イケメン親友 当麻参上!
お酒が進むにつれ、またしても雪見のため息が多くなってきた。
「はぁっ…。本当に私、明日大丈夫だと思う?
心配で心配で、ぜんぜんお酒が効いてこないよ。
今日は酔わないと寝れそうもないのに…。」
「あのねぇ。ゆき姉は、新人女優として記者会見するわけじゃないよね?
プロのカメラマンとして、俺の専属カメラマンとして出るんでしょ?
だったら、もっと自信を持って出てもいいんじゃないの?
何を質問されたって、カメラマンとして思ってることを話せばいいし、
堂々としてればいいさ。
なんか、ゆき姉らしくないよ、そういうの。」
今日ばかりは健人の方が、年上のようなアドバイスをする。
「あ〜あぁ!今日は『秘密の猫かふぇ』のベッドで寝たかったぁー!
絶対家じゃ寝れないよぉ!」
「十二時から朝の六時までは閉店だって、言ってたでしょ!
ビールじゃ、いくら飲んでも酔わなさそうだから、
マスターにワインもらってくるね。
けど、あんまり飲んだら明日の朝また後悔するんだから、
今日はほどほどにして帰るよ!わかった?」
そう言い残して、健人は部屋を出て行った。
「あ〜、早く明日が終わればいいのにぃ〜!」
大きな独り言を言ってから、バタッ!と雪見は畳の上に寝転んだ。
目を閉じて、明日のシミュレーションをしてみる…はずだったが、
一日の疲れがドッと出て、そのまま夢の中へと吸い込まれていった。
『どれぐらいの時間が経ったのかな。
なんか耳の奥で声が聞こえる。でも目が開かないや…。』
「あれ?ゆき姉、こんなとこで寝ちゃってるよ!」
「ほんとだ!しょうがないなぁ。
さっきまで、明日が心配で寝れそうもない!とか叫んでたのに。」
「でも、可愛いじゃん!写メで見たまんまの人だ。
いいなー、健人!俺もこんな彼女欲しいっ!」
「ダメーっ!ゆき姉は俺の彼女!」
『なんか、二人分の会話が聞こえてくるんだけど…。えっ!二人分?』
雪見はいきなりガバッと跳ね起きた!
「うわっ!びっくりしたっ!ごめん、起こしちゃった?
寝れそうもないとか言って、俺が部屋出たあと、秒殺で寝たでしょ?
ワインはいらなかったね。」
「いや、三人で乾杯しなきゃ!」
「三人…って、その人…もしかしてぇ!?」
雪見が、さっきまでこの部屋にはいなかった、目の前の人を指差した。
「どーも!初めまして。健人の友人の三ッ橋…」
「とうまくん!?うっそ!なんで当麻くんがここにいるのぉ?」
雪見がとんでもなく声を張り上げて叫んだ!
「シーッ!ゆき姉、声がデカい!」 健人が慌てる。
「はい、当麻です!いつも健人からゆき姉の話ばっかり聞いてます!」
当麻が笑いながら健人の方を見た。
「なにが、ばっかりだよ!おめーが聞いてくるから教えてるだけだろーが!」
健人も笑って言い返す。
「ちょっと健人くん!この状況が理解できないんだけど…。
やだ、当麻くんが来るなら言ってくれればいいのに!
あ、ごめんなさい!浅香雪見です!
健人くんがいつもお世話になってます。」
「別にお世話になんかなってないから!俺がお世話してるの!」
「うそだー!絶対俺の方が世話やいてるから!
雪見さん!健人って、まったく家事ができない奴でしょ?
だから俺んち遊びに来たときは、俺が飯作って食べさせてるんですよ!」
「おーいっ!そこんところを恩にきせるわけぇ?
俺だって、玉ねぎの皮ぐらい剥いてやんだろ!」
健人と当麻は、本当に仲が良さそうだ。
二人の掛け合い漫才のような会話は、止めない限りどこまでも続く。
「ねぇ、どうして当麻くんがここに?」 一番の疑問を健人に聞く。
「あぁ、さっきここで撮したツーショット、当麻にも送ったの。
そしたら勝手に来ちゃった!俺もマスターと立ち話してて、
こいつが店に入ってきた時、マジびっくりしたもん!」
「ごめんごめん!だって健人のメールの件名が『激カワ!ゆき姉』なんだよ!
こりゃ実際に会いに行かなきゃ!って、飛んできた。」
「やだ!健人くん、そんなメールしたのぉ?恥ずかしすぎる!」
雪見は、まともに当麻の顔を見れなくなった。
しかも初対面で、畳の上に大の字になって寝てるとこを見られるとは。
「でも、俺の思ってた通りの人でした、ゆき姉は。
健人から聞いてた通りの可愛い人だった。」
「いや、この格好は撮影のあとだからこんなんだけど、
いつもはまったく違いますから!」
「知ってます。いつものゆき姉も写メで送ってくるから、こいつ!
どんだけ好きなんだよー!って感じ。」
当麻が笑ってる。
「おめぇー!俺を冷やかしにわざわざ来たわけ?早く帰って寝ろや!
明日も朝からドラマの撮影だろ?どーぞどーぞ、お帰り下さい!」
「なに言ってんの!今日はやっとゆき姉に会えたんだから、お祝いしなきゃ!
早くそのワイン開けて、乾杯しよ!」
「なに、当麻も飲むわけ?俺たち、明日大事な会見があるんだから、
あんまり遅くならないうちに帰るからな!」
「はいはい、わかってるって!今日は特別!
俺の親友の彼女と初めて会えたんだから、少しぐらいいいじゃん!
じゃ、お近づきのしるしに、カンパーイ!」
三人でグラスをチン!と軽く合わせた。
なんだか不思議な光景。
目の前に、若手イケメン俳優のツートップが並んで、楽しそうに笑ってる。
テレビ画面の向こうを見てるのか?いや、違う。
今、テーブルを挟んで真向かいに座っているのは間違いなく
芸能界のトップアイドル、斎藤健人と三ッ橋当麻である。
同じ事務所で一つだけ健人が年上、ライバルだけど大親友。
こんな豪華な飲み会、真由子が聞いたら卒倒するだろうな。
でも、本当に健人と当麻は仲が良い。
二人のリラックスした笑顔は、見ていてこっちまで嬉しくなってくる。
競争の激しいこの世界において、本来だったら一番にお互いを
牽制し合うポジションにいるはずなのに、そうはならずに
親友同士になれたことは、ちょっとしたキセキではないだろうか。
二人の楽しそうな顔を見て、雪見はとても心が穏やかになるのを感じた。
健人は当麻と友達でいる限り、何の心配もないと思った。
私のわからない世界での悩み事も、きっと当麻が健人の力になって
二人で解決してくれることだろう。
今日は当麻に会えて良かった!
明日のことなどすっかり忘れて、三人の楽しい宴会は続いて行った。