仲良し三人組
健人も当麻も、お酒歴が短い割には結構強い。
もちろん雪見だって負けてはいないけど。
お酒というのは不思議な力を持っていて、初対面の人とも
ほんの一時間もあれば、充分に「ずっと前から友達」レベルまで
持って行くことができる。
すでに二時間飲んでる三人は、遥か時空を飛び越えて
もう何年も前から一緒につるんで遊んでいる、
男の子二人に年上の彼女の、仲良し三人組になっていた。
「ねぇねぇ。当麻くんの彼女ってどんな人?」
雪見が興味津々、当麻に聞く。
「ゆき姉、その質問はヤバいって!当麻、今に泣き出すから!」
健人が慌てて止めに入ったが、すでに遅かった。
当麻はみるみるその綺麗な瞳に涙を溜め、辛うじて瞳の表面張力のみで
その涙の流出を阻止していた。
「ごめん!悪いこと聞いちゃった?今の質問は削除して!
じゃあ、当麻くんの好きな食べ物は?」
焦って当麻に質問し直す雪見だったが、時すでに遅し!
当麻はポロポロと大粒の涙をこぼしていた。
「あ〜あぁ!ゆき姉が泣かしたー!
当麻は普段でも涙もろいのに、お酒が入ると益々泣き虫になっちゃうんだから
気をつけてよね、ゆき姉!
あのねぇ、当麻くんは最近彼女に振られたばっかなの!
今は、どん底から一生懸命這い上がってる時期なのに、
またゆき姉に突き落とされたんじゃない?」
健人が、『どうしてくれるのさ、この状況!』みたいな顔して
雪見のことを恨めしそうに見た。
「だってぇー。知らなかったんだもん!
健人くんだって、一言、前情報入れといてくれたら私も聞かなかったのに!」
「俺、例え彼女にだって親友のトップシークレットはしゃべんないよ!
ゆき姉だって、そうでしょ?
話さなきゃならない場面がきたら、そりゃ今みたいに話すけど、
あえて自分からは教えない。それが親友だと思ってるから。」
健人の言葉に雪見は、また違う一面の健人を知って嬉しかった。
人によっては、彼女より親友の方が大事なの?
みたいに捉えるかもしれないが、雪見は違っていた。
『彼女の代わりは、見つけようと思えばいくらでも見つかるけど、
心からの親友っていうのは一生のうち、
たったの一人か二人しか見つからないんだよ。
だからこれからも、私なんかより当麻くんを大切に思っててね。』
そう思いながら、当麻を慰める健人を見つめていた。
でも、さすがに当麻を泣かせてしまった責任を感じ始め、
どうにかして当麻を、失恋の痛手から救う方法はないものかと考える。
「そうだ!ねぇ、みんなでカラオケ行かない?
当麻くんも歌うの好きでしょ?前にミュージカル見たことあるよ!
友達に誘われてなんとなく付いてったんだけど、
当麻くんの歌、ダントツに上手かった!」
「えっ!俺の舞台、見たことあるの?嬉しいなぁ!」
「ねっ、だからカラオケ行こ!歌うって凄い元気が出るよね!
私も健人くんの歌が聴いてみたいし…。」
「え?健人とゆき姉って、一緒にカラオケ行ったこと無いの?」
当麻が、意外!って顔して二人を見る。
「私たち、まだそんな関係じゃないもんね!飲み友達って感じ?」
雪見がニヤッと笑いながら健人を見た。
「えーっ!それはないだろ、ゆき姉!俺たち、ただの飲み友達なわけ?
だったらすっげーショック!俺、立ち直れないかも。」
健人が口を尖らせて言う。
すると当麻が、健人の背中をバシッ!と叩いた。
「んなわけないだろ!健人は自分に自信が無いの?
ゆき姉に愛されてるって自信が。
俺、今日二人を見てて思ったんだけど、恋人同士プラス親戚同士の愛情って、最強だなって。
なんか、絶対的な愛の絆が見えた気がする。
お互いを思いやる気持ちが強いよね。他人だとそうはいかないと思う。
どこまで行っても切れない、一本のロープで繋がってるって言うか…。」
「ロープで繋がっちゃってるの?私たち。」 雪見が笑って健人を見る。
「例えでしょ、例え!でも、それと同じようなこと、
前にも誰かに言われたような気がする。誰だっけ?」
「ここのマスターでしょ!マスターもそんなこと言ってた。
血の繋がりがあるから、本当の姉弟みたいに
どこまで行っても、お互いを思いやる気持ちが途絶えない、って。
絶対にいいカップルになる!って力説してた。」
あの時のマスターの顔を思い出し、雪見はクスッと小さく笑った。
「俺もマスターの意見に賛成!まったく健人が羨ましいよ。
こんなに綺麗で可愛くて、頭が良くてかっこ良くて、
優しくて思いやりがあってお酒の強い、腕のいいカメラマンが
専属で付いてるなんて!
俺も毎日そんな人に写真撮ってもらいたい!」
「ガクッ!落ちは『写真撮ってもらいたい!』なわけ?
そんなに散々歯の浮くような言葉並べといて…。
いいよ!今度、当麻くんの写真も撮ってあげる。
健人くんを撮してて、やっとポートレートにも自信を持てるようになったから。
まぁ、専属にはなれないけど、たまには撮してあげる。」
「ホントに?やったぁ!じゃあ今撮して!俺と健人を。
カメラ、いつでも持って歩いてるんでしょ?」
当麻は、さっきまで泣いていたとは思えないテンションで健人と肩を組み、
二人でピースサインをして雪見がカメラを構えるのを待っていた。
「ねぇ。じゃあさ、今撮る二人の写真、健人くんの写真集用にしてもいいかな?
今なら、すっごくいい感じの二人を撮れる自信があるの!
同じ事務所なんだから、当麻くんサイドも固いこと言わないよね?」
雪見が当麻に聞いてみる。
「大丈夫でしょう!俺も健人の写真集に登場したい!
俳優 三ッ橋当麻としてじゃなく、ただの健人の親友として。」
「俺も、当麻といる写真を載せて欲しい!
だって、こいつといる時が一番すっぴんだもん。心も顔も。
『素の斎藤健人』の写真集なんだから、これは外せないでしょ!」
「そうだね。私もそう思う。
あ!いいこと思いついちゃった!
『素の健人の休日』を撮る名目で、当麻くんとスケジュールを合わせてもらって、
半日くらい三人でどっかに撮影旅行に出掛けるの!
で、撮影はさっさと終わらせて、あとはのんびり!ってどう?
二人とも最近忙しくて、お疲れモードでしょ?
そんな仕事でもないと、休めそうもないみたいだし…。」
「それ、乗った!ゆき姉、いいアイディア!三人でどっかに遊びに行きたい!」
健人が、もう決まったかのようにはしゃぐ。
「当麻くんも、いい?」 「もちろん!」
「じゃあ、早速明日にでも、今野さんに交渉してみるね。
よし!今日の記念撮影をして、カラオケに移動しよう!
はい、撮るよー!はい、チーズ!もう一枚!」
すっかり仲の良い三人組になり、みんな笑顔が絶えなかった。
居心地のいい時間が、どこまでも流れていった。