表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/443

チーム雪見

「ねぇ、『ヴィーナス』の連載って、このまえ真由子さんちで話してたやつ?

俺を撮影してるゆき姉を、ここのカメラマンが撮るっていう。」


十二階までのエレベーターの中で、健人が私にささやいた。

一緒に乗り込んだスタッフ四人は打ち合わせに余念なく、二人のコソコソ話など聞いちゃいない。


「そうみたいよ。誰も反対する人はいなかったらしい。」


「そりゃそーだ。編集長の提案だよ?誰が反対できるの。」


「なんか、やりにくいなぁ…。

他の人にカメラ向けられながら、私が健人くんを撮すんだよ?

気になって集中できないよ。」


「まぁ、毎日密着する訳じゃないから。その時は適当でいいよ。

それより今日は何時に終わるのかなぁ。

早く終わったら、服買いに行きてー。」


まだ始ってもない仕事終わりを気にする健人。

お気楽だなぁ。こっちはこんなにドキドキしてんのに。


と、言いたかったが、やめといた。


「あ、そーだ。

この前、当麻からメールきて、秘密の猫カフェ見つけたんだって。

紹介でしか入れない秘密組織らしいよ。

俺にも紹介してくれるってゆーから、今度行ってみよう。」


話の途中で「十二階です」とエレベーターがしゃべった。

スタッフの後に付いて長い廊下を進む。



ここのスタジオは、毎月グラビア撮影で訪れる健人にとっては見慣れたスタジオだ。

だが私には何もかもが初めてで、不安しかない。

なんせ、撮られることに関しては全くの素人なのだから。


もうここは、健人や周りの言う通りにするしかない。

これをクリアしなければ先には進めないんだ。

そう自分に言い聞かせ、腹をくくってスタジオの中へと入って行った。




「まず、メイクルームで衣装合わせをして下さい。

それからヘアメイクをし、撮影になります。

あ、健人くんはいつも通りでお願いね。」


「了解でーす。」


「は、はい。わかりました。」


私の場合、わかっても解らなくても、そう返事するしかない。


「じゃあ雪見さん、こちらへ。」


先ほどの女性スタッフ二人が、私の緊張を解きほぐすように笑顔で手招きをする。

促されて入った部屋には大きな鏡が有り、たくさんの衣装がハンガーに掛かっていた。



「さて、と。始めますか!」


スタイリストの牧田が気合いを入れた。

私が思うに、二人とも推定年齢40歳ぐらいか。

いや、もう少し上?

気にはなっても、この年頃に年齢は聞けない。


自分も三十を過ぎた頃から、とみに年齢を避けて生きている。

堂々と自分の年を、偽ることなく恥じることなく言えたのは、二十代半ばまでだった気がする。

それからたったの七、八年しか経ってないのに…。


もはや年齢とは、年々付け足される重りの付いた足かせにしか思えない。

この足かせが、軽くなる日は来るのだろうか。

どう考えても、重りが増えることはあっても、軽くはなり得ないと思ってしまう。


健人のことも…。


自分は真由子ほど大人じゃないから、健人と一緒にいても素直に甘えられるし、同じ話題で笑い合える。

話していて大きなギャップは、今のところ感じることはない。

だが、数字で見るところの12歳差というやつは、いつも自分を現実に引き戻す。

永遠に縮まることのない『12』という数字に、恐怖さえ感じてしまうのだ。


見た目だって、どんどん差が広がってゆくに決まってる。

健人は二十一歳の今でも、高校生役になんの違和感もない。

そりゃそうだ。

つい最近まで高校生だったし、変幻自在の俳優なのだから。

と言うか、二十一歳は根本的に、圧倒的に、無敵に若いのだからどうしようもない。




「雪見さんは普段どんな格好が多いですか?色は何色の服が多い?」


スタイリストの牧田が、ハンガーに掛かった服をあれこれ見ながら私に聞いた。


「猫を撮しに行く時は、下は汚れの目立たないカーキ色のカーゴパンツかジーンズかな。

上は、夏ならTシャツなんかが定番ですけど…。

仕事のない時は大体ジーンズに、白や生成のナチュラルなシャツが多いかな?

あ、ギンガムチェックも好き。最近はプルオーバーのシャツにはまってます。」


「なるほどね。

じゃあ家のインテリアなんかは、フレンチカントリーとか好きじゃない?」


「えーっ!どうしてわかるんですか?大好きです、フレンチカントリー!

アンティーク家具や雑貨ショップ巡りが、ほんと大好き。」


私は、自分の部屋を覗かれたかのように言い当てられ、びっくりした。



「うん、段々とイメージが出来てきたぞ。

ねぇ、進藤ちゃんもどう?髪とメイクのイメージ。

こっちのパターンでいけそうじゃない?

私はその路線でいいと思うんだけど…。」


牧田が何枚かのラフスケッチを手に、ヘアメイクの進藤に意見を求める。


「うん、私もいいと思う。

雪見さんの場合、あんまりこのイメージから外れたとこに持って行きたくないよね。

全然違う服着せちゃうと、せっかくの雰囲気が台無しになっちゃう。

それに本人も、それを維持するのにストレスになるし…。」


「よし。じゃあ、決まりっ!

私、昨日雪見さんの写真見せてもらった時から見当付けてたから、いい服借りてきてるんだ ♪

雪見さん、まずこの衣装に着替えてもらえます?

それでOKなら、次にヘアメイクを決めますから。」


服を持たされ、更衣室で着替えて外に出た。



「やっぱりドンピシャ!どう?進藤ちゃん。」


「うん、良い良い!さっすが、牧田さん。

どうですか、雪見さん。こんな感じで。」


「普段パンツばっかりだから、なんだか恥ずかしいけど…。

でもこういう感じ、好きです。してみたいなぁーと思ってた(笑)

この服、欲しい!どこに売ってます?」


「あ、買い取りでもいいですよ。気に入ってくれて嬉しいです。

じゃあ、お次は進藤ちゃんにバトンタッチ!

ヘアメイクしてもらって下さい。あそこに座って。」


進藤は、すでに頭の中でイメージが完成してるらしい。

衣装に合わせたヘアメイクを、実に手際よく仕上げていった。



「こんなんで、どう?可愛いでしょ?」


「うん、バッチリ!雪見さん、このままモデルになればいいのに。

絶対いけるよ。編集長の言ってた通りだね。

じゃ、健人くんがお待ちかねだと思うから、スタジオに移動しよう。」



健人に会うのにドキドキしてた。


こんな私を見て、なんて言うだろう…。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ