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秘密の入り口

このビルは一階から七階までが書店で、八階にはオフィスがある。

健人と雪見は、一階奥にあるオフィス直結のエレベーターに向かった。


気を付けなければならないのは、このエレベーターまでの間だ。

書店の一階部分は、ほぼ大半が週刊誌雑誌コーナー。

みんな立ち読みに余念がないのだが、気づかれるとまずいので慎重に足早に、さっさと奥まで進む。

オフィス直結エレベーターにさえ乗り込んでしまえば一安心。

八階までノンストップで、オフィスのあるフロアへ。




当麻からのメモを片手に、「HNK」という部屋のドアを開ける。

すぐのカウンターは無人で、呼び鈴が付いているので押してみた。


「なに?『HNK』って。『NHK』じゃなくて?」


雪見が小声で健人に質問する。


「『秘密の猫かふぇ』の頭文字だって。紛らわしいのが良いみたい。」


健人も小声で答える。



程なくして奥から、黒の執事服を着た初老の男性が出てきた。

二人とも、本物の執事らしき人に驚いた。


健人は、何年か前にドラマで見習い執事役をやったことがあるが、本物はまだお目にかかったことがない。

二人の間に、少しの緊張感が走る。



「あの、入会の申し込みに来た斎藤健人です。」


「お待ちしておりました、斎藤様。

先ほど、三ッ橋様よりご連絡を頂いておりました。

三ッ橋様からの紹介状はお持ちですか?」


健人は、タクシーの中から当麻にメールをしていた。



当麻くん、お疲れです!

俺これからゆき姉と一緒

に、例の猫かふぇ行って

くるから。ゆき姉のお陰

で早くに仕事が終わった

んだもん (^o^)v

楽しみだけどドキドキ。

んじゃ、撮影頑張れよ。

またね。


by KENTO



メールを見て当麻が電話を入れといてくれたかと思うと、やっぱり当麻はいい奴だ!と改めて親友を見直すのであった。



健人が当麻からの紹介状を差し出す。

初老の執事が、それにしっかりと目を通した。


「では、入会手続きに入ります。どうぞこちらへお入り下さい。」


健人と雪見は第一関門を無事突破し、ホッと一息ついた。



重厚なドアの向こうには、広い応接室があった。

二人は黒い革張りのソファーに腰掛け、執事からの諸注意を聞き、同意書にサインする。


「当店は、非日常空間をお楽しみ頂くと共に、お客様方の日頃のストレスや疲れを癒して頂くことを第一の目的として造られました。


店内に入られるとお分かりいただけるかと存じますが、芸能界の方がたくさんお見えです。

ですが、ここでは他人に一切干渉しないのが一番のルール。

たとえすれ違ったのが大先輩であろうとも、ご挨拶はせずに素通りして頂いて結構です。


最初お若い方ですと、なかなかこれを実行するのが心苦しくて、つい上の方にご挨拶してしまいがちですが、これは後ほど必ず相手の方から苦情が入りますので、くれぐれもご注意をお願い致します。


要は、その空間には自分たちしかいない、と考えるのが正解です。

周りの人達は、見えていないことにするのです。

そうすることによって、初めて心身の解放が得られ、深い安らぎを覚えることができるでしょう。


あとは、当店でお客様のお相手をさせて頂く可愛い猫たちに癒しをもらい、お帰りの際には明日への活力が生まれていることを、従業員一同願っております。


それでは、店内へとご案内させて頂きます。

何かご質問がございましたら、店内の従業員になんなりとお申し付け下さい。

では、どうぞこちらへ。」


穏やかに話す黒服執事の後について、健人と雪見は長い通路を歩く。

すでに始まってる非日常の世界に、二人の胸は高鳴った。

アミューズメントパークのアトラクションに並ぶのと同じ高揚感。

どんな世界が広がっているのか、ワクワクドキドキの二人である。



「次回からは、真っ直ぐこの店内直結エレベーターにお乗り下さい。

先ほどお渡しした会員証を、ここにかざしませんとエレベーターは動きませんのでお忘れなく。

では、どうぞ。」


二人は執事と共にエレベーターに乗り込み、会員証をかざした。

すると静かにドアが閉まり、すーっと地下二階まで降りていく。



エレベーターのドアが開くと、そこはすでに『秘密の猫かふぇ』店内。

足元には三匹の子猫が健人と雪見を出迎えた。


「うわっ!めっちゃ可愛いよ、こいつ!こっちの黒は人懐っこいし。

おいでおいで。よし、いい子だ。」


いきなりの可愛い出迎えに、健人のテンションはすでにマックス。

雪見も久しぶりに触れる子猫たちに、やっぱり猫はいいなぁと思っていた。



八階から先導してくれた執事が、フロントスタッフに健人と雪見が新規客であることを告げ、二人に一礼してまた八階の持ち場へと戻って行く。

今度は若い黒服のスタッフが、人気俳優 斎藤健人の顔を見ても、顔色ひとつ変えずに店内説明を始めた。


「ここから先は、お客様のお好きな場所にておくつろぎ下さい。

場所さえ空いていれば、途中で別の場所に移動されても結構です。

お飲み物のご注文は、備え付けのインターホンにてどうぞ。

夜十二時から翌朝六時までは、店内メンテナンス及び猫の自由時間として一時閉店させて頂きます。


それから、繰り返しになりますが、どうか他のお客様の前を通られる時は空気になったおつもりで。

ここのシステムは、お互いの信頼の元に成り立っております。

それさえお守り頂ければ当店はお客様にとって、かけがえのない安らぎの空間になることでしょう。

何かご用がございましたら、なんなりとお申し付け下さい。

では、どうぞごゆっくりとおくつろぎ下さいませ。」


若い黒服に丁寧にお辞儀され、健人と雪見も思わず深々とお辞儀した。



さぁ、ここから先は手を取り合って、まずは店内探検へと出掛けよう。

誰の目も気にすることなく、変装もしなくていい。

健人と雪見のデートは、今やっと始まったばかりだ。


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