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友情と愛情と

三人で真夜中のフルーツを食べていると、一体何故自分たちが

ここ、雪見の部屋に駆け込んだのか、一瞬解らなくなる。

ただ、飲み会の後に立ち寄った訳ではなく、敵からの攻撃から逃れて

タクシーに飛び乗ったことを、当麻と雪見は思い出していた。


だが健人だけは、未だなぜ自分が当麻と一緒に雪見の部屋にいるのか、

腑に落ちないでいる。

今まで、まだ一度も雪見の家には訪れたことが無かったのに。


「ねぇ!なんでゆき姉んちに来ることになったのさ。

俺の記憶、どっかに落として歩いたみたい。

猫かふぇ出てからの記憶が飛んでるんだけど…。なんかあったの?」


雪見が切って盛り付けたフルーツバスケットの中から、

大好きな桃をフォークに刺し、幸せそうに頬張りながら健人が聞いた。

が、当麻も雪見も表情を固くし、すぐには返事をしなかった。


その瞬間の沈黙を健人が感じないわけはなく、

即座に「何があったんだよ!」と二人を問いただす。



いつまでも隠しておく訳にはいかないだろう…。

当麻が、健人の動揺を予想して、努めて淡々と話し始めた。


「猫かふぇ出て歩いてたら、すれ違った奴らが言ってたんだ。

『あの三人が三角関係だって、さっきツィッターで見た!』って…。」


「嘘だろ!誰がそんなこと…。」


そう言いながら健人の頭の中には、すぐにあの女の顔がちらついた。


「カレン、か…。」


「何も証拠がないから確かな事は言えないけど、これまでの流れからすると、

霧島可恋ってとこだろう…。次の攻撃って訳だ。」



健人は、当麻の『次の攻撃』と言う言葉に、頭の半分が恐怖を感じつつ、

もう半分の頭は『三角関係って?』という、新たに襲ってきた驚異に

恐れおののいていた。


ここにいる誰もが、『三角関係』について突き詰めていくことを、心の奥で拒んでいる。

でも、そこをはっきりさせないと、次に進んで行けないこともよくわかっていた。


三人の間に、今までには無かった様々な心の葛藤が生じた。

疑心暗鬼、失望、落胆…。

誤解?ただのデマ?犯人の作戦にまんまと引っ掛かってる?

でも、火のない所に煙は立たず…。

色々な考えが湧いてきて、頭の中がグチャグチャになる。



健人は、これ以上あれこれ考えてもらちが明かないと思い、

面倒な所をショートカットして強引に沈黙を打ち破り、次に進めた。


「ねぇ。で、この事を誰かに伝えた?」


雪見と当麻は、まだ『三角関係』という言葉の上で足踏みしてたので、

健人のこの質問に少し面食らった。


「え?あ、あぁ。さっきうちのマネージャーと吉川さんに連絡した。

今野さんには、うちのマネージャーから連絡してもらってる。」


当麻が答えたあと、すぐにケータイが鳴った。吉川からであった。



「あ、吉川さん?当麻です。済みません、こんな夜中に。

はい、ええ、そうなんです。ええ…事実ではありません。はい、はい。

二人に伝えます。ご面倒をおかけしますがよろしくお願いします!」


『事実ではありません。』と、確かに当麻は言ったと二人は思った。

当麻と吉川の会話の内容を、早く他の二人は知りたかった。


「なに?なんて言ってた?吉川さん。」

待ちきれずに、当麻が電話を切ったあとすぐに、間髪入れず健人が聞く。


「ツィッターで発信される情報は、デマも多く含まれてると

読む方もわかって読んでるから、デマだということで押し通せ、って。」



健人は、聞かずに済むなら聞かないでおこうと思っていた事を、当麻に聞いてみた。


「『事実ではありません。』って、当麻答えてたよね…。

あれって、本当に信じていいんだよね…。」


同じ質問を、雪見にするつもりはない。自分への愛は疑ったことがないから。

雪見のことを信じているから…。



当麻は、自分が答えるべき言葉はこのひとつしかない、と思い

穏やかな笑みを浮かべ、健人の瞳を真っ直ぐに見つめて答えた。


「信じていいよ!俺を信じて。

だって、ゆき姉は健人の彼女だよ?親友の彼女を、俺が好きになると思う?

そんなのあり得ないでしょ!

あ、でも誤解されてるとしたら俺のせいだね、ごめん!」


当麻は精一杯明るく、いつも通りの当麻を見事に演じた。

心の中で溢れそうな涙をこらえて…。


健人も、自分の中にあった当麻への疑惑を、封印することにした。

それで三人の関係が元通りになるのなら…。



健人のマネージャーも、当麻のマネージャーも、見解は吉川と一緒だ。

これを無視することによって、益々敵の攻撃は激しくなることが予想されるが、

一切を無視する方向で意見がまとまったらしい。


明日から本格的に写真集のプロジェクトが動き出すので、

一生懸命仕事をすること!

それだけを伝えて今野は、何一つ健人達を叱ることもせず電話を切った。



ホッとする三人の前に、どこかで寝ていた雪見の飼い猫、

茶トラ猫のめめが、そろりそろりと近寄ってくる。


「うわぁ!めめだよな、お前?初めまして、俺、健人。よろしくなっ!

なんか、うちの虎太郎にそっくりなんだけど!

コタとプリンに会いてぇ〜!」


そう言いながら健人と当麻は、代わるがわるめめの頭を撫でてやった。

普段人見知りのめめも、何故かこの二人にだけは

気持ち良さそうに身体を撫でらせる。


「ふーん!やっぱりめめも、ちゃんと一瞬で見分けるんだ。

猫が苦手な友達の前には、絶対に出て来ないもん、この子。

健人くんと当麻くんは合格だって!

あなた達には、今日からこの部屋の出入りが許可されました!」


「うそ?いいの?これからもゆき姉んちに遊びに来ても。」


健人が目を真ん丸にして雪見に聞いた。


「うん、いいよ。コタとプリンには、なかなか会いに行けないけど、

ここにならいつでも会いに来れるでしょ?コタもどきのめめに。

それと、はい!これ健人くんにあげる!」


そう言いながら雪見がポケットから取り出したのは、一本の鍵であった。


「これ、ここの合鍵!いつでも好きな時に使っていいよ、この部屋。

当麻くんも、健人くんと一緒に来てもいいからね。

その代わり、めめのトイレだけは汚れてたら掃除してやってねっ!」


雪見からの突然のプレゼントに、健人と当麻は顔を見合わせた。


「ホントにいいの?」


健人が半信半疑で雪見の顔を伺うが、雪見はニコニコとしたままだ。



その時、当麻のケータイが着信を伝える。マネージャーからだ。


「もしもし!お疲れ様です!また何かありました?」

一瞬、三人の間に緊張が走る。


「え?うそ!ほんとですかぁ?やったぁ!ありがとうございます!

今、まだ三人一緒にいるんで、二人に伝えます!はい、わかりました!」


電話を切った当麻が、喜びを爆発させた!



「三人で沖縄に、健人の写真集のロケに行く、だって!」





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