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幸せな時間の余韻

雪見は、写真集も読み疲れたので本を閉じ、

そっとまたベッドの上に上がって、健人の隣に寝そべった。

健人の足元には、さっきの黒猫が丸くなって寝ている。


気持ち良さそうに熟睡している健人の寝顔を、じっと見てみる。


前にも思ったことがあるけれど、ギリシャ彫刻を見ているかのように

美しい寝顔であった。



『寝ててもこんなに綺麗な顔の人って、ほんとにいるんだ。

やっぱり俳優さんって、360度 どこから見ても整ってなくちゃダメなんだろうな。

だって、健人くんに変に見える角度なんてある?』


雪見は色々見る方向を変えて、健人を眺めてみた。

だが、どの角度から見ても健人の顔は完璧であった。



『あ、そうだ!写真集用に寝顔撮しちゃお!

今まで、目を閉じてる寝顔風の写真はあっただろうけど

本物の寝顔なんて、まだ誰も撮してないよね!


ファンのみんな!お宝写真見せてあげるからね!

クリスマスを楽しみにしててよ!』



心の中で、全国の斎藤健人ファンに声をかけ

雪見は、健人を起こさないようにそっとベッドを降りた。


端に置いてあったカメラバッグの中からカメラを取り出し、

少し離れた場所から健人の寝顔を狙う。

場所が特定されないように背景に気をつけて、一枚シャッターを切ってみた。


「カシャッ!」


静寂の中では、一眼レフカメラのシャッター音はかなり大きい。

一瞬、健人がうーん!と言いながら寝返りを打った。



『やばっ!起こしちゃったら大変!やっぱりデジカメにしとこうか。

それに照明がかなり暗いなぁ。なんとか明かりを採らないと。』


雪見はカメラを一眼レフからデジカメに持ち替え、

更にベッドサイドの電気スタンドを移動させて、

健人の顔に影ができないように気を配った。


「カシャッ!カシャッ!」



『お、いい感じ!そのままそのまま!まだ起きないでね、健人くん!』


シャッターを切りながら、健人の寝顔に惚れ惚れしていた。

なんて綺麗なんだろ!いつまでもずっと眺めていたくなる。


雪見はカメラを下ろし、またじっと健人の顔を見つめた。



『あれ?真由子は健人くんのほくろは五つだって言ってたけど、

ここにも薄いの、みーっけた!

好きだなぁ、健人くんのほくろ。これが無かったら、魅力半減だな。』


小さく独り言を言いながら、雪見は健人の顔のほくろを指でそっと隠してみた。


右目の下と唇の上に二つ。それから左の頬と…。

四つ目のほくろを指で隠したその時!

健人がパッチリと大きな目を見開いて、目の前の雪見を見た。



「なに、人の顔で遊んでんの!」


「あ!ごめん!起こしちゃった?」


「そりゃ、耳元でホクロがどーのこーの言われて、顔を指でつつかれたら

いくら何でもそりゃ起きるでしょ!で、ホクロがどうしたって?」


健人が上半身を起こしながら雪見に聞いた。

黒猫はまだ足元で寝ている。



「いやぁ、健人くんのほくろ、好きだなぁーと思って。

顔の中で一番好きかも。」


「ええーっ!ほくろが一番って、そりゃないでしょ?

俺的には六個もなくていいんだけど…。」


「いいや、全部なくちゃダメ!一個でも欠けたら斎藤健人じゃない!」


「そんな、大げさな!でも、まぁいいや。ゆき姉が好きならそれで。

俺も好きだよ、ゆき姉の左目の下にあるほくろ。

きっと泣きぼくろだと思うけど、最近ずいぶん威力を発揮してるよね。」


そう言いながら、健人が雪見の眼下のほくろを指で押す。



「ほんとだね。でも昔っからあるのに最近だよ、威力を見せ出したのは。

健人くんと付き合い出してからじゃないかな。

色んなことに関して、心の琴線に触れることが多くなってすぐポロッときちゃう。

だから映画なんて行ったら大変よ!顔がボロボロになる。

健人くんとは行かないからね、映画!」


「えーっ!今度ゆき姉と二人で、見に行こうと思ってたのがあるのに!」


「そーいうのはDVDになってからにして!

そしたらあたしんちで、お酒でも飲みながらゆっくり見よう!」


「ほんと?絶対?約束だからね!やった、楽しみ!」


健人は子供のようにはしゃいでいた。それはそれは嬉しそうに…。



「ねぇ、そろそろお腹空かない?ご飯食べに行こうか。」


「今、何時?え?もう七時になるの?どーりでお腹ぺこぺこなはずだ!

じゃ、『どんべい』に行こう!」


「え、また?今日は餃子が食べたかったんじゃないの?」


「いや、予定変更!さっきのグラビア撮影の時、

俺、このゆき姉を『どんべい』のマスターにも見せてやりたい!

って思ったのを今、思い出した!

絶対、マスターびっくりするって!

今日しか見せらんないから今日は『どんべい』の日!」


「優柔不断な健人くんにしては珍しい、速攻攻撃だね。

えーっ、でも絶対マスターに笑われる自信ある!

普段の私を知ってるだけに、なんだか恥ずかしいな。」


雪見が肩をすくめながら、健人の方を見る。



「いや、絶対見せたい!俺が最高に可愛いって思うんだから、

マスターも『かわいいっ!』って叫ぶに決まってる!」


「いや、甘い甘い!その前に、『どうしちゃったの?雪見ちゃん!』

って言うに決まってる。もう見えてるもん、マスターの顔が。」


「じゃ、なんて言うか行ってみよう!腹減って死にそうだから。」


「あんまり気が進まないけど、この二人でどっか違うとこ行くのは無理だね。

仕方ない!マスターに笑われに行くとするか!」



健人と雪見は、まだ寝ている黒猫の子供を起こさないように

そっとベッドを降り、来た通路を静かに戻って行った。

また会いに来るからね!と、子猫に小声で言い残して…。



またひとつ、健人との大事な場所が増えた。


そんな温かい気持ちで雪見は、『秘密の猫かふぇ』が入るビルを

立ち止まって振り返り、健人に「また絶対来ようね!」と約束してタクシーに乗り込んだ。



「今度、あそこの猫ちゃんたちの写真集作ろうかな?

みんな捨て猫だったってとこが、気持ちに響いて…。

あの子たちは辛い体験のあとに、幸せが待ってたんだね。

それにしても、あんな凄いカフェ思い付いて作った大物芸能人って一体誰なんだろ?

会ってお礼が言いたいくらい。」


「ほんとだね。俺は当麻に感謝してるよ。

当麻に聞かなかったら、あんな秘密組織みたいなとこ、

一生知らないで過ごしてたと思うもん。」


「そうだね。私も当麻くんに感謝だ!

今度会ったら、私の分もお礼言っといてね。」



二人は幸せな時間の余韻に浸りながら、タクシーの中で寄り添った。


今日一日の目まぐるしかった出来事を振り返りながら…。


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