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最悪な朝

石垣島二日目の朝。

部屋のカーテンを開けると目に飛び込む、窓の外一面に広がる青い海と

それにつながる青空に白い砂。

その沖縄らしい晴天の朝に感動する健人たち一行…のはずだったが、

進藤と牧田、愛穂と当麻のマネージャーの四人を除いては

感動する胸ではなく、ムカムカする胸を抱えている。


前夜、宴の途中で支配人から差し入れられた泡盛を、うまいうまい!と

調子に乗って飲んでた六人が、二日酔いの洗礼を受けていた。

まぁ、泡盛には何の罪もない。

大量のオリオンビールから始まって、吉川差し入れの赤と白のワインを

八本、その後の泡盛一升なのだから当然と言えば当然の結果である。


二日酔いを免れた四人は、何のことはないお酒のあまり飲めない四人だ。

結論として、お酒は程ほどに飲むのが丁度良い!と言う事。



「やばいよ…。これでフェリーに乗るの?どうなると思う?」


まったく朝食など食べる状況にはないが、今日一日のスケジュール確認のため、

とぼとぼと集まったレストランで健人が当麻に聞いた。


「沖縄の綺麗な海を汚すだろうね、きっと…。」


その横で進藤と牧田が、美味しそうにサラダを頬張っていた。

「ちょっと、お二人さん!せっかくの朝食が不味くなるような話、

隣でするのやめてくれる?

大体なにその顔?どうやっていつものイケメンに修正すればいいのよ!

雪見ちゃんもまずいよ。目が死んでる!」


ヘアメイクの進藤が、さてどうしたものかと、仕事の手間を増やした

三人を交互に見ながら思案している。


が、今日ばかりはこの三人だけを責めるのは可哀想。

一番しっかりしていなくてはならない、マネジメント担当の藤原を始め

カメラマンの阿部、健人のマネージャー今野の三人はさらに重症だ。


今野に代り当麻のマネージャーが、みんなにスケジュールを確認する。

だが冷静に考えても、このあとすぐにフェリーに乗るのは無理に思う。


石垣島から今日の撮影地、竹富島までは高速船で十分ほど。

普段ならあっという間に着く距離だが、今日の十分間の船旅は

この六人にとって、二十四時間地獄旅行並みの辛さであろう。



「どうします?」 

当麻のマネージャー豊田が、隣でうなだれる今野に聞く。


「みんなには本当に申し訳ないが、予定を変更してもらえないか?

阿部さん、どうだろう。午前中の連載の撮影は、ホテルの前の川平湾で

という訳にはいきませんか?」


今野の提案に、これまた肩で息するほど重症な阿部は、二つ返事でOKした。

「ええ、そうして下さい!ここの前の背景で充分です!

で、予定より開始時刻を二時間繰り下げましょう。

今日の天気なら、十時スタートで大丈夫です。

だからそれまで各自体調を整えて、九時半に集合と言うことで…。

午後は健人たちに好きに撮らせて、俺たちはホテルで待機と。」


全員一致で予定が変更された。


爽やかな顔をした進藤と牧田は、そのままティーラウンジに移動して

窓の外の絶景を眺めながら、モーニングコーヒーを楽しむ。

当麻のマネージャーは今野から雑事を引き継ぎ、

二日酔い六人組は速攻部屋に戻って、再びベッドへと倒れ込んだ。


愛穂は、と言うと…。

雪見をそっと寝かしてやるために、ひとり海岸線を散歩しに外へ出た。

朝七時の海辺の空気は凛と澄んでいて、身も心も浄化してくれる気がする。


なぜ私は昨夜、健人に敵意を抱いたのだろう。

一目惚れしてすぐに振られるなんてことはよくある事なのに。

朝の潮風に当たっていると、すごく冷静に物事を考えられた。

あんなにも健人が愛す年上の人って、どんな人なのか見てみたい。


雪見がその年上の人だとは、思ってもいなかった。



集合時間の午前九時半。

まだ酒は抜けきりはしないが、二時間ほど眠ったお陰で今朝よりは

みんな少しはましになった。


「よーし!ここからは私たちの出番ね!大至急、元のイケメンに

戻さなくちゃ!牧田さんも愛穂ちゃんも手伝ってね!」


そう言いながらメイクの進藤が、ホテルから借りてきたホットタオルを

三人の顔に乗せ、次々と手際よくリンパマッサージをしていく。

これでかなり顔のむくみは取れるはず。

あとはなんとかメイクでカバーするしかない。進藤の腕の見せ所だ。


撮影開始予定時間から十分遅れで、どうにか三人を元通りに見えるよう

応急措置が完了。さすが、進藤!お見事であった。



「さーてと、始めますか!じゃあ雪見ちゃん、撮影開始して!

ここからは雪見ちゃんがカメラマンだから、ご自由にどうぞ。

俺のことは気にしないで、ガンガンやってね。

俺は適当なとこから撮影開始するから。じゃ、お願いしまーす!」


阿部の大声が、頭に響く。

雪見は気合いを入れて、自分の仕事に集中した。

健人と当麻もプロ意識を発揮し、平然とした顔をして雪見のカメラの

前に立つ。

が、この撮影はどちらかというと、雪見が主役で健人達は脇役だ。

健人の写真集を撮影中の雪見にスポットを当てるという連載なので、

健人も当麻も、適当に撮られてればいいさと高をくくっていた。


その時である。雪見から二人に檄が飛んだ!


「ちょっと、二人とも!私との真剣勝負から逃げる気?

こっちは命がけで撮ってるんだから、あんた達もそれに答えなさいよ!

そんな顔で写真集に載りたいの?」


離れて見ていたスタッフが、雪見の怒声にビックリした。

一番驚いたのは、叱られた当の本人たちだが…。

なんだか阿部も、自分が怒鳴られたような気がして気を引き締める。


阿部のアシスタントとして付いていた愛穂は、雪見の中に

自分と同じような匂いを感じていた。


『この人もカメラを手にすると人格が変るんだ。

昨日モデルとして私に見せた表情とは、全くの別人みたい。

それに写すスタイルが私とは違う。まるで猫を追いかけてるみたい。』


愛穂は同じ女性カメラマンとして、とても雪見に興味が湧いた。

と同時に、この三人の関係にも何かがあるような気がしている。



愛穂は、あとで妹の可恋に、何か知っていないかメールで聞いてみようと思っていた。


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