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決戦の時!

いよいよ、写真集制作発表記者会見の当日。

雪見はそんな大事な日の朝だと言うのに、案の定最悪な気分でいた。


昨日は二時間ほど三人でカラオケを楽しんで、また来ようね!と

健人と当麻と別れ、それから真っ直ぐ帰ったまでは記憶にあるが、

どうやら家に着いた途端、ベッドに倒れ込んで寝てしまったらしい。


化粧は落とさずそのまま寝たので顔がヨレヨレ、

お気に入りの買い取ったばかりの服はシワシワ、

ふわふわにカールしてあった髪はグチャグチャ。

しかも、相当に頭が痛い!


「はぁーっ…。なにやってんだろ、私。33にもなって…。

こんなことじゃイカンよねぇ。しっかりしろよ、雪見!」


そう言いながら自分の頬を両手でパン!と叩き、

よっしゃ!と気合いを入れてベッドから飛び降りた。


『一時からの記者会見に間に合うように、最高の私を作らなくちゃ!』


まずはお風呂に入りながら、顔のマッサージを念入りに。

深酒のせいで浮腫んだ顔を、何とか元に戻しホッとする。

あとは爪の手入れと、まだ少し腫れぼったい目をどうにかして、と。


十一時にはまた、会見場でもある『ヴィーナス』出版社での

事前打ち合わせと着替えがあるので、十時半には家を出たい。

まだ一時間半はあるか。健人くんはどうしてるかなぁ…。

そんなことを考えてた時、ケータイにメールが届いた。


健人くんからかな?ちょっと期待して開いてみると、

それは真由子からのメールであった。



元気?いよいよだね。

私も珍しくドキドキ!

仕事が手につかない!

どーしよう(--;)

とにかく落ち着いて、

堂々と雪見らしく凛と

して会見に臨んで。

私も一時には会見場に

行くから!パパにお願い

しちゃった。(^^)v

じゃ、またあとで!


mayuko



えぇーっ!会見場に来るのぉ?嘘でしょ?

あ痛たっ!また頭痛がしてきた。勘弁してよ!

真由子に見られてると思ったら、益々緊張してきた!

まぁ、真由子の目的は、私じゃなくなくて、健人が目的だろうけど…。


はぁーっ、と深くため息をつぎ、真由子に返信をした。



来るのはいいけど恥ず

かしいから、あんまり

こっち見ないでね!

まぁ、恥をかかないよ

うに祈ってて。

最大の難関に挑む私に

パワーを送ってよ!

では、また後で。


by yukimi



真由子の父にも、娘の前で恥をかかせる訳にはいかなくなった。

よし!気合いが入ったぞ!頑張らなくちゃ。


雪見は飼い猫めめに餌をやり、水を取り替えて頭を撫でてやる。

めめにもパワーをもらって行かなきゃね。


そして準備を整えて、少し早めに家を出た。


いつものドーナツショップに立ち寄り、いつもの席でカフェオレと

オールドファッションの軽い朝食。

段々と、心が落ち着いてきた。

こういう時こそ、いつもと変わらない行動が心を静める。

大丈夫、大丈夫。きっと上手くいく。自分に暗示をかけた。

そしていよいよ会見場へと出向く。



一方健人は、朝の八時からすでに雑誌のインタビューに答えていた。

昨日の酒と涙と花粉症のせいで、少し腫れた目をしながら…。


「今度、新しい写真集を出すんです。今、撮影の真っ最中なんですけど、

カメラマンが親戚のお姉さんなもんで、リラックスして撮ってます。

素顔の斎藤健人をお見せできると思いますよ!

是非、今年のクリスマスプレゼントにどうぞ!(笑)」


やっと今日からこの話題が解禁になったので、健人は嬉しそうに

インタビューに答えていた。

その後も立て続けに二つの取材をこなし、急いで出版社へと向かう。



会見場となる出版社の大ホールでは、粛々と準備が進められていた。

このビルの最上階には、ワンフロアを使った大ホールがあり、

この出版社から出す本の制作発表や、受賞記念パーティーなどは

すべてここで行われている。


打ち合わせの行われる会議室に行く前に、チラッと会場を見ようと

雪見がドアを少し開けてホールをのぞいた。


『えーっ!?こんな広い会場でやるの?うそだぁー!』


雪見は、見なきゃ良かったと後悔したが後の祭り。

一気にドキドキが加速して、せっかく取り戻した平常心を

またしても失ってしまった。



ため息をつきながら会議室に入ると、すでにプロジェクトメンバーは

先に打ち合わせ中であった。

程なくして真由子の父である編集長の吉川と健人、

マネージャーの今野が会議室に入ってきた。

健人は雪見の姿を見つけて、ニコッと笑って席に着く。


「それではみんな揃ったようなので、予定時刻より早いが打ち合わせを始めよう。

いよいよ今日の記者会見から全てがスタートする。

みんなには気を引き締めて臨んでもらいたい。

今回の会見は、いつもの斎藤健人一人の会見とは大きく訳が違う。

ほとんど無名に近い雪見さんが隣にいるからだ。

記者の注目は、今回ばかりは全て雪見さんに集中すると言ってもいいだろう。

そこで、手っ取り早く雪見さんを理解してもらうために、

会場でこれを配ることにした。

進藤くん、みんなにも配ってくれたまえ。」


それは、手のひらサイズの健人の写真集であった。


「今まで撮した中から何枚かを選んで、こんなのを作ってみたがどうだろう。

いいと思わないか?本編を期待させる出来だと思うが。」


こういうのを作りたいから写真を送ってくれ、と言われ

デジカメで撮った中からお気に入りを何十枚かパソコンから送信したが、

実際出来上がった実物を見ると、自分で撮った写真とは思われないほど

お洒落なレイアウトが施され、完成度が高かった。

きっとこれをそのまま売っても売れるだろう。そんな写真集だった。


健人と今野も、初めて見る雪見が撮した健人の写真に目を見張った。


『俺のことを、こんな風に撮してくれたのはゆき姉が初めてだ。

まったく今までの写真とは違う。本当の俺がここにいる!』


健人は嬉しかった。


『やっぱり思ってた通りだ。ゆき姉にしか本当の俺は撮せない。

ずっとずっと、ゆき姉にだけ俺を撮してて欲しい!』


そんな気持ちで胸がいっぱいになった。


でも雪見の気持ちは変わらない。

これが完成したら、また猫の元に帰ろう。そう思って打ち合わせを聞いていた。



「じゃあ、あとはまた進藤くんと牧田くんに任せたよ!

最初の印象が肝心だからね。よろしく頼むわ!」


そう吉川が言って先に会議室を出て行った。


「じゃ、私たちもメイク室に移動しようか。雪見さん、頑張ろうねっ!」


進藤と牧田の心強い応援に雪見は、「はいっ!」と笑顔で答えた。




いよいよ、人生最大の大舞台に立つ時がきた!


高潮した頬の雪見を、横で健人が少し寂しげに見つめていた。


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