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新しい家族と一緒

段ボール箱を覗いた二人は、顔を見合わせる。

箱の中には白い子猫が一匹、小さく丸くなって闇夜に紛れていた。


健人は、子猫を驚かせないよう静かに箱の中に手を入れて

その小さくか弱い生き物を、そっと両手で持ち上げ話しかける。


「お前、いつからここにいたんだよ!こんなに冷たくなって…。

ゆき姉、どうしよう!こいつ、体温下がってるから弱ってると思う。」


健人の瞳は何かを雪見に訴えていた。


その日の夜はやけに空気が冷たく、気温が低いことが伺える。

健人も雪見も、家で飼ってる猫はすべて捨て猫なので

経験的にその子猫が、今どういう状況にあるのかは大体判断がついた。


雪見も子猫の頭を撫でながら、

「そうだね、このままじゃまずいな。早く家に連れて行って、

湯たんぽを入れてあげよう。健人くん!箱ごとうちに運んでくれる?」

と、健人を促した。


すると健人は、びっくりしたような嬉しいような顔をして雪見を見た。


「えっ!ゆき姉んちに連れて行ってもいいの?こいつ!」


「当たり前でしょ!このまま箱に戻して知らん顔して帰れると思う?」


「いや…。でもいいの?ゆき姉んち。」健人が心配そうに雪見に聞く。


「大丈夫!最近ね、めめが一匹じゃ寂しいかな?と思ってたとこなの。

次に私が出会った子猫をうちの家族にしよう、って

心のどこかで考えてたんだ。

だから大丈夫。この子はうちで飼ってあげるから。」


「ほんとに?やったぁー!

よかったな、お前!ゆき姉んちの家族になれるって!

俺たちに拾ってもらってラッキーだったな。

じゃあ、早く連れてって温めてあげなきゃ。」


嬉しそうに健人は子猫を箱に戻し、そっと箱のふたを閉めて

両手で大事そうに抱えた。

その瞳は喜びに満ちていて、見ている雪見の心も嬉しくなった。


「さぁ、うちに帰ろう!」




「ただいまぁー、めめ!お友達を連れて来たよー!」

「え?俺のこと、お友達ってめめに言ってんの?」

「なにバカな事言ってんの!この子の事に決まってんでしょ!」

「あー、ビックリしたぁ!彼氏から格下げされたかと思った!」


雪見んちの玄関先が真夜中に、楽しそうな声で賑やかになった。


突然出掛けて行ったご主人様が、何やら同じ匂いのする箱と共に

帰ってきたかと思うと、バタバタと歩き回るのを見てめめは、

何事かと静かに健人に近寄ってきた。


「よぅ!めめ!ゆき姉がお前に友達を連れて来てくれたぞ!

仲良くしてやってくれよな。」


そう言いながら健人は、箱のふたを開けてめめに新入りを紹介する。

めめは一瞬驚いてピョンと体を翻したが、すぐにまた近寄って

箱の中の小さな同類を確認し出した。


程なく雪見が、小さな湯たんぽにお湯を入れて持って来る。

薄汚れた箱はそのままに、中にバスタオルを二枚敷いてやり

そこにタオルでくるんだ湯たんぽを置いて、子猫を近くに寄せた。


子猫は、母親の体温にも似た温もりに安心したかのように

しばらくすると目を閉じて、眠りについた。


「朝になったら猫缶あげてみるね。多分もう離乳はすんだ頃だと思うから。

ちょっと待っててね、今コーヒー入れて来る。」


雪見が子猫の様子を見て、一安心したようにキッチンに戻る。

健人もやっと一息ついて、ソファーに腰を下ろす。

めめはいつまでも、箱の中の白い小さな友達を見守っていた。



「健人くん。カフェオレだけど良かった?」 

雪見が、お揃いのマグカップを二つ持って、ひとつを健人に手渡し

自分も健人の隣りに座った。


「うん、ありがとう!あれ?このカップ、お揃い?」


「そう!健人くんと私用に買って来たの。

あ、当麻くんのも買ってあるよ!色違いのカップ。」


雪見が自分を、この部屋に迎える準備をしてくれていた!

健人は嬉しくて、隣りに座る雪見の肩を抱き寄せた。

雪見は、マグカップを片手に健人の肩に頭を傾け、静かに語りかける。


「ねぇ。この子の名前、なにがいい?健人くんが付けてあげて。」


「えっ、俺が?いいの?俺が名前付けても。」


「もちろん!だってこの子は健人くんが救った命だもん。

健人くんが、今日この時間にあの公園へ行かなかったら

この子の命はどうなってたか解らないもの。どうしてここに来たの?」


「ゆき姉と別れた後、当麻に用事を思い出して今野さんに、当麻んちへ

送ってもらったんだ。

で、帰って来る途中で、どうしてもゆき姉に会わないと帰れない

気がしてきて、気が付いたらここでタクシーを降りてた。」


「そうだったの…。じゃあやっぱり健人くんがこの子を拾うのは

運命だったんだ。この子が健人くんを呼んでたんだよ、きっと。

ここにいるから迎えに来て!って…。

私ね、そういう運命ってよく感じるの。

あ、今ここに来てこの人に出会ったのは偶然じゃなくて

必然だったんだ!って思う事がよくあるんだ。」


「俺に会った時も?」 健人が雪見の顔を覗き込んで聞いてみる。


「そう!じゃなかったら、ただのはとこでしかなかったよ。

健人くんが私を呼んでいた。俺を救いに来て!って。」


雪見は真剣な顔をしてそう言った。健人の瞳をじっと見つめて…。


「俺もゆき姉に救ってもらいたかった…。」


二人は初めて唇を合わせ、運命の出会いに感謝した。

そして……。




いつの間にか二人はソファーで眠ってしまったらしい。

朝陽を顔に浴び眩しくて目を覚す雪見。時計を見ると六時であった。

そっと健人の腕枕から身体を起こし、顔を洗って身支度を整え

キッチンに入って朝食の準備をする。


健人の今日の仕事は九時からだから、八時に家に戻れば充分間に合う。

すやすやと気持ちよさそうに眠る、健人の綺麗な寝顔を眺めながら

雪見はひとり、この上ない幸せな時間を過ごしていた。



と、その時、子猫の入った段ボールのふたがぽこりと動いたかと思うと

ぴょん!と勢いよく白い子猫が箱の外に飛び出した!

そばにいためめがビックリして、50cmくらいは飛び退いた。


「健人くん、起きて!子猫が元気になったよ!猫缶あげなきゃ!」


雪見の声に目を覚した健人は、一瞬ここがどこであるのか理解できず

キョロキョロと辺りを見回した。

そして子猫を見つけて昨日の出来事を思い出す。


「うゎあ!お前、凄い元気になったな!良かったぁー!

ゆき姉、こいつ元気になったよ!」


昨夜の事を思い出し、少しお互い照れくさかったが

白い子猫とめめを間にして幸せを噛み締めていた。


「そうだ!この子の名前はラッキーにしよう!

ゆき姉んちの家族になれてラッキーな奴だから。」



夏の終わりの朝陽は、幸せそうな二人の元に優しく届いていた。


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