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ねこが取り持つ縁

昨日、テレビの前でそんなふうに思った人と、ほぼ同じような顔立ちの人が今、目の前に立ってる。

昨日の人と違うところと言えば、この人はフレームの大きめな黒縁眼鏡をかけていた。


誰?と思うのと同時に その人は「久しぶりだね、ゆき姉。」と、こっちを向いて言った。



「ゆき姉、って……まさか健人くん?

あの ちっちゃかった健人くん ⁉︎」


「ひっでぇなぁ!ちっちゃかったって。

俺の唯一の弱点を容赦なく突いてくんだから(笑)

はいはい。今だって、たいした成長はしてませんよー。」


「いや、びっくりしたぁ!本当に健人くんなんだ!!

前に会った時はまだ小学生だったから、とっさにはわからなかったもん。

昨日ドラマで見た俳優さんにそっくりな人が入って来て、めっちゃ焦ったよ。」


そう言った途端、みんながクスクスと笑い出した。



「うっそ ⁉︎ え?マジ大丈夫?

ゆき姉って、どんだけ世間に疎い生活してるわけ?」


つぐみが飲み物をテーブルに運びながら、なぜか呆れ顔をしている。


「よぅ、つぐみ!元気だったか?夜泣きはしてねーか?」


「お兄ちゃんのバーカ!

女子高生なめると、あっという間にファン無くすから!」


「げ!兄貴を脅す気かよ。」


「妹の身にもなってよ。私だって学校で大変なんだから。 シラを切るのも辛いもんだよ?

それにお兄ちゃん、サイン頼まれてきたら怒るしー。」


「お前ねぇ。学校って全部で何人いると思ってんの?

一人にサインしたら、俺も私もになっちゃうだろーが。」


「わかってるから、そんなこと。だから苦労してんじゃない。

お兄ちゃんの評判落とさないために、健気な妹がどんだけ苦労してることか。」


「すまないねぇ〜、こんな人気者になっちゃって。

この借りは、いつか必ずお返ししますから。」


「いつかじゃなくて今ちょうだい!現金で!」


そう言って、つぐみは両方の手のひらを重ねて健人の前に差し出した。

その手を健人が間髪入れずにピシャリと叩いたので、一同大爆笑。


私はと言うと、よく理解できない二人のやり取りに、ただただボケーっとするだけ。

たまらず隣に座ってた母が口を開いた。


「ごめんねぇ、けんちゃん。

この子ったら、猫のお尻ばっかり追っかけてるもんだから、ほんと世間知らずで。」


「いや、いいんです。変に気を遣われるより、ずっといい。

こうやって、たまにふらっと実家に立ち寄るのも素の自分に戻りたいからで。

…で、ゆき姉って、今なにやってんの?」


「ねぇ、見て見てお兄ちゃん!この猫の写真集、ゆき姉が撮ったんだよ。スッゴクいい写真ばっかなの。

見て、この猫!超かわいい ♪

お兄ちゃん、この写真集もう一冊買って!」


「あぁこれね、まだ出版前だから売ってないの。

ちゃんと発売したら、二人には私からプレゼントするから。」


「やった ♪♪ ありがと、ゆき姉 !」


「なになに。カメラマンやってんの?いつから?

猫しか撮らないカメラマンなわけ?

じゃあさ、今度うちのコタとプリンの写真集作ってよ。お金払うからさ。

俺、それを毎日眺めて仕事したら辛い時も頑張れる気がする。」


「なに、お兄ちゃん。そんなに仕事、辛いわけ?」


「そりゃ辛い時だって、あるに決まってんだろ。

お前はいつも能天気でいいねぇー。」


「ふーんだ!」


「あ、私でよかったら、今から撮してあげようか。

カメラ、車に積んであるから、ちょっと取ってくるね。」


「え?マジで?いま撮ってくれんの?ラッキー♪

コタ!プリン!きれいに撮ってもらえよ。

てか、つぐみ。なんでお前が髪とかしてるわけ?

コタとプリンの写真集に、お前は余計なんだよ。」


「ひっどーい!いいじゃん、私も飼い主なんだから一緒に写ったって。

それに、お兄ちゃんばっか写真集出して、ずるーい!」


「なにバカなこと言ってんの。俺のは仕事だろ。シ・ゴ・ト!」




そこへ「お待たせ。」と、雪見が戻ってきた。


カメラを手に入ってきた彼女を見て、みんなは『あっ!』と声を出しそうになる。


さっきまでの ぽあ〜んとした雪見とはまるで別人。

猫に緊張を与えない柔らかな空気感はそのままに、しかし一瞬のチャンスも逃さない鋭い瞳も兼ね備えていた。



撮影が始まると彼女は、まるで空気と同化したかのように、いや、雪見自体が三匹目の猫になったかのように皆の目には映った。

プロカメラマンの鮮やかな仕事ぶりに、誰もが見とれた。



見とれていたのは健人も同じだった。



仕事柄、多くのカメラマンに見つめられ、健人もまた 多くのカメラマンを見てきた。

が、彼女ほど被写体に同化しながら仕事をする人は、今まで出会ったことがなかった。



いつも、写真を撮られながら思ってたことがある。


この写真に、俺の心は映ってるかな…。

見かけだけじゃなく、本当の俺を撮してくれてるかな…と。





二匹と雪見のセッションを離れた所で見守ってた健人は、自分の中に、何かの新しい感情が生まれた瞬間に遭遇し戸惑った。



自分が愛してやまない猫たちを、この人も同じ思いで、いや、それ以上の愛をもって見つめてる。


こんな目をした人と一緒に、猫カフェとか行ってみたいな。

きっと俺まで癒されるだろうな…。


…と、考えてしまった自分に気付きビックリ!




俺…もしかして…ヤバいかも。


こういう人って、ツボなんだよね…。




そんな目で見始めた健人の視線にも気付かず、雪見の即興撮影会は無事終了。


後日、それなりの写真集に仕上げてプレゼントすることを約束し、つぐみ、健人の二人とアドレス交換。

その日は斎藤家をあとにした。



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