石垣島の青空
飛行機を乗り継いで降り立った石垣空港の空は、
青い海がそのまま空にも繋がっているかと錯覚するような
素晴らしい青空が広がっていた。
羽田を発って四時間半。午後二時半の沖縄の晴天は、間違いなく暑い!
「最高っ!いいねぇー、沖縄らしくて!」
当麻が眩しそうに空を見上げる。
「そうそう!沖縄の暑さはこうでなくっちゃ!」
健人も当麻に賛同する。
が、若者二人以外の三十代チームは、すでに少々げんなりしてた。
「この暑さのビーチ撮影って、どんなことになっちゃうの?
こまめに水分補給しないと、みんなぶっ倒れるぞ!
どっかで水を多めに仕入れてから行こう!」
カメラマンの阿部は、学生時代アメフトをやってたらしい体格を
してはいるが、四十代手前になった今は、かなり全体的にぽてっとした
大男になってしまってる。
だからなのか、この暑さで尋常ではない汗をかき出した。
「ヤバイわ!早くマイクロバスに乗ろう!」
そう振り向いて健人たちを見ると、すでに当麻と二人で大勢の人に
囲まれ、サインをねだられていた。
いくらサングラスをかけてたところで、この二人が一緒にいたら
みんな気が付かないはずはない。
二人揃って放つオーラの大きさは、それだけ半端じゃなかった。
「おい、藤原ちゃん!夕方まで時間がないから、そろそろお開きに
してやれ!準備してる間にせっかくの夕日が沈んだら、台無しだ!」
阿部の指示でマネジメント担当の藤原が、ファンの輪の中に割って入る。
「すみませーん!ちょっと時間が無いもんで、これで終わりにして
くださーい!ごめんなさい!」
そう言いながら健人と当麻に、バスを指差す。
「みんな、ごめんね!写真集のロケがあるんだ。クリスマスに出るから
みんなで買ってねっ!お友達にも宣伝しといてよ!」
健人がちゃっかりとコマーシャルした。
すると当麻も負けじと、「俺も出てるから!健人の写真集だけど、
当麻ファンも買ってくださーい!じゃ、またねっ!」
二人が大きく手を振りながらバスに乗り込んでも、まだ窓の外から
キャーキャーと黄色い声が聞こえる。
やっと出発したバスの車内は、エアコンが効いてることも手伝って
一同ホッとした表情を浮かべていた。
「それにしてもこの二人、一緒にいると目立ち過ぎだよね!
なんか、先が思いやられる。」
進藤が、後ろに座る二人に振り向きながら話した。
が、その隣りに座る可恋の姉 愛穂は、何も関心が無さそうに
窓の外の景色をじっと見つめる。
ハリウッドスター達を撮してきた彼女にとって、健人と当麻ぐらいの
騒がれ方など、別に取るに足らない風景なのだろう。
彼女は26歳という年齢よりも、遙かに落ち着いて見えた。
自分より七つも年下の彼女が、二十歳そこそこで単身米国へ渡り
わずかな期間で第一線のカメラマンになる腕前。
雪見は同じカメラマンとして、彼女への興味がむくむくと湧いてくる。
その頃にはすっかりと、彼女に対する恐怖心は無くなって
好奇心へと心の中が入れ替わっていた。
「さぁ、着いたよー!マエサトビーチ!急いで準備開始してね。」
石垣空港から車でわずか五分の距離に、日本とは思えないほどの
真っ白な砂浜が広がっていた。
その後方には、石垣島で一番大きなリゾートホテルが建っている。
「ヤッホー!今日はここに泊まれんの?先にチェックインして部屋に
荷物置いてきたら?」
健人が子供のようにはしゃぎ回る。
が、すかさず今野が「残念でした!泊まりはここじゃありません!」
と告知すると、健人と当麻は二人揃ってブーたれた。
「えーっ!なんでさぁ。こんなそばにいいホテルがあるのに!」
「お前達二人が、こんなでっかいホテルに現れてみろ!
満員のお客が大騒ぎして、ホテルをつまみ出されるから。
俺たちの泊まるとこは、吉川さんのご厚意で小さなリゾートホテルを
丸ごと借り切ってもらったぞ!ここから車で三十分位かな。」
今野の言葉に、みんなから一斉に歓声が上がった。
「スッゲーや!吉川さん、ありがとー!!」当麻が空に向かって叫ぶ。
「さぁ、気合いを入れて撮影を始めるぞ!」
阿部の一声で、全員それぞれの準備に取りかかった。
健人、当麻そして雪見の三人は、バスの中で撮影用の衣装に着替え
順にビーチの前へと集った。
衣装を着ると健人と当麻はスイッチが入るらしく、すでにオーラ全開の
イケメン俳優二人組になっている。
最後の雪見が準備を終えて出て来るのを、談笑しながら待っていた。
バスのドアが開き、雪見が進藤、牧田と共に降りてくる。
その姿に男性陣から一斉に「おおーっ!」と言う声が上がった。
恥ずかしいのと眩しいのとでうつむき加減の雪見は、
真っ白なリゾートドレスを着て、大きなつばの白い帽子を被っている。
大胆に背中の開いたドレスは、首の後ろでリボンが結ばれており
すらっと細くて長い腕は、ドレスの裾を軽くつまんで持ち上げていた。
見とれる健人と当麻に歩み寄って雪見は、
「お願いだから、あんまり見ないで!」と後ろを向く。
が、背中が丸見えだったことに気づき、慌てて前を向き直した。
「凄く綺麗だから自信を持ちなって!
なんか、俺たち二人が地味に見えちゃうのは気のせい?」
当麻が、前で見ている牧田に向かって自分の衣装を指差す。
「違うって!当麻くん達の衣装が悪い訳じゃないよ!
予想以上に雪見ちゃんが凄かっただけ。今まで着せた衣装とは全く
正反対だから、ここまで似合うとは想像してなかった!」
ベテランスタイリストの牧田でさえ考えていなかった、雪見の持つ
不思議な力。
彼女もまた着替えてメイクをした途端、健人たちと同じく圧倒的な
オーラを放ってくるのであった。
それをじっと観察していた愛穂は、なんだか久しぶりに胸が高鳴るのを
感じた。
『ハリウッドで初めて大スターを撮した時のドキドキ感に似てる。
この雪見って人、カメラマンだって言うけど、ほんとにそうなの?
さっきまでは冴えない人だと思ってたけど、着替えたら別人になった。
大層な仕事じゃないなって、適当に片付けようと考えてたけど
なんだか急にカメラマン魂に火がついたよ!』
プロカメラマンの鋭い目になった愛穂は、大きな声で撮影のスタートを告げた。
「じゃ、みなさん、よろしくお願いします!」