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ドキドキ世界への一歩

…ん…?ゆき姉の歌が聞こえる…。キッチン…か?

相変わらず良い声…。贅沢なBGMだな…。

そっか、今日はレコーディングの打ち合わせがあるんだっけ…。

俺の好きな甘い卵焼きの匂い…。

やっぱいいなぁ、ゆき姉のいる朝…。

こーいうのを幸せっていうんだよね、きっと。

起こしに来るまで寝たふりしてよ♪



「健人くーん!朝だよー!起きて。

今日も通し稽古なんでしょ?朝ご飯いっぱい食べないと持たないよ。

ねぇ、起きて…って、絶対寝たふりしてるー!」


幸せすぎて思わずニヤけた口元を雪見に見られた。

「バレたか!」と笑いながら雪見を捉えギュッと抱き締めると、折れてしまいそうで

慌てて手を緩める。


元々細いんだから痩せる必要なんてなかったのに…。

そういや昨日だってホンギの料理、俺に勧めてばっかで自分は大して食べてなかった。

まさか拒食症…とか?新しいモデルの仕事がプレッシャーなのかも…。

ゆき姉、やるとなったら自分を追い込むから…。


「ねぇ。ゆき姉のポスター撮りって土曜日だっけ?」


「うん、そうだよ。」


健人の隣りに寝ころんだ雪見が、健人の頬を引っ張ったりホクロを指で押したりイタズラしてる。

雪見は健人の柔らかなほっぺたの感触が大好きだった。


「その撮影さぁ。俺も見に行っていい?ラッキーな事に久々の休みだから。」


「えっ?うそ!お休みなの?ほんとに?ほんとに一緒に行ってくれるの?

だったら嬉しいっ!今から緊張して、どーしようかと思ってた (笑)ありがと♪」


雪見が子供のようにはしゃぎながら、健人のほっぺたにキスを繰り返す。

健人は、雪見が痩せたのはやっぱりそのせいだったんだと納得。

まさか母の死去が原因だなんて夢にも思わない。

ただその緊張を解き、少しでも良い仕事が出来るよう手助けしたいとだけ思った。


「俺の初仕事(笑)奥さんがいい仕事出来るよう、サポートすんのも夫の役目でしょ?

なんたって、世界の有名人になるんだから。」


「あ!…ごめん。なんか…健人くんより目立つつもりはなかったんだけど…。」

雪見は急に顔を曇らせ、心に引っかかってた事を口にした。

最初はそんなつもりじゃなかった…と。


「え?なに言ってんの。世界デビューって、めっちゃ凄いことだって知ってる?

誰もが出来ることじゃないんだよ?

運と実力と、神様がくれた才能を手にしてる人だけが進めるステージなんだよ?

ゆき姉はどれも持ってんだから、堂々と進めばいい。

心配すんなって。俺だって負ける気ないから(笑)」


「健人くん…。」


「今度の発表会が俺の第一歩。なんかね、段々欲が出てきたの。

最初は留学中にたまたま与えられた機会だ、ぐらいにしか思ってなかったんだけど。

でも今は、精一杯頑張って次に繋げてやる!みたいな野望を持ってる。

ハリウッドのアクション映画とか出てみたい。

主人公の相棒役とか(笑)。一作目が当たってシリーズ化でもされたら最高っ!」


目を輝かせて熱く語る健人を久々に見た。

きっと今回の留学に、大きな手応 えを感じてるのだろう。


本当にそうなればいい。

健人くんが世界の扉を開く瞬間を、この目で見たい。

私も何か手伝えるといいな。


「ここに来て良かったね。私も付いてきて良かった。

よしっ!健人くんに追いつかれる前に、頑張って前へ進んどこ。

さ、朝ご飯食べよっか。いっぱい喋ったらお腹空いちゃった。」


「その前に…。」


ベッドから降りようとした雪見を、健人が再び捕まえキスをした。

お互いが何者になろうとも、生涯愛するのはただ一人…。




そして土曜がやってきた。

雪見、世界デビューへの第一歩。

超高級有名ブランドの看板を背負って立つモデルYUKIMI、誕生の日!


「ゆき姉、準備できたぁ?うっそ!まだ着替えてないの?

メイクなん て、どーせ現場でやってくれんだから素っぴんでいいんだって!

今野さんが迎えに来ちゃうよ。」


なぜか本人よりも気合い充分な健人。

鏡の前でまだ準備の終わってない雪見の隣りに立ち、急かすのだが…。


「健人く〜ん…どーしよ。息が苦しくなってきたよ…。」


雪見が鏡越しに健人を見て、弱々しい声を出す。

そのSOSを『こりゃマジ、ヤバいパターン?』と慌てた健人が雪見の後ろに立ち、

緊張をほぐすように肩をマッサージしてやった。


「落ち着けって!現場に立てば、ゆき姉のスイッチは勝手に切り替わるから大丈夫。

CM撮影だって『YUKIMI&』のPV撮影に毛が生えたようなもんだよ。

俺がそばでずーっと見てるよ。何なら今日一日、俺がマネージャーやっちゃう?

今野さんより優秀かもよ(笑)」


健人の笑い声と肩に伝わる手の温もりが、雪見の緊張を徐々に解かしてゆく。

『健人くんが見ててくれたら大丈夫かも…。』と思えるようになった。


「ありがと。今日健人くんがお休みなのは、きっと神様の計らいね。

私一人だったら、どうなってたんだろ…。

改めて健人くんを尊敬するよ。だって毎日がこんな緊張の繰り返しでしょ?

私が斉藤健人じゃなくて良かったぁ(笑)」


やっと雪見に笑顔が戻った。

もう大丈夫だね。支度を急いで、いざ出陣!




「すっ、すっげーセット!なにこれぇ?」


「いやいやいや…。雪見って…こんなに期待されてたの?

てゆーか、俺のカッコが場違い過ぎて…帰りたい。」


ニュー ヨーク郊外にある城のような古い建物。

そこが、超高級ブランド『スミスソニア』米国支社。

すべての広告媒体は、ここか英国本社内にあるスタジオで撮影されてるというのだが、

そのスタジオの規模もしつらえもハンパじゃなかった。


「ポスター撮りでこんなの、お前ん時でも見たことないわ!

まったくの想定外!だって無名の新人だよ?」


「新人ってことは関係ないんですよ、きっと。

それだけ今回アジア戦略に力を注いでるって事で…。

ゆき姉への期待度、ハンパないっすね!すっげ!ヤバイ!!」


「ヤバイのは雪見だよ。想像してみろ!

俺たちでさえこんな舞い上がるのに、雪見はどーなるんだ?

こりゃ、サポートに手を焼くぞ。

いや、俺一人 だったら無理だったかも知れない。お前が来てくれて助かったよ。」



二人は雪見の登場をドキドキしながら待っていた。

その仕上がり具合にではない。

スタジオ入りした時、どんな事態がおこるのかを。


だが、ここが雪見の大いなる第一歩目になることは間違いない。

その瞬間を二人の男達は、まるで父親かのような心境で待ちわびている。












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