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やはりの犯人


当麻のマネージャーからの電話で、雪見の部屋は真夜中の

とんでもないお祭り騒ぎとなった。


一週間後に二泊三日の予定で、沖縄の石垣島へ健人の写真集の

撮影に行く、という話だった。

しかも、当麻とのプライベート旅行という設定なので、

健人と当麻、プラスカメラマンの雪見の三人旅行が実現するのである。


「ほんとにホント?この三人で旅行に行けるの?うそみてぇ!!

やったじゃん!記者会見で言った事が、本当になった!マジ嬉しい!」


健人の喜びようと言ったらなかった。

さっきは雪見からもらった鍵に大喜びし、今度は雪見と当麻との

旅行である。嬉しいに決まってた。


もちろん雪見も当麻も、念願叶って喜んでいた。


「マネージャーさん達、会見の後は怒ってたのにね!

健人が勝手な発言した!って。なんでそれが急にOKになったの?」


「吉川さんが事務所に掛け合ってくれたらしいよ!

『ヴィーナス』で、俺と健人二人の特集を組みたい、って。

で、そのグラビア撮影を沖縄で、って話みたいだよ。」


当麻がそう言うと、健人は「なーんだ、仕事かよ!」と渋い顔!


「俺はてっきり三人だけで沖縄旅行して、ゆき姉に写真集の写真、

撮してもらえって話かと思った!」


「そんなウマイ話はないでしょ!まぁ、完全なプライベート旅行の

撮影は幻になったけど、仕事絡みででも三人で沖縄行けるんだから

吉川さんに感謝しなくっちゃ!

まぁ、私は二人が仕事中は、のんびり沖縄を楽しませてもらうけど。

私の仕事は、二人のプライベートな時間を撮すとこからがスタート

だから。」


雪見の言葉を当麻が否定する。


「え?ゆき姉も俺たちと一緒に仕事だよ!

『ヴィーナス』で写真集の連載が始まるんでしょ?

健人を撮すゆき姉の姿を追う!みたいなやつ。

あれの撮影も同時にやるから、『ヴィーナス』からはカメラマンが

二人同行するって。」


「えーっ!そうなのぉ?少しのんびりしようと思ったのに!」


「自分だけ遊んでようなんて、考えがあまーい!」


三人の間には、幸せな笑い声がいつまでもこだましていた。


すっかり彼女のことなど、この浮かれ気分の中では忘れ去っている。

攻撃を仕掛けてきた、霧島可恋のことなんか…。




それから五日後、健人のドラマがクランクアップした。

スタジオで撮影スタッフからねぎらいの言葉をかけられ、

出演者一人一人に大きな花束が手渡される。


最後に主演である健人に花束を持って歩いて来たのは、

なんとカレンであった。


彼女は微笑みながら近づき、少し小首を傾げて健人の前に立ち止まると

「お疲れ様でしたぁ!色々大変な事もありましたよねぇ!

私はとっても楽しかったですけど。

これからもどこかでお会い出来る日を、楽しみにしています!」

と、スタッフを代表して挨拶をしてから花束を手渡した。


カレンは、健人の瞳からギリギリまで視線を外さない。

笑顔でありながら瞳は笑ってはいないことが、すぐにわかった。


健人はもちろん、スタジオの片隅で見守る雪見と今野も

カレンの不敵な笑みと意味深な挨拶に、背筋が一瞬ゾクッとする。


健人は努めて平静を装い、主演俳優としての最後の挨拶を

しっかりとこなすことに全神経を集中させた。



三ヶ月お世話になったスタジオを健人が出ようとした時、

後ろから肩をたたかれ振り向くと、なんとカレンが立っている!


「おまえっ!」 思わず健人はカレンをそう呼んでしまった。


「あら、嬉しいわ!私のこと、そんなに親しげに呼んでくれるなんて。

もっと早くに親しくしてたら、こんな目に遭わないで済んだのにね。

あ、そうだ!あさって、当麻くん達と沖縄に撮影に行くんですって?

いいお天気だといいですね。いいなー、沖縄!私も行きたい!

じゃあ、良い旅行を。」


カレンは笑顔で一方的にそれだけ健人に伝えると、堂々とスタジオから

出て行ってしまった。


『これではっきりした。やっぱりすべての犯人はあいつだ!』


カレンからの宣戦布告に健人は、明後日の沖縄行きが急に不安になる。

あんなに楽しみにしてきた三人の旅行が、突然恐怖の対象になった。

漠然と、いや確信的にあいつがまた何か仕掛けてくると身構えた。



スタジオの外では、出て来るのが遅い健人を雪見が心配している。

健人の姿を見つけると、雪見の表情がパッと明るくなった。


「遅かったね!みんなに挨拶は済んだ?

少し急がないと次の取材に遅れちゃうよ!今野さんは車に乗ってる。」


「わかった。急ごう!」


足早にそこを立ち去り、雪見と二人で車へと向かう。

先ほどのカレンとのやり取りを、雪見に話そうかどうしようか迷いながら…。



その日、すべての仕事が終わったのは夜の十一時過ぎだった。

ほとんどが新しい写真集関連の取材だったので、

健人と雪見、二人揃っての仕事であった。


雪見も同じ事務所に入ったので、仕事の送り迎えは今野がしてくれる。

行きは健人を乗せてから雪見を拾い、帰りは雪見が降りてから

健人を送り届ける。


「疲れたでしょ?ゆき姉にとっては初めての事ばっかだもんね。

慣れるまでは大変かもしれない。」


「うん。さすがにこの年になると、体力の低下は隠せないわ。

でも、精神的には全然平気!健人くんが隣りにいてくれるんだもん。

私一人じゃあり得ないけど、健人くんと一緒なら取材も楽しい!」


車の後部座席に二人は身体を沈めながら、今野に見つからないように

そっと手をつなぐ。

健人は、これ以上雪見を心配させたくはなかったので、

スタジオでカレンに言われた言葉は黙っていることにした。


『でも、当麻には伝えておかないと…。

二人でゆき姉を守る約束をしたんだから。』


「今日は帰ったら、沖縄へ行く準備をしないと!

あさって、お天気だといいなぁー。

あ!日焼け止めも忘れないで持っていかなくちゃ!」


雪見の嬉しそうな顔!そんな笑顔を消したくはなかった。



「じゃ、お疲れ様でした!明日もよろしくお願いします!

健人くん、また明日ねっ!」


そう言って雪見が車を降りたあと、健人は今野に伝えた。


「今野さん。悪いけど当麻んちに寄ってもらえますか?

ちょっと話があるんで…。帰りはタクシーを呼びますから。」



今野はUターンをし、当麻のマンションへと向かう。


健人が降りる間際、「ちゃんと話し合えよ!」と、含みを持たせた

言葉で健人を送り出した。









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