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沖縄旅行出発の朝

雪見の家に、子猫のラッキーが来てから二日目。

いよいよ今日は、待ちに待った沖縄旅行出発の朝だ!

東京は快晴。沖縄も今日は暑いでしょう、とテレビのお天気ニュースが

伝えていた。


「うーん、いい天気!こりゃ紫外線対策は万全にして行かないと

帰って来てからひどい目に遭いそうだな!」


窓の外の太陽は朝の六時だというのに、すでに容赦なくギラついてる。

東京でこんなんだから、沖縄はどんな事になってるんだろう。暑さを想像し少しビビッていると、めめが伸びをしながら足元に来た。


「めめ、おはよう!ラッキーはまだ寝てるの?

今日から三日間またお留守番だけど、ラッキーといい子にしててね!」


そう言いながらめめの頭を撫でて、餌と水をあげる。

トイレの砂も綺麗にしてラッキーの餌を準備してると、

玄関のインターホンが鳴った。


「え?もう早、真由子が来ちゃったのぉ?早すぎるから!」


バタバタと玄関に向かい「はーい!」とドアを開けると

なんとそこには健人が立っているではないか!


「ええっ!健人くん?どうしたの、こんな朝から!」


雪見はまだ化粧もしていなかったし髪も整えていない、

ほぼ寝起きの状態だったので、突然の健人の訪問に焦りまくった。

恥ずかしくて、このままドアを閉めてしまおうかとさえ思っていた。


「おはよう!ゆき姉。ラッキーは元気?ちょっと上がってもいい?」


いいよ、と言う前にすでに健人は靴を脱いでしまった。

そして一目散に玄関を上がり、ラッキーがまだ眠っている居間の

薄汚れた段ボール箱の前にペタンと座り込んだ。


「ねぇ、こんな朝っぱらからラッキーに会いに来たの?」


「だって、今日から三日間は会えないじゃん!

沖縄行く前にどうしても会いたかったから!迷惑だった?」


健人は、雪見のすっぴん顔やボサボサ頭など眼中に無いらしく、

ただひたすら箱の中の小さな命を見つめていた。

雪見はそんな健人が微笑ましく、本当にこの人も猫が好きなんだなぁ

と、優しい気持ちになって一緒に箱の中を覗く。



「あ!起きた!ラッキー、おはよう!元気だったか?」


そう言いながら、健人は箱の中から白い子猫を取り出し頬ずりした。

猫砂の入ったトイレの中にそっと降ろして排泄を待つ。

すると子猫は、肉球に砂の感触を確かめたかと思うと

誰に教わったでもなく、きちんとおしっこをした。


「えらいえらい!ちゃんとおしっこも出来るじゃん!

じゃあ次はご飯を食べなさい。お水も飲むんだぞ!」


健人は付きっきりで子猫の面倒を見ている。まるでお母さんのように。

雪見はそのすきに化粧をし髪をセットして、何食わぬ顔をしていた。


「健人くん、旅行の準備は出来てるの?七時半には迎えの車が来るんだよ!」

「大丈夫!もう準備は終わってる。もう少ししたら帰るから。

それより、留守中のこいつらの世話は、誰かに頼めたの?」

健人が急に心配そうに聞いてきた。


「真由子に頼んだら二つ返事でOKしたよ。

健人くんの拾った猫のお世話をお願い、って言ったら速攻、

有給三日間取ったから!って電話が来た!

七時には来ると思うから、その前に帰らないとまた大変な騒ぎに

なっちゃうよ!」


笑いながら雪見は健人の方を見る。

健人は、それは大変だ!とばかりに腰を上げ、「じゃ、帰る!」と

最後にめめとラッキーの頭を撫でて玄関に向かった。


「じゃあ、またあとでね。あ、そうだ!健人くん、カメラ持ってる?」


雪見が突然思い出したように健人に聞いた。


「え?カメラ?家にあるよ。今やってるカメラのコマーシャル撮りの時

スポンサーさんからもらった最新のデジカメ!それがどうかした?」


「それ、沖縄に持って来て!当麻くんには私のを貸してあげるから。」


「何しようとしてんのさ。」  訝しげに健人が雪見に聞く。


「どうせなら思い出に残るロケにしたいなと思って。

ちょっとした事を計画中だから、帰ったら忘れないで鞄に入れてね、

カメラ!」


「えーっ!今教えてくれないのぉ?気になるじゃん、そういうの!」


「いいからいいから。向こうに行ってのお楽しみ!

じゃ、真由子が来ちゃうから早く帰って!またあとでね。」


健人を追い立てるようにして玄関から押し出した雪見は、

急いで出掛ける準備を始める。

猫の餌を三日分出して置き、真由子のためにコーヒーを落とす。

パソコンでメールをチェックし、植物に水をやった。


そうこうしてるとまたインターホンが鳴って、今度こそ真由子が

やって来た。


「おはよー!しばらくだね!元気だった?」


いつもの真由子の朝より、遙かにテンションが高い。

しかも約束の時間まで、まだ三十分もあるというのに…。


「ずいぶん早かったね!休む前だから昨日は残業したんでしょ?

もっとゆっくりで良かったのに。」


「健人の猫にお目にかかるのに、ゆっくりなんてしてられないよ!

うわぁーっ!これが健人の猫ちゃん?かっわいいー!!

なんて名前にしたの?」


「ラッキーだよ。健人くんが付けてくれたの。」


「ラッキー?なんでそんな犬みたいな名前つけたんだろ?

あんまりセンスないね、健人って。」


「相変わらず容赦ないね、あんたって。

別にいいでしょ!猫にラッキーって付けたって。

健人くんが付けてくれたんだから、何だっていいの!」


雪見がプンプンと怒り出したので真由子は可笑しかった。


「はいはい、ラッキーちゃんでいいですよ!ラッキーちゃんで。

そんなことはどうでもいいけど、あんた、霧島可恋には充分気をつけなさいよ!」


「えっ!何かわかったの?」 雪見は急にドキドキしてきた。


「パパにも頼まれたから、いろんな方法で彼女の事調べてみたけど、

かなり手強そうな女ね。

あんな頭悪そうに見えるけど、実はハーバード大学出身だった。

編集部にある履歴書やなんかは、すべて改ざんされてる。」


「秀才じゃない!なんでプロフィール隠してんだろ?」


「判っただけでも二人、彼女に潰されたアイドルがいたよ。

みんな似たような手口ね。かなり嫉妬深い性格らしい。

しかも頭いいから、上手く情報を操作してる。

あんた達も細心の注意を払った方がいい。沖縄でも気をつけなよ!」



真由子の話を聞いて、雪見の不安は本格的なものになってきた。

沖縄での三日間、何も起こらないで!と祈るような気持ちだ。


そろそろ迎えの車がやって来る。出発の時から気は抜けない。



だけど絶対にこの写真集の完成までは、何人たりとも邪魔はさせない!


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