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思い出作り

三人の目指すカイジ浜は、コンドイビーチの南側にある星砂の浜だ。

砂に手を押しつけてよく見ると、手のひらにたくさんの星砂や太陽砂が

くっついてくる。

土産物屋では小瓶に入れられ売っていた。


「ねぇねぇ、健人くん!帰りにお土産屋さんに寄ってくの忘れないでよ!

真由子とマスターの泡盛は、重たいから空港で買うとして、

つぐみちゃんと健人くんのお母さんに、うちの母さん。

あ!吉川さんは忘れたら大変!こんな素敵な旅を私たちみんなに

プレゼントしてくれたんだから。うーん、何がいいかなぁ。」


雪見は健人の背中にしがみつきながら、何にしようか考えてる。

すると健人は、「初めての旅の思い出に、俺たちもなんか記念に残る物

買おうよ!」と、雪見に提案した。

「賛成!なんか素敵な物、健人先輩に買ってもらっちゃお!」

「なに都合いい時ばっか、後輩の振りしてんの!」



デコボコ道をしばらく走ってカイジ浜に到着。

ここの海中は、変化に富んだ遠浅の岩場なので、シュノーケリングが

初心者でも楽しめる。

当麻が、やっぱり海パンとゴーグルを持って来れば良かった!と悔しがった。


「うーん、お宝ショットが撮れたかもしれないのにね。

そうだ。ねぇ!上脱いで、上!せっかく海のショットなんだから、

上半身裸くらい撮っておかないと!

それぐらいファンサービスしたってバチは当たらないでしょ?早く、早く!」


雪見に急かされ健人と当麻は、よっしゃ!とTシャツを脱ぎ捨てる。

二人とも、よく引き締まった筋肉質の身体で、忙しい合間を縫っての

トレーニングを欠かさない事がうかがえた。


幸い健人たちに気づく観光客もなく、遠くの浜辺にも、しゃがみこんで

星砂を真剣に探す親子と、二組のカップルらしき人しか見当たらない。

雪見がお目当ての猫は、まだ暑い時間帯だからなのか一匹もいなかった。


「きっと、もう少し涼しくなったら猫が集まって来ると思う。

だから今の内に撮影しちゃおう!

また適当なとこで撮し始めるから、私は無視して二人で戯れて!」


「OK!当麻、岩場で蟹取りしよう!俺、結構得意なんだ!」


健人と当麻はパンツの裾を思いきりたくし上げ、岩場に隠れる蟹を

真剣に探し始めた。

午後二時半の太陽は、今日一番の頑張りようで照りつける。

健人たちはすっかり蟹探しに夢中で、自分たちの背中がいったい

どんなことになってきたのか、まったく気にする素振りはなかった。

が、ファインダーを覗いていた雪見がその変化に気が付いた。


「ちょっと!大変なことになってきたよ、あんた達の背中!

まずいって!一旦日陰に入って!」

慌てて海から上がったものの時すでに遅し!で、二人の背中、特に

当麻の背中はかなり困った事態に陥っていた。


「あーあ、やっちゃった!やっぱ上半身全部に塗らなきゃダメだった!

顔と肩までしか塗らなかったもんね、日焼け止め。

取りあえずは大至急冷やさなくちゃ!」

そう言いながら雪見は、クーラーバッグの中から半解凍になった保冷剤を取り出して、

二人の背中に押し当てた。


「冷てっ!けど気持ちいいや。ねぇ、どうする?このあと。

撮影がいいとこ済んだんなら、俺、何か食いに行きたい!腹減った。」

健人が背中越しに雪見に訴える。


「そうだね!私もお腹空いてきた。やっと二日酔いから解放されたって

感じ。じゃあ、ここからすぐの所に美味しいカレーが食べられる喫茶店

があるから、そこに行こうか。フルーツジュースも美味しいよ!」


「行く行く!そこでしばらく休憩して、涼しくなったら戻ってこよう。

俺、どうしても猫が見たいから。ラッキー、元気にしてるかなぁ。」


当麻も異議無し!だったので、また自転車に乗って移動することに。

しかし、日焼けした背中がTシャツに擦れて、自転車の運転も至難の業だった。


「ゆき姉!お願いだから、あんまりくっつかないで!

てゆうか、Tシャツさえも掴んで欲しくないんだけど!」

走り出す前に健人が顔をしかめながら、後ろに乗る雪見に懇願する。


「えーっ!じゃあ手放しで乗れってゆーのぉ?この運動音痴の私に!

それってたぶん、五秒で落ちて頭ぶっつけるけど?

私がそうなってもいいならやりますけど、どうします?」


「いい、いい!やらなくていい!じゃ、ここ掴んで、ベルト通し。

なら痛くないと思う。じゃ、走るよ!ちゃんと掴まっててね!」


今度は雪見たちが先頭を走って、目指す喫茶店まで当麻を先導した。



「ふーっ、到着!喉乾いたぁ!俺、カレーとマンゴージュース!」

当麻がテラス席に座り込んで、真っ先に注文する。


「健人くんも同じでいいでしょ?じゃ、カレーとマンゴージュース、

三人分お願いします!」

店のおばさんに注文し終わって、ホッと一息つく。


「ねぇねぇ、背中大丈夫?ホテルに戻ったら、進藤さんに薬もらって

塗らないと!怒られちゃうね、出掛ける時に注意されてたのに。

もしかして、今晩痛くて寝れなかったりして!」

雪見が二人をおどかした。


「だったら最悪!ねぇ、このあとの予定は?」

健人が冷たい水を一気飲みして雪見に聞く。


「あと?あとはカイジ浜に戻って、猫がいたらちょっとだけ撮影したいんだけど。

その後は、健人くんと当麻くんに、この島で私が一番見せたかった風景

を見せてあげる。それで今回の撮影はすべて終了!

本当はもっとのんびり気の向くまま、あっちこっち見せてあげたかった

んだけど、半日じゃこんなもんかな。

あ、せっかくカメラ持って来たんだから、自分たちで撮してみて!

最後に見せてあげる景色は、自分で撮すときっと一生忘れないから。」



午後四時の遅い昼食というか早い夕食の、野菜たっぷり美味しいカレー

で腹ごしらえをし、冷えたマンゴージュースで喉を潤したあと、

三人はまたカイジ浜へと戻って行った。

するとさっきの炎天下には一匹もいなかった猫が、少し涼しくなった

海風に誘われるようにして、どこからともなく集まって来る。


「うわぁーっ!猫だ!いち、にぃ、さん…。全部で八匹もいる!

俺も写真撮っていい?」 健人が嬉しそうにカメラを取り出した。


「当麻くんには、私のカメラ貸してあげる。これ、シャッター押す

だけでも結構いい写真が撮れるんだよ!帰るまで貸しておくから、

好きに使っていいからね。じゃ、私に少しだけ時間を頂戴ねっ!」

そう言って雪見は、さっそく猫を撮影し出した。


健人も自分の感覚のまま、すべての猫を一匹ずつ撮して回る。

当麻はと言うと、猫カメラマンに戻って仕事をする雪見がとても綺麗で自信に溢れ

輝いて見えたので、思わず雪見にカメラを向けシャッターを切り続けた。



雪見が言ってた最後に見る風景は、健人と当麻の瞳にどう映るのだろうか。


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