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試練の会見前

メイク室で今日の衣装を渡され、雪見が着替えをして出てきた。


今日の衣装は、昨日の女の子チックなワンピースから一転、

真っ白なシャツに、カーキ色の細身のカーゴパンツというスタイルだ。

雪見のいつものスタイルに近く、だがキリッとして仕事のできる

女性カメラマンを演出した。

靴は、本当なら記者会見なのでお洒落にハイヒールを

合わせたいところだったが、健人との背のバランスを考えて、

Dr.マーチンのベージュ色のワークブーツに。

これは雪見も、まったく同じ物を仕事で履いている。

なるべく普段の雪見に近い物をチョイスした。


「うん、いいね!今日のキーワードは『腕利き美人カメラマン』だからね。

そのつもりでいてねっ!」


スタイリストの牧野が雪見に笑顔で言う。


「えーっ!またそれですかぁ?」 雪見は不満そうだ。


「我慢して!編集長のどうしても外せないこだわりだから。

多分、ずっと『美人カメラマン』路線で行くと思うよ。諦めて!」


メイクの進藤も、笑いながら雪見を促した。


「ほら、次はデキる女のヘアメイクをするから、そこに座って。」


「はーい。」


今日の髪はダウンスタイルで、大きめなカーラーでゆるく巻き髪を作り、

またふんわり感を出していた。


「服がわりとボーイッシュだから、髪の毛はあえて女性っぽくね。

みんなが憧れる、仕事のできる綺麗なお姉さんがイメージかな?

でも、女っぽすぎても同性の反感を買いやすいから、ほどほどに。

いくら健人くんの親戚だって言っても、あまりに女を感じさせると

ファンの嫉妬の対象になっちゃう。」


「そうだよ。今回一番気をつけなくちゃいけないのが、

健人くんのファンの目だからね。

だからあえて女性らしさより、私はカメラマンです!っていうのを

全面に押し出した格好にしたの。

あとは、小道具としてカメラを持って出るのをお忘れなく!」


そう牧田が念を押した。


進藤が雪見にメイクをしながら聞いてくる。


「ねぇ、なんだか昨日より目が腫れぼったいけど、

もしかして昨日飲み過ぎた?健人くんと。」


「え?私昨日、健人くんと飲みに行くって言いましたっけ?」


「あ!いや、なんとなーくそうかなー、と思って…。」


「いやぁ、実は飲み過ぎちゃったみたいで。今朝は最悪でした!

途中から当麻くんも来て、居酒屋で飲んだあとにカラオケ行って…。」


「えーっ!当麻くんって、あの三ッ橋当麻くん?

なんて豪華な飲み会なのぉー!羨ましすぎるよ、雪見さん!

イケメン二人に囲まれて飲んでたんでしょ?そりゃお酒も進むわ!」


横から牧田が興奮して口を挟んだ。


「ねぇねぇ、当麻くんってどんな感じ?

あの子も綺麗だよねぇー!肌が透き通るように白くて、セクシーで。

健人くんは可愛い系のイケメンだけど、当麻くんは綺麗系だよね。」


「えーっ!当麻くんってセクシーですかぁ?全然違いましたよ!

私には、泣き虫って印象しか残ってないなぁー。」


「うそぉ!当麻くん、泣いたの?雪見さんの前で?どうして!」


「なんか二回とも私が泣かしたって、健人くんが人聞きの悪いこと言うんだけど…。

彼女のこと聞いた時と、私の歌聞いて泣いたんです。

だから泣き虫だと思う、彼は。

健人くんも割とよくウルウルしちゃう方だから、泣き虫仲良しコンビなんです、

健人くんと当麻くんは。」



そう話していた時、鏡の前の雪見のケータイが、メールの着信を伝えた。


「あれ?誰からだろ!うそ!当麻くんからだ!噂話してたのバレた?」



元気?ゆき姉!

昨日は楽しかったね!

すぐに俺を仲間に入れ

てくれてありがとう!

さすが親友の彼女だけ

あるわ。

俺もすっかりゆき姉の

ファンになりました。

また一緒にカラオケ

行って下さいm(__)m

今日は俺もテレビで見

てるからね!頑張れ!

あ、俺がメールした事

健人には内緒ね。

あいつ心配性だから。

じゃ、また会える日を

楽しみに!



by TOUMA


メールを読んで雪見はドキッとした。

どういう意味でこのメールを送ってきたのか…。


健人の前で普通にアドレス交換したのに、健人に内緒ってどういう事?

それとも私の考えすぎで、単純に親友の彼女に昨日のお礼を言いたかっただけ?

そうだよね!私ったらバカみたい。仲良しに送る普通のメールじゃん!

それだけ三人は、昨日で仲良くなったって言うことだよね。

うん、そうだ!別にやましいメールなんかじゃないよ!


自分の中でそう決着をつけた。

ただひとつ、このメールを健人に内緒という事だけが心に引っかかるが。



「なになに!当麻くんからのメールなのぉ?

いいなぁー!羨ましすぎる!で、なんて?」


「もしかして牧田さんって、当麻くんのファンだったりします?」


「えー!バレちゃった?私、ああいう綺麗な顔に弱いんだよねえー。」


「じゃあ今度、当麻くんを撮して、写真を牧田さんにプレゼントしますね!」


「ほんと?!やだ、嬉しい!ありがとう、雪見さん!」


牧田が少女のように喜ぶ姿が微笑ましかった。




準備の済んだ雪見と健人が、編集長吉川に大ホール横の控え室に呼ばれた。

部屋には他に誰もいない。


「最後に念を押しておきたいのだが、くれぐれも君たちの関係は

親戚同士ということを忘れずに。

多分、この前の噂を質問してくる記者が必ずいるだろう。

でも終始毅然とした態度で堂々と、二人は親戚関係以外の何者でもない事を

宣言するんだ。まぁ、二人にとっては辛い宣言だがな…。

だが、ここをクリアしない限り、次には進んで行けないんだ。

わかってくれるよな?」


吉川の言葉に、二人は黙ってうなずいた。


「よし!その後のことは全部俺たちに任せろ!

必ずこの写真集をヒットさせてみせるから。

発売までいろんな企画を仕掛けるつもりだから、

益々忙しくなるのを覚悟しといてくれ。じゃ、健闘を祈る!」



吉川の言葉が胸にずっしりと重くのし掛かった。

だが健人も雪見も、吉川の言うことは今の時点ではそれが一番正しいと

わかっていたので、他に何も言うことはなかった。



この控え室を出た瞬間から、私と健人は以前のように

ただの遠い親戚同士に戻らなくてはならない。


こんなにも好きになってしまった今、

とても辛いことを宣言しなくてはならない会見が待っているけれど、

二人の絆さえしっかりと結ばれていれば、何も心配はいらない。

そう自分の心に言い聞かせ、雪見は健人と最後に握手をした。



どんなことにも負けない、二人の愛を約束して…


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