれる青いAAは、明が姿を変えたものであり、対面しているケルビムと呼ばれる機体は黒木が記号変換したものだ。 

 そして、闘技場で向き合った両者が取る行動は一つ。

 地面からわずかに浮かんだフェアリーとケルビムは、武器を手に正面からぶつかり合う。

 真正面から振り下ろされた大剣を明は二本の細身の剣、ミスリルソードを交差させて受け止め火花を散らす。 

 後手に回った感は否めないが右手で受け流しつつ左手で斬り付ける。それを火蓋として左右の剣でラッシュを仕掛けるが、黒木による絶妙な間合い取りと身のこなしでわずかに届きそうな攻撃は全て防がれる結果に終わる。

 傍目に見る分には実力は拮抗しているように見えるかもしれないが、明の主観はそうではなかった。

 むしろ、焦ってすらいた。

 

 (攻撃が止まれば、やられる。途切れさせるな)

 

 手数でも、攻撃速度でも勝っているのに攻撃が当たらないと言うことは、両者の間に明確な実力の差があるということでしかなく。

 そして、それは明が攻撃し続けているのではなく、攻撃を止めた瞬間に仕留められるということを意味していた。

 フェアリーは両手に持ったミスリルソードを上段からの袈裟懸け、下段からの逆袈裟で切り上げ、さらに返す手で薙ぎ払う。

 しかし、一見ランダムに見える攻撃も全体としてみれば次の攻撃に繋がるようにパターン化されており、見切ることは不可能ではない。

 少しでも見誤れば致命傷を受けることになるが、逆にそれは、見えてさえいれば攻撃は当たらないということでもある。

  

  「また、腕を上げたようだ。やはり若いというのは素晴しい」

  

 上から目線の言葉であるが、馬鹿にしているというわけではなく、これが黒木智樹という人物の素の言葉だった。

 実際、相手が黒木でなければ大人でも一蹴できる程度には新城明という少年は強いのだ。


 「あなたを超えたくて研鑽を重ねたが、やはり正面からは分が悪いようだ」


 そういうと明はバックステップしつつ地表面を剣でこすり砂塵をまき散らす。煙の中からの奇襲を警戒したのかケルビムは即座に空中へと逃れる。即席のスモークの中からの射撃は先程まで黒木がいた場所を通過する。

 そして、煙の背後を迂回した明は右手にミスリルソードを、左手にはリニアライフルを構え斬り掛かる。正面からの射撃、側面からの斬撃にも完全に反応され鍔迫り合いの形になるが、腕のばねを利用して後退しつつ更に弾丸を撃ち込む。

 機械の天使は、ブリッジのように体を逸らすことでこれを交わす。

 この間に明は左腕部に内蔵されたアンカーを地面に打ち込んで降下しつつ、強引に前進して黒木の真下から斬り付ける。

 「はあぁっ!」 


 地面すれすれの高度から、裂帛の気合と共に放たれた一撃。 


「惜しい。だが、まだ足りない」 


 完全な虚を突いたはずの一撃にさえ反応し、後ろ手に構えた大剣でこれを弾き距離を取り直す。

 このとき黒木は、明のことを完全に見失っていたが、相手の攻撃を認識した後に尋常ならざる反応速度で対応してこれを防いだ。 

 中空で反転し、明が見上げ、黒木が見下ろす状態でしばし向き合う。

 ケルビムの上段に構えた刀身が赤く灼熱し、その姿の前に陽炎が見えた次の瞬間に間合いにまで肉薄される。

 反射的に突き出したリニアライフルは、弾が放たれるよりも先に爆散する。 斬られた、という事実を認識した瞬間に巻き取るように剣をいなされる。

 擦りあわされた剣が火花を散らす姿は、明にとっては死へのカウントダウンのように映る。刻一刻と喉元に向かい赤々と燃える大剣が迫る。 


 「これでチェックメイトかな? 新城君」 


 こんな言葉でさえどこか飄々としている黒木。彼は明がどんなに追い詰めても切り返してくる、という状況を楽しんでいた。


 「いえ、生憎と俺は諦めが悪いので」 


 明は体を逸らし首筋に迫る白刃をわずかに先延ばしする。時間稼ぎにもならないような短い紆余だったが、伸びきった腕ではもう一歩の踏み込みが必要だ。

 そして、払われた手に持っていた剣を投げ捨てホルスターに右腕を運ぶ。 

 刹那。 

 止めをさされる恐怖よりも、

 敵の攻撃よりも、

 ひたすらに繰り返してきた動きが先んじた。

 無意識に明はリニアライフルをホルスターから引き抜きケルビムに向けて放つ。


 「貴方を、倒す!」 


 銃声が鳴り響き、眼前で放たれたマズルフラッシュで視界が消える。 


【THE END】 


 AAが破壊されると同時にシステムアナウンスがエフェクトと共に響く。


 「肉を切らせて骨を絶つ、ってね。危ない危ない」


 そこには片腕を犠牲にして攻撃を防いだケルビムの姿と敗北が決定しポリゴンとなって霧散するフェアリーの姿があった。

 それは、大剣による斬撃をとっさに投擲へと切り替えた黒木が辛くも勝利したことを示していた。

 話数が一気に増えますが、単にもともとあったものを新しい書式に合わせて分割しただけですからね。大きな変更点はありません。

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