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当麻との約束

当麻は今日、9時過ぎには家にいるから、と言っていた。

仕事帰りに寄ってもいいよ、と。

マンションの下から電話を入れる。


「もしもし、当麻?俺だけど。今、下まで来てるんだけど、少しだけ

寄ってもいいかな?話があるんだ。」


当麻にオートロックを解錠してもらい、12階までうつむき加減で

エレベーターに乗る。



「よぅ!お疲れ!あれ?ゆき姉は一緒じゃなかったの?

まぁいいや。はいんなよ!」


「おじゃましまーす!」


当麻の部屋は、いついかなる時に来ても整理整頓されていて

汚い状態なのを見たことがない。

一方健人の部屋はと言うと、親友の当麻を部屋に呼ぶ時でさえ

大掃除をしてからでないと入れられない。

掃除に料理、家事一切が得意な当麻に対して健人は、

掃除が苦手だし、料理に至ってはリンゴの皮さえむけやしなかった。


「なんでお前んちって、いつ来ても綺麗なの?

忙しいのに掃除してる暇なんてある?

あ、もしかして、誰か掃除してくれる人でも見つかった?」


そう言ったあと健人は、少し意地悪な質問だったかな、と後悔した。


「そんな人、すぐに見つかる訳ないだろーが!もし見つかったら

ちゃんと真っ先に報告するよ、健人には。

で、そんな話をしに来たわけじゃないよな?なんかあったの?」


意地悪な質問をサラッと流してくれたので、取りあえずはホッとする。



「今日、ドラマのクランクアップだったんだけど…。」


「え、そうなの?おめでとう!三ヶ月間お疲れ様でした!

で、打ち上げはいつやんの?」


「俺が沖縄から帰ってきてから。そんな事はどうでもいいんだけど…。

クランクアップの花束を俺にくれたのが、カレンだった。

『色々大変なことも有りましたよね。』って。」


「まぁ、ドラマの主役を張るのは確かに大変なことだから…。

でも、そういう意味には捉えなかったんだろ?健人は。」


「まぁね。そのあと、スタジオを出ようとしたら後ろに立ってて、

『もっと早くに親しくなってたら、こんな目に遭わなかったのに。』

って…。しかも、俺たちが沖縄に行くことも知ってたよ。

『私も行きたい!』って言ってた。」


「嘘だろ!それって、完全な犯人宣言だよな!

なんか嫌な予感がする。まさか沖縄まで行く気してんじゃないだろな。

で、この事はゆき姉には話したの?」


当麻はなんせ雪見の事が心配でならなかった。

そんなことを聞いたら雪見は…。


「ゆき姉には言ってない。余計な心配させたくないから、言わない。」


当麻はホッとした。


「そう。俺も言わない方がいいと思う。

もしかしたら何もなく、平和に旅行が進むかもしれないし、

カレンが何か仕掛けて来るかも知れない。

どっちか解らないのなら、ゆき姉には何も知らずに旅行を楽しんで

欲しい。」


「俺もそう思う。ゆき姉、本当に楽しみにしてるんだ。

俺と当麻と三人で行けるって事が…。

だから何かが起こるまでは内緒にしておこう。

当麻。俺と一緒にゆき姉を守ってくれるよね?」


「当たり前じゃん!守るに決まってる!前に話しただろ?

俺にとってゆき姉は姉貴みたいな存在だって。

あ、俺が健人の彼女を姉貴みたいって思うの、健人は迷惑かな…。」


今まで一度も聞いたことがなかった大事な事を、急に聞いてみたくなった。

本当は『姉貴みたいな存在』では、今はもう無いのだけれど…。



「俺、当麻がゆき姉のことをそう思ってくれるの、凄く嬉しいよ。

当麻は初めてゆき姉に会った時から、ちゃんと受け入れてくれたよね。

俺ね、こんな関係がずーっと続いてくれたら毎日が楽しいだろうな、

って思うんだ。

いつまでも三人で一緒に、いろんな事を楽しみたい。

ゆき姉も、きっと同じ事を思ってると思うよ!」


「そう。だったら良かった!

俺も思ってる。この関係がいつまでも続くといいな、って。」


二人はお互いの雪見に対する思いを確認し合い、

全力で雪見を敵から守ることを約束した。


「じゃあ、俺帰るわ。悪かったな、遅い時間に。

俺も帰ったら荷作りしなきゃ!当麻も忘れ物するなよ!」


そう言って健人は当麻のマンションを後にした。




タクシーでの帰り道。


「あ、ここで止めて下さい!済みません、降ります。」

降りて見上げたのは、雪見のマンションであった。


無意識にここへ来てしまった。

つい一時間ほど前に別れたばかりなのに、もう顔を見たくて仕方ない。

一目会ってからじゃないと、帰れない気がした。


電話をかけてみる。


「もしもし、ゆき姉?」 健人の顔がパッと花開いた。

「今、少しだけでいいから会えない?いや、ゆき姉んちには寄らない。

近くの公園で待ってるから。肌寒いから温かくして来てね。」


健人は電話を切り、ひとり公園へと歩き出す。

そこの公園は雪見がめめを拾って来た公園で、今も捨て猫が絶えない

と、雪見は話してたことがある。


こんな真夜中に遊んでる奴なんて、さすがに一人もいなかった。

程なくして、雪見が息せき切って走ってくるのが遠くに見えた。


「おおーい!ゆきねぇーっ!」 健人が両腕を頭の上で大きく振る。


ハァハァ肩で息をしながら、雪見が健人の元へ走って来た。

その瞬間、健人は「ゆきねぇ!」と言いながら思いきり抱き締める。


「ちょっとぉ、健人くん!どうしたの?なんかあったの?」


こんな真夜中にいきなり呼び出され、突然抱き締められて

雪見は健人の身に何かあったのではないかと、心配になった。


いつまでも離れない健人にドキドキしながらも雪見は、

「ねぇ、何があったのか教えて!」と、健人の事だけを案じていた。


健人は雪見をギュッと抱いたまま、

「なんにもないよ!ただゆき姉に会いたくて仕方なかっただけ。

ずっと会いたかった…。」


「変なの!さっきまで一緒にいたのに。でも嬉しいよ。

私も健人くん、どうしてるかなぁーと思いながら、荷作りしてたから。

私も会いたかったよ。」


今度は、雪見が健人の身体をギュッと強く抱き締めた。

いつまでもいつまでも、まん丸お月様だけが二人を見守る。


その時だった!


どこからか、微かに「にゃぁ」という声が聞こえた気がした。

が、気のせいか。それっきり声は聞こえない。


二人は身体を離し、声が聞こえたであろう方向に目を凝らす。

するともう一度、小さな声で「にゃっ」とだけ鳴いた。


慌てて二人で駆け寄る。すると木の根元に段ボール箱が!



「子猫だっ!!」


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