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一日目無事終了

夕日が海に潜り、ジュッと音が聞こえそうな瞬間を見届けて

石垣島一日目の撮影がすべて終了した。

スタッフ一同お互いに「お疲れ様!」と労をねぎらう。


健人と当麻、雪見の三人も真っ先に、今日のカメラマンである愛穂に

向かって「お疲れ様でした!ありがとうございます!」と頭を下げ、

『ヴィーナス』初仕事の無事完了を祝うように、拍手をした。


仕事中は強気で押し通した愛穂も、撮影が終了すると同時にホッとした

表情を見せ、26歳らしい一人の女性に戻っていた。

愛穂が三人の元に歩み寄る。


「絶対にいい写真が撮れてる自信があるから、楽しみにしててねっ!

それと雪見さん。撮影中はごめんなさい、生意気な事ばかり言って。

先輩に対して取るべき態度じゃないことは、わかっていました。

でも私、撮影中はああやって自分も追い込まないと、うまく撮れないんです。

米国じゃ、自分に負けた者は去って行くしかないですから…。」


そう言った愛穂が、かすかに作り笑いをしたのが雪見にはわかった。

それは、自分で自分のことを笑ったかのようにも見えた。


雪見は愛穂のそんな表情が、いつまでも心に引っかかる。


「ねぇ、愛穂さん!今日は私もとても勉強させてもらったわ。

たまには撮られてみるのも、良いものねっ!

反対側に立ってみて、初めて気づくこともたくさんあった。

ホテルの部屋一緒だって言ってたから、あとで色んなお話聞かせてね。

あ!愛穂さんはお酒飲める人?」


「え?あぁ、あんまり強くはないですけど、お酒は好きです。」


「そう、良かった!私ね、お酒は人と人とを結ぶものって思ってるの。

じゃあ今晩は愛穂さんと、もっと親しくなれそうねっ!楽しみ!」


雪見が嬉しそうにそう言うと、横から健人と当麻が口を出した。


「愛穂さん!ゆき姉には気をつけた方がいいですよ。

この人、かなーり飲みますから!」


「そうそう!俺たちも今までどんだけ飲まされたことか!

俺なんて、ゆき姉と知り合ってから確実に二日酔い率上がったもん。」


「ちょっと、当麻くん!私がいつ無理矢理飲ませたって言うのよ!

人聞きの悪い。あんた達の修行が足りないだけでしょ!」


そばで愛穂がクスクスと笑ってる。


「本当に三人とも、仲がいいんですね!

ファインダー覗いてても、それは凄くよくわかったけど。

いったい三人って、どういう関係なんですか?」


愛穂に質問され、健人たちは顔を見合わせた。本当のことは話せない。


「あぁ、私たち?私と健人くんが、おばあちゃん同士が姉妹の

はとこっていう関係で、健人くんと当麻くんは同じ事務所で親友同士。

どういう訳かつい最近、私まで同じ事務所に入っちゃったから

二人は私の先輩でもあるの。」


それが公式に発表されてる三人の関係だ。


愛穂とは、どこか似た性格を感じ仲良くできそうな気がしたが、

やっぱり本当のことは話せない。

どうしてもあなたは、霧島可恋の姉だから…。



バスに乗り、三十分程で今回の旅の宿に着く。

そこは石垣島随一の景勝地、川平湾を望む全8室オーシャンビューの

プチリゾートホテルで、吉川編集長の知人が支配人を務めていた。


その支配人自らが健人たち一行を出迎える。

「ようこそ!お待ちしておりました。吉川さんにはいつもお世話に

なっております。本日は全館貸し切りとさせていただきましたので、

どうぞごゆっくりとおくつろぎ下さいませ!」


全8室のホテルと言うから、随分と小さな所を想像していたが、

案内された館内に一歩入って驚いた!ロビーの広くて開放的なこと!

広いラウンジの正面は、一面の大きなガラス張りになっており

日中はそこが一枚の絵のように、窓の外に青い海と白い砂浜が広がって

いると言う。

館内はベージュを基調に、アジアンテイストのインテリアでまとめられ

その空間一つ一つがとてもゆったりとした造りになっていた。


それぞれ部屋の鍵を受け取り、まずは一息つくことに。

進藤、牧田のペアと雪見、愛穂のペアはデラックスツインの部屋で、

その他の男性陣は各一人ずつ、シングルとツインの部屋が

藤原によって割り振られた。


雪見が愛穂と共に部屋に入る。二人同時に歓声を上げた。


「うわぁーっ!こんなに広い部屋、私たちが使っていいの?

すっごいおしゃれなインテリア!アジアのリゾートだね、完璧に!」

雪見のテンションが相当高い。


愛穂もニコニコと嬉しそうだ。

「連れてきてもらって良かったぁー!私、沖縄は初めてなんです。

雪見さんは?」


「私?私は沖縄が日本で一番好きな場所だから、一年に一度は来るよ。

最後に来たのは去年の十月から今年の四月までかな?半年間いた。」


「え?ええーっ!半年間も?何やってたんですか?」


「あ、話してなかったっけ?私、普段は猫だけを撮して歩くカメラマン

なの。だから一年の半分くらいは放浪の旅に出てるかな?」


愛穂のびっくりした顔!そんなカメラマンがさっきの撮影で、あんなに

凄いオーラを見せたの?今はちっとも何も感じないのに…。


「知りませんでした!雪見さんが動物写真家だなんて。」


「動物写真家じゃないよ!猫カメラマン!」


雪見が、ふかふかなソファーにすとんと腰を下ろしながら笑う。

愛穂は雪見を、初めて出会った人種のように好奇心を持って見た。


「雪見さんの話をいっぱい聞きたい!今日はたくさんお話しましょうねっ!」


「いいわよ!お酒を飲みながらじっくりとね。

じゃ、そろそろ下に降りてレストランに行こうか。食事の時間だよ!

もう、お腹がぺっこぺこ!」



そう言いながら、二人揃って一階にあるレストランへ行くと

みんなはもう席に着いていた。


「遅いよ、ゆき姉!俺、腹減って死にそうなんだから!

喉もカラカラ。早く乾杯しよう!」 健人が雪見を急かす。


「ごめんごめん!皆さんもお待たせしました。」雪見と愛穂が急いで席に着く。


「じゃあ全員揃ったようなので、これから沖縄ロケ一日目の反省会を

したいと思います。なーんて、堅苦しいことは抜きにして、今日は

思いっきり食べて飲んで、お互いの親睦をはかりましょう!

吉川編集長からも、先ほどワインの差し入れが届きました。

みんなで感謝して飲もうではありませんか!では、カンパーイ!!」


阿部の音頭で、今夜の楽しい宴がスタートした。

みんなが笑顔の食事会は、お酒もどんどん進んでいく。


ここにいる誰もが幸せな時間を満喫していた。


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