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笑顔の記者会見

「本日は、お忙しいところを当出版社にお集まりいただき、

誠にありがとうございます。

本日司会を務めさせて頂きます『ヴィーナス』編集部、藤原と申します。

どうぞよろしくお願い致します。

それではただ今より、『ヴィーナス』プレゼンツ斎藤健人写真集の

制作発表会を行わせていただきます。

まずは本日の主役、俳優の斎藤健人さんの登場です!どうぞ!」



健人はステージ脇から出る時に、雪見に小さくVサインをし

「お先にっ!」と笑顔で言い残して颯爽と登場して行った。


一人になった雪見は急に緊張感が増し、全身からドキドキとした音が

聞こえるのではないかと思うほどだったが、

一緒にステージ脇に待機していたヘアメイクの進藤が

すぐに雪見の隣に駆け寄り、手を握って「大丈夫よ!」とはげました。



「次に、本日はもう一人、素敵な主役をお呼びしております。

今回の写真集のカメラマンであり、斎藤さんとは親戚同士でもある

浅香雪見さんです!どうぞこちらへ!」


司会者に促され、とうとう雪見の出番がやって来た!


進藤が「いってらっしゃい!」と微笑んで背中を押した。

その声を合図に雪見は頭を切り換え、ふぅーっと大きく息を吐いたあと

背筋を伸ばして笑顔で「行ってきます!」と、健人の待つステージへと歩いて行った。


その姿は、つい先ほどまでのガタガタと震えていた雪見とは別人で、

一瞬誰かが乗り移ったのではないか、と見ていた誰もが思うほどに

堂々とした後ろ姿であった。

ステージ上では、健人に負けないぐらいのフラッシュを浴びている。



「やっぱり、彼女はただ者じゃないな…。これからが楽しみだ。

きっと何をやらせても上手くこなすだろう。

ただのカメラマンにしておくなんてもったいない!」


横で見ていた編集長の吉川が、腕組みをしながら進藤に言った。


「ええ。彼女はこれから一気にブレイクする気がします。

編集長!これから私たちも忙しくなりそうですよ!感張らなくちゃ。」


自分自身に気合いを入れるように進藤が、雪見を見ながらそう言った。



「では、本日の主役お二人が揃ったところで、改めてご紹介致します。

皆様もご存じの、今、日本を代表する若手人気俳優として

各方面でご活躍中の斎藤健人さんです!ご挨拶をどうぞ!」


「皆さん、こんにちは。斎藤健人です。今日はお忙しいところ、

こんなにもたくさんの方にお集まりいただいて感謝してます。

そして、今皆さんが、僕のことより気になさっていると思われる隣の女性を、

僕の方から紹介させて下さい。

今回の写真集のカメラマンを務める、浅香雪見さんです!」


まだまだ健人の挨拶が続くと思って聞いていたのに、

いきなり健人に振られ、慌てて雪見が頭を下げて挨拶をした。


「皆さん、初めまして!フリーカメラマンの浅香雪見です。

今回生まれて初めて、このような場所に立つので、とても緊張しています。

上手くお話できるかわかりませんが、どうぞよろしくお願い致します。」


雪見は笑みを絶やさず、緊張していると言いながらも落ち着いて話した。

そして健人は、続けて雪見と自分との関係を説明する。

この前の噂を封じ込めるように…。



「雪見さんと僕とは、おばあちゃん同士が姉妹と言う、はとこ同士の関係です。

彼女は僕より一回りも年上で、僕の生まれた時からを全部知っている、

ちょっとお母さん的な存在です。」


健人が雪見の方を見ながら笑って「お母さん的な存在」と言ったので、

会場の記者たちの間から笑いが漏れた。


健人はあえて「お姉さん的」ではなく「お母さん的」と言った。

それは、そう言った方が「彼女?」という疑いの眼差しから

少しでも遠ざかるかと咄嗟に判断して言った言葉だった。

まぁ、隣の雪見は相当渋い顔をしていたが…。



司会の藤原が、健人の言葉のあとを継いだ。


「浅香さんは今まで、数多くの猫の写真集を出版なさっている

フリーカメラマンでいらっしゃいます。

今回、写真集のコンセプトが『素の斎藤健人』である事を受け、

一番斎藤さんが素顔をさらけ出せるカメラマンである浅香さんに

撮影をお願い致しました。

先ほど受付でお渡ししました小さな写真集は、もうご覧になって頂けたでしょうか?

本編の出来を楽しみになさって頂けるかと思います。

では、ここからはお二人にマイクを明け渡して、

自由にフリートークをお願いしたいと思います!」


二人は、聞かされていなかった突然の展開に驚き、顔を見合わせた。


「えっ!俺たちだけでしゃべんのぉ?そんな会見って有りぃ?」


思わず健人が、司会の藤原に向かって言う。


だが、これはすべて編集長吉川が仕掛けた作戦でもあった。

親戚同士だが、とても仲が良い姉弟のようだと言うことを

あえてみんなの前でアピールしてもらい、この先の行動が不自然に映らないように、

という先手を打った作戦であった。


でも、当の二人は戸惑っていた。

何から話し始めればいいんだろう…。そうだ!あの話をしよう!

健人は何を思ったか、とんでもない話からトークを開始した。


「なんか、突然二人で話せって、これムチャ振りだよね!

でもさ、今日はゆき姉が俺の事務所の後輩になった記念日だから、

藤原さんを許してあげよう。藤原さーん!あとでジュースおごってね!」


健人の言葉に会場がドッと沸き、藤原は苦笑いをしながらうなずく。

雪見も一緒に笑ったら、すっかり緊張の糸が切れて身体が軽くなった。

健人の雪見に対する気遣いが嬉しかった。


「皆さん!ついさっき、雪見さん…いや変だな。

あの、いつも通り呼ばせてもらってもいいですか?

俺、いつもは『ゆきねぇ』って呼んでるもんで。トークが弾まないと困るから。

あ、そうそう、ゆき姉がですね、さっき俺の事務所と契約して、

なんと俺の後輩になっちゃったわけですよ!お母さんみたいなのに!」


「さっきから失礼だよ!お母さんみたい、お母さんみたい!って。

お姉さんみたい!の間違いでしょ!いっつもこうなんですよ、健人くんって。」


記者たちの方を向いて言った雪見の言葉にも、会場から笑い声が上がる。

たったこれだけの時間でこの二人は、すっかりその場の記者たちを

自分たちのペースに巻き込んだ。


それを会場の一番後ろに移動して立っていた吉川は、微笑んで見ていた。

この二人には、無限のビジネスチャンスが転がっている!と。


その時、真由子が会場のドアをそっと開け、「パパ、遅くなっちゃった。

二人の様子はどう?」と、父である吉川の隣に立った。


「今のところは上手くやってるよ!雪見さんも、何の心配もない。

これはこの先、パパも忙しくなりそうだよ。真由子にも感謝だな。

二人を連れて来てくれたのはお前だから…。」




真由子が来たことなど気づきもせずに、健人と雪見のおもしろトークは

まだまだ続くのであった。


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