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愛に溢れる人

「今日は本当にありがとう。素敵な写真を撮ってくれて。

あなたは素晴らしい才能のフォトグラファーだわ。私をこんな風に撮せるんだから。

でも、まさかこの私が衣装室に忍び込んでまでウェディングドレス着るなんて、

考えもしなかったけどね(笑)」


今しがた撮したばかりの結婚写真を手に、ステファニーは笑いながら

雪見に小さくウインクした。


「ごめんなさいっ!本当にごめんなさい!」

「いや、雪見が悪いんじゃないんです!全部僕が言い出した事で…。」


二人を応援したいが為に思いついたサプライズだったが、酔いが醒めて冷静に考えると、

内緒でドレスを着たりスタジオ機材を使ったり、バレたら処分ものの行動だった。


「謝らなくてもいいわよ。乗っかった私達も共犯なんだから。

相当スリル満点で楽しかったわ(笑)それにね、私…二人に勇気をもらったの。

明日、みんなに結婚を報告しようと思う。」


ステファニーはアレンを見つめ、にっこりと微笑んだ。

その瞬間のアレンの顔ときたら!


「ほんとにっ!?僕が君の夫だって、名乗ってもいいの?」


「えぇ、もちろん。あなた以上の夫を探そうったって、見つかりっこないもの。

私を愛してくれて心から感謝してる。ありがとう。」


「僕の方こそ感謝してるよ。ありがとう!愛してる…。」


二人の熱い抱擁は、どんな映画のワンシーンよりも美しく、見守る雪見達の胸も熱くする。

お互いを思いやる深い愛さえあれば、年の差なんて取るに足りない事、

と教えてくれてるようだった。


「ねぇ。俺たちも早く帰ろ。」


健人が雪見の耳元で囁く。

どうやらアレン達の熱烈キスシーンを目の当たりにし、早く二人きりになりたいようだ。

クスッと笑って「そうだね。帰ろっか。」と雪見が手を繋ぐと、健人は嬉しそうに

ギュッと手を握り返した。


「じゃ、今日はこれで失礼します。またよろしくお願いします。」


雪見と健人が頭を下げ、おじゃま虫は退散とばかりにスタジオを出ようとした時だった。

「ちょっと待って!」と、またしてもステファニーに呼び止められた。


「あなたのお友達。ホンギくん…だっけ?

カメラテストしたいから、あさって連れて来てもらえるかしら。」


「えっ?あさって…ですか?稽古が終わってからになっちゃいますけど…。

発表会が近いから、多分今ぐらいの時間になるかな…。」


「あぁ、そうだったわね。あなた、ロミオをやるんだっけ。

あのアカデミーの発表会は、スター発掘の登竜門よ。

そこで主役を張るんだから、ケントは凄い役者なのね。

わかったわ。何時になってもいいから二人で来てくれる?

ケントもカメラテストに参加してね。

さっき見せてもらった写メだとビジュアル的には合格だから、あとは…そうね。

あなたとホンギくんの並びを見て、相性いいようなら前向きに採用を考えるから。」


「ほんとですかっ!?絶対いいです!俺たち、絶対相性いいです!!」


「待って待って!それだったら私が撮した写真も見て下さい!

ほらっ!このホンギくん、凄くいいでしょ?こっちも!この角度からも完璧です!

何だったら明日、私が最高の一枚を撮って来ますから見て下さいっ!」


健人と雪見の猛アピールに、ステファニーはアレンと顔を見合わせ笑ってた。


「ほんとに、あなた達って人は(笑)

私とアレンの事といいホンギくんの事といい、いつも他人のことには熱くなるのね。

自分達が『スミスソニア』のモデルに決まっても、そんな興奮しなかったくせに。」


「あ…!スミマセン…。」


その通りです、とばかりに二人がバカ正直に反応したのでステファニーは大笑い。

そしてアレンに耳打ちし何やら話し合うと、にっこり微笑んで言った。


「大方決めたわ。ホンギくんもあのアカデミーの役者なら、ケントと二人で

思う通りの世界観を表現してくれそう。

私が求めてるのは、私の頭の中にあるイメージをそのまま体現できるモデルなの。

多分あなた達なら、やってくれそう。

って、まだ一度も会ってない人をそんな風に思わせるんだから、

二人の友情には恐れ入ったわ(笑)

彼に、リラックスしてカメラテスト受けにいらっしゃい、と伝えて。

じゃ、あさって待ってるわね。お疲れ様!」


「はいっ、伝えます!ありがとうございました!

やったぁ!ゆき姉、早くホンギに連絡しなきゃ!」


「良かったねっ!健人くん。」


健人の興奮度合いから、どれほどの嬉しさなのかが伝わってくる。

大切な友のために、何かしてやりたい。

そう強く願う気持ちが人の心を動かし、思いを現実に近付けた。


あなたのそんな優しさが大好きだよ…。



「もしもし、ホンギ?ビッグニュースだよ!…え?今バイト中?

バイトなんかしてる場合じゃないって!あさっては休みますって言っとけ!

新しい仕事が決まりそうなんだから。

聞いて驚け!あさって『スミスソニア』のカメラテストを受けに行くぞ!

誰が?って、お前だよ、お・ま・え!」


タクシーに乗り込んですぐ掛けた電話の向こうで、ホンギの絶叫が聞こえる。

詳しい経緯を話す健人も興奮覚めやらずで、ルームミラー越しの運転手が眉をひそめた。


…あ。

そういや今野さん…。置いてきちゃった!てへっ。



「ただいまー!めめー!ラッキー!いい子にしてた?

遅くなってごめんね。お腹空いたでしょ。今、ご飯あげるから。」


雪見が風呂に湯を張り猫の世話をしてる間、健人は今野に詫びの電話を入れた。

今野の声も相当デカい。健人が耳からケータイを離すぐらいに。

ま、そりゃそうだ。広い社内で迷子になった揚げ句、健人らに忘れ去られて

置いてきぼりを食ったのだから。


「ほんっと、スミマセン!申し訳ない!いや、あのあと色々ありまして…。」


ペコペコ謝りながらソファーに腰掛け、事の成り行きを説明する健人が可笑しくて。

雪見はクスクス笑いながら隣りに座った。


「だって、迷子になりますよー!って止めたのに行っちゃうから(笑)」

横から茶々を入れる雪見の口を健人が手で塞ぎ、笑いを堪えてる。


長くなりそうな今野の小言時間も、雪見にとっては無駄に出来ない貴重な時間。

手を繋いだり抱き付いたり、ほっぺにチュウしたり。

こんな他愛もない幸せな夜も、あと二晩だけ…。

あさってにはまた帰国し、他の仕事をこなさなければならない。


ふと我に返る。


徐々にお互いの忙しさが加速し始めた。

母を亡くした寂しさ悲しさからは逃れられるが、健人との生活はこれでいいのか。

こんな離ればなれの生活が望みだったのか。


いや、違う。

どんな時も隣りに寄り添い、愛する人を全力でサポートしたい。

それが本心。それが望み。


だが…すでに歯車は回り出してる。

自分の意志だけでは、もはや止められない歯車が。


わかってたでしょ?

わかっていながら選んだ道…でしょ?


健人の胸に耳を押し当てながら、ドクンドクンという命の音を聞く。

この鼓動の聞こえる場所に、なるべく早く戻ってくるから。

だから私のこと、忘れないでいて…。


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