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くつろぎデート

『秘密な猫かふぇ』というだけあって、

店内は地下の洞窟にある、秘密基地といった雰囲気を演出していた。


健人と雪見が、手をつないで秘密の通路へと足を踏み入れる。


そこは薄暗く、狭い洞窟に掘ったトンネルといった感じで、

所々にたいまつを模した間接照明がある以外は何もない、

先の見えない曲がりくねったトンネルだった。



「俺、ちょー楽しい!こういうの大好きだもん。

なんかTDLみたいじゃない?

俺、ゆき姉とディズニーランド行きてぇ!」


健人はすでに、頭の中ではアトラクションの中のお客になりきり、

このワクワク感を存分に楽しんでいる。


雪見はと言うと、こういう所は健人と同じで大好きなのだが、

さっき牧田から買い取ったばかりの、履き慣れないサボのお陰で

どうも足元がおぼつかなく、健人にしがみつくようにして歩いていた。



「ねぇ、今度の休みにでも、二人でディズニーランドに行かない?」


健人が隣の雪見に、目を合わせて聞いてみた。



「今度の休みなんて、いつあるの?

今日のスケジュールだって今野さんが、しばらく休みはないからって

あの撮影だけにしてあとは空けてくれたのに。」


「あ〜あ、そうだよねぇ…。このあとのスケジュール、見た?

俺、死んじゃうかも!」


「確かにあれは辛いよね。体調管理だけはしっかりして、

なんとか年末に向けて頑張らないと!

あ、そうだ!今度、キムチ持ってってあげようか?

健人くんのおばさんに聞き直したレシピで作ったやつ。

もうちょっと漬けた方が美味しいから、まだ先になるけど

スタミナつけるにはいいと思うよ!免疫力もアップするし。

まぁ、おばさんのキムチって、結構にんにく効かせたレシピだから、

ドラマのキスシーン前はNGだけどね。」


「キスシーンなんて当分無いから!っつーか、平気なの?ゆき姉。」


「そりゃ仕事だもん。そんな、子供じゃありませんって!」



ワイワイ言いながら歩いていると、やっと先が明るくなってきた。


パッとひらけた視界には、三つのブースに分かれたくつろぎスペースが

健人と雪見を待っていた。


一番手前の左側は、雰囲気の良いバーカウンター。

ここでは別料金で、お酒が飲めるらしい。


右側の手前に、大きな応接セットと映画を見るためのスクリーン。

その奥のスペースには暖炉があって、その前には大きなふかふかの

ムートンのラグが敷いてあった。


この三つのスペースは、それぞれに程よい距離感があり、

お互いのスペースからは視線を遮るように、観葉植物が置かれたり

家具で目隠しされていたり、パーティションで区切られてたりする。


照明は全てが間接照明で、洞窟の中という設定に合わせ

かなり薄暗くはあるが、それがかえって心を静め、

外の喧騒など忘れさせてくれる効果がある。


だが、ここにいると時間の流れが穏やかな上に

外の景色がまったくわからないので、時間に余裕がない時はかなり注意が必要だ。


壁には時計も無いし、くつろぎ過ぎて次の予定に大遅刻!

なんてことにもなりかねない。



健人と雪見は、最初のくつろぎスペースを通り過ぎ、

まだ先にある次のくつろぎスペースを目指して、

第二のトンネルをくぐることにした。


ここまでの間に、まだ他の客とは出会わなかった。

みんな、人目につきやすい手前のスペースを避け、

奥へ奥へと進んで行ったに違いない。



「ねぇ、どこまで続いてるんだろうね、このトンネル。

さっきのとこより天井が低い気がする。」


曲がりくねったトンネルは、先の明かりが見えない。

天井にしても、決して頭がぶつかるような高さではないのだが、

視覚的に天井が低くて狭い感じを演出しているので、

170cmと156cmの二人でも、思わず頭を低くして通り抜ける。


「あっ!明かりが見えた!」



次に待っていたのは左側手前が、大きな本棚にたくさんの本が詰まった書斎風のスペースで、

よく見ると本棚には、世界中の猫の写真集が数多く収められていた。


雪見は思わず嬉しくなり、そのうちの何冊かを棚から抜き取って

座り心地の良さそうな、黒い革張りの重厚な椅子に腰掛ける。



健人はと言うと、その右側に広がる、大きなベッドを備え付けた

パーティースペースに目が行っていた。


そこは奥の方に大きなベッドが三つあり、

手前には毛足の長いムートンのラグが床一面に敷き詰められ

その上に丸い大きなローテーブルが置かれている。


たぶんここが、当麻がこの前ワインを持ち込んで、

『秘密の猫かふぇ』会員仲間とパーティーを開いたと言う

スペースなのではないかな?と思って健人は見ていた。


当麻は、大きなウォーターベッドがめちゃめちゃ気持ち良かった!と言っていた。

ワインを飲みながらみんなでトランプをしたり、本を読んだり、

良い気分になったらベッドで一眠りしたり…。

凄く疲れが取れてリフレッシュし、次の日からのハードスケジュールも

難なくこなせたと言う。



「ねぇ、こっちにしよう!ベッドのあるとこに!」


健人が、猫の写真集を見ていた雪見に言った。



雪見は驚き慌てて、「なに言ってんの!こんなところで!」

と、健人をたしなめた。


が、健人は


「あれぇ?なに勘違いしてんの、ゆき姉!

俺は別に、変な意味で言ったんじゃないから!

当麻が、『すっげーリラックスできるウォーターベッドがあるから、一度寝てこい!

疲れが取れて元気になるから!』って話してたから

横になってみたかっただけなのに。」


と雪見に笑って言った。



「でも、こんな広いスペースに私たち二人だけって言うのは悪いでしょ?

やっぱりこっちでいいよ。」


「だって、さっき説明してくれた人は、空いてればどのスペースでも

使っていいって言ってたじゃん!

誰か、ここを使いたい人たちが来たら移動するから、それまではいいでしょ?

どうしてもこっちがいい!」



健人の強力なお願い目線にやられて、雪見は渋々OKした。


「じゃあ、誰か来るまでだよ!

この猫の写真集もっと見たいから、そっちに運ぶの手伝って。」


「よっしゃ!何冊でも運んじゃうよ!じゃ、飲み物も頼もう!」



そう言って、健人はベッド脇のインターホンを取った。


「あ、すいません!別料金でビール二つお願いします!」




二人だけのパーティーは、今やっと始まろうとしている。


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