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つぐみの心配

「紹介するねっ。健人くんの妹のつぐみちゃん。大学の看護学部一年生なの。

で、こっちはスタジオを手伝ってくれてる高岡秋人くん。

年は…健人くんと同じ、だよね?」


「健人さんは三月生まれで俺は六月だから、年は同じだけど学年は健人さんが一個上です。」


「えっ?シュートくんも六月生まれなの?私もだよ。」


「雪見さんは19日生まれの双子座ですよね?

俺は22日だから残念ながら蟹座(笑)でも血液型は同じA型です。」


「そーなんだ!ど真ん中のA型でしょ?几帳面だもんね。

私はO型の血たっぷりのA型だから、ちょっと違うよ(笑)」


「あぁ、わかる気がします(笑)」


『何?こいつ。ゆき姉の誕生日や血液型まで知ってる。

お兄 ちゃんのファンだって言ってたけど…オタクなの?』


二人のどーでもいいやり取りを、ニコニコ聞いてるフリしてつぐみは

必死に幼い頃の記憶を呼び起こしてた。


『昔うちの近所に、シュートってお兄ちゃんの同級生がいなかったっけ…。

シュート、シュートって名前で呼ばれてたから、名字の記憶が薄いんだけど

確か高岡だったはず…。

…あれ?高木だったっけ?でもメガネは掛けてたよ。それに右目の横のホクロが同じ。

最初見た時、初めましてな気がしなかったもん。

でもお兄ちゃんと学年が違うって…。私の勘違いかなぁ…。』


つぐみは他の手がかりを探そうと、高級そうなケーキを口に運びつつも

さりげなく秋人を観察した。


『え?なに?この人のゆき姉を見る目!それって好きな人を見つめる目じゃないの?

なんなのっ?ゆき姉はお兄ちゃんの婚約者だって、ファンなら勿論知ってるでしょ!?

てゆーか、ゆき姉はまったく気付いてる風もないし。ま、天然だからね(笑)

それにしたって、二人に割り込もうなんて百年早いからっ!

ゆき姉はお兄ちゃん一筋だし、お兄ちゃんだってゆき姉のこと、大、大、

だーい好きなんだからっ!二人の仲を邪魔するなー!!

しっかしコイツの素性が気になるー!えーい、聞いちゃえ!』


「あのぅ…。失礼ですけど、どちらのご出身ですか?

昔、埼玉の大宮に住んで…」


「東京です。この辺が地元でした。」


「うそっ!?こんな高級住宅街に住んでたの?

シュートくんって見かけに寄らずお坊ちゃまなんだ!

じゃあ、お給料が少なくっても大丈夫だねっ。良かったぁ(笑)」


『ゆき姉は脳天気に笑ってるけど、この人、今確かに私の言葉を遮った…。絶対怪しい。

よーしっ!お兄ちゃんが帰って来るまで、ゆき姉は私が守るっ!!』



コーヒーを一杯飲み終えると高岡は、つぐみに「どうぞごゆっくり。」と微笑んで

また庭へと出て行った。

その後ろ姿を目で追ったもんだから、つぐみは有らぬ勘違いをされたようだ。


「ははーん♪さ・て・は(笑)

ねぇねぇ、シュートくんってイケメンでしょ?俳優さんみたいな顔立ちだよね。

写真の専門学校出たばかりらしいんだけど、テキパキ先を読んで動いてくれるから、

すっごく仕事がやりやすいの。

きっと健人くんと同じで頭がいいんだなぁー。

でもね、私がここで仕事する時だけのアシスタントだから、あんまりお金にならなくて

申し訳なかったんだけど、お金持ちのお坊ちゃんなら少し気が楽になった(笑)」


『ゆき姉は相変わらず優しいなぁ…。

こんなに綺麗で可愛いくて仕事も出来るんだから、お兄ちゃん以外の人だって

ゆき姉を好きになって当然か…。』


キラキラ輝くように笑う雪見を頬杖つきながら眺めて、つぐみはぼんやりとそう思った。

自分が男だとしたら、こんな彼女が欲しいと思うに決まってる、と。


でも!だ。

ゆき姉はお兄ちゃんのお嫁さんになるのっ!

私のお姉ちゃんになるんだからっ!!


「ふぅーん、そーなんだ。いいアシスタントさんが見つかって良かったね。

ゆき姉の仕事が忙しそうだから、お兄ちゃん随分心配してたもん。」


「えっ?健人くんが?もしかして…健人くんに頼まれてここに来たの?」


2杯目のコーヒーを注ぎながら、雪見はつぐみの顔を見る。

つぐみは兄から念を押された『あくまでもさりげなーく様子を見てきて』

との約束を破るのに一瞬躊躇したが、緊急事態だから許せ!と心で承諾を得た。


「そうだよ。お兄ちゃんから電話が来たの。時間があったら様子を見てきて欲しい、って。

電話じゃ元気そうな声してるけど、本当は参ってるんじゃないかって随分心配してた。

ゆき姉は何でも一人で抱え込んで頑張っちゃうから、って…。」


「健人くんが…そんなこと…を?」

そう言葉にした途端、雪見の瞳からポロポロと涙の粒が転がり落ちた。


「ちょっ!え?待って!なんで泣くの?やだぁ!どうしたの?」


つぐみがビックリして慌てふためいてる。

確かに、なぜ泣いてるのか自分でもわからない。泣きたいのを堪えてたつもりもない。

だけど不意に触れた健人の優しさは、遠く離れていても充分に温かく、

だからこそ余計に涙を誘因するのだ。


健人くんに会いたい。

やっぱりそばに…居たいよ…。


涙のきっかけは、見透かされた心だったかも知れない。

だが今は、ただただ健人に会いたくて会いたくて、迷子になった子供のように涙が溢れた。


が、ちょうどそこへ運悪く、秋人が戻って来てしまった。


「どうしたんですか、雪見さんっ!!何かあったんですか?

あ…ちょっと待ってて。」


さっきまで笑ってた雪見が泣いている。

秋人は驚いて雪見の顔を見たが、テーブルの上にコーヒーがこぼれ、

雪見のシャツにも染みが付いてるのに目をやると、素早くキッチンからタオルを持ってきた。


ボーっとしていて、コーヒーをこぼしたことにさえ気付かなかった。

白いシャツに付いた染みを、秋人が濡れタオルでポンポンと一生懸命叩いてくれてる。

その頭をぼんやり眺めながら、これが健人くんだったら…と顔を思い浮かべた。


『しょーがねーなぁー、ゆき姉は!

ほんっと、そそっかしいんだから。

あーあ、取れないよ。無理。もうムリっ!

早くクリーニングに出しちゃえ(笑)』


きっと笑いながらそう言って、タオルをテーブルにポーンと放り投げるだろうな。

そしてお気に入りのシャツを汚して落ち込んでる私の頭をポン!と叩いてこう言うだろう。


『そだ!新しい服買いに行こ!俺が選んでやるよ。

でさ、帰りになんかうまいもん食ってこよ♪早く準備して。』


目の前に健人が浮かんでクスッと笑ったら、もっといっぱい泣けてきた。



雪見の肩を無言でギュッと抱き寄せる秋人。

つぐみはこの状況を、どう兄に伝えたらよいものかと思案してる。


さっき食べたアイドル差し入れ高級ケーキの味が、頭から見事に吹き飛んでることを

少なからず後悔しながら…。


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