1‐2‐5 Heart
深夜零時。
マンションの一室で神代鏡はソファに座り、ブラックコーヒーを口に運びながら物思いにふけっていた。当初の彼女のプランでは、新城明にはもともと一緒に来てもらうつもりであった。
「あの日以来だよ。変わってなかったなあ」
別れた半年前と同じ、どうあっても助け出すという覚悟。
執着や執念といってもいいほどの意志の強さ。
そして、それは結果的に自分たちの人間関係を心理的にも物理的にも分断することとなる。
きっかけは些細な偶然だった。
まだ学生であり友人だった三人の関係が、
恋人二人とその友人に変わるかも知れなかったあの日。
「本当に、不意打ちだったなあ」
なんとなく、そのままの日常が繰り返していくのだと思っていたあの頃。
今日も明日も、友人であると言うことが当然のように続いていくのだと信じていた。
しかし、それは叶わない願いであった。水月が明に告白したあの日に、彼女は仮想空間で消えた。
「なんで、あのタイミングだったのかな」
もっと違うタイミングで、違う形であれば、彼女の友として祝福してあげることができたのかもしれない。だがそれは、結局のところ起こらなかった未来だ。追想しながら鏡は、ティーカップを持ちベランダへ向かう。
カーテンを開け、ガラス戸を開くと夜気が肌に心地よい。
「自分の、あなたの心が、わからないよ」
明が返答をする前に彼女は、消えてしまった。
しかし、どんな思いなのかは明に聞けばすぐにわかることだった。
だけど、一度聞いてしまえばそれが真実になってしまうのが怖くて彼とは距離を置くようにしていた。
そして、こんな状況で一緒にいれば、本心とは無関係にきっと互いに好きになってしまうだろう。
たとえそれが一時の気の迷いだとしても、お互いの傷を舐め合い慰め合ってしまうだろう。だからこそ、自分から別行動を取ってきた。遠くから見守るように彼をサポートすることに徹してきた。
それに水月が何もできない状況で、自分だけが能動的に行動するという卑怯な真似はしたくなかったし、こんな状況を利用するズルイ女にもなりたくは無かった。
「それとも、臆病者なのかな、私は」
消えてしまいそうな声でつぶやき、窓越しに星を見上げる鏡の目には、暗く澄んだ夜空の明かりが映る。
「それでも、必ず助けるからね」
自身を奮い立たせるように言い放ち、胸に付けた銀の十字架を強く握る。
深夜の星空は、淡く儚い輝きを放っていた。
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