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愛する人のために

「ねーねー、誰かのケータイ鳴ってるよ?」


『しまった!ホンギくんに気付かれちゃった!』


雪見は慌ててバッグの中でこっそり電源を切り、素知らぬ顔をする。

今ここで学からの電話に出ることなど、到底出来るはずがない。

なんせ今は、車の中での結婚披露宴真っ最中。

純白のウェディングドレス姿で健人の隣りに座ってるのに、元カレからの電話になぞ

どうして出られようか。

一瞬焦ったが、その直後に鳴った優のケータイに救われた。


「え?…あぁ俺だわ。当麻からのメールだ!

『なんでみんな黒のタキシードなんだよっ!誰が新郎かわかんねーよ!』だって(笑)」


優が、健人と共通の友人らに一斉送信した教会での記念写真。

それにいち早くおめでとうの返信をしてきたのはやはり、一番付き合いの長い当麻だった。


「確かにこの写真、俺たちみんな新郎に見えるー!」


「みーえーなーいっ!」

翔平の言葉を雪見が全力で否定すると健人が笑ってくれた。


その笑顔を曇らせたりはしない。

私はあなたのためにだけ生きる。

この世でたった一人、あなたの奥さんにしてもらえたのだから…。


「ねー翔ちゃん、私と健人くんを撮って!みずきや友達にも直接報告したいから。

あ!うちの母さんや弟にもまだ報告してなかった!

健人くんもまだ実家にメール入れてないでしょ?

みんな3日後だと思ってるから、今結婚式終わったよ♪って写真送ったら

ビックリするだろうなー。だって自分でも信じられないもん(笑)

うーんと幸せそうな写真、送ってあげよーっと。」


そう言いながら雪見は健人の腕にギュッとしがみつき、その肩に頭をちょこんと乗せた。

健人の胸が雪見の温もりにキュッと鳴る。


二人きりになって、思い切り抱き締めたい。

何度も何度もキスをして、その白い肌に触れたい。

いや…。俺の知らない空白の時間を…早く塗り潰したいんだ…。

やっぱ、もうこんな思いはゴメンだよ…。


健人は雪見にしがみつかれた腕をほどき、肩を抱き寄せ耳元で小さく囁いた。

「帰ったら…一緒にお風呂入ろっか。」


「ピピーッ!ちょっと、そこっ!くっつき過ぎっ!イエローカード!」


翔平が笑いながらシャッターを切る。

優もホンギも、心友の幸せそうな笑顔に思わず自分の頬も緩んでることに気付く。

心友の幸せは自分の幸せ。ここまで来た甲斐があったよ…。


「あれ?ちょっと待って。俺んとこにも、めっちゃメールが来だしたんだけど。

……え?

『お前ら、アメリカで何しでかしたの?スゲェ騒がれてるけど?』

って…なにがぁ!?」


翔平が素っ頓狂な声を上げたところに、今度は健人のケータイが鳴った。

見るとそれはチーフマネージャーだった今野からの電話である。


「もしもし?今野さん?お久しぶりです!

え?あ…当麻のマネージャーさんから聞いちゃいました?

スミマセン!そーいうことなんです。

本当は三日後だったんですけど、優たちがサプライズで用意してくれて…。

いや、マジ、たった今報告しようと思ってたんですって!ほんとです!

…えっ?ゆき姉?いますよ、隣りに。

ゆき姉、ケータイ切ってるの?今野さんが話あるから繋いどけって。」


「えっ?私に?もしかして今野さん…怒ってる?報告入れてなかったから…。

やだなー電源入れるの。どうしても入れなきゃ…ダメ?」


「きゃははっ!ゆき姉が、おーこらぁれるぅー!」


はやし立てる翔平にベェーと舌を出しながら、雪見はバッグから渋々ケータイを取り出し、

電源を入れて素早く着信履歴も消去した。

と同時に掛かってきた今野からの電話。


『よぅ!結婚おめでとう!随分と電撃婚だったな(笑)』


「す、すみませーんっ!(あれっ?思ったより機嫌がいいぞ?)

ほんと、ちょっと前に教会を出たんで、これからゆっくりご報告しようと…。」


『そんなことはどうでもいい。』


「えっ?どーでもいいって…。」

(失礼でしょ!結婚をどーでもいい呼ばわりは)


『お前…今日ホワイトハウスのパーティーに招待されたそうだな。

こっちはなーんにも聞いちゃいねーけどよ。』


(ヤバッ!事務所に了承採らなきゃマズかったかー!)

「あ、あのっ!それも合わせて今ご報告しようかと…。

これには深ーいワケがありまして。

そのぉ…元カレ、いや、ナシドマナブって言う科学者が招待されたんですけど、そいつが…」

丁寧に全容を報告しようとしたが、その前に今野に遮られた。


『事務所が大変なことになってるぞ。』


「えっ!?大変なことって…。キャーッ!やっぱマズカッタですぅ?

(どーしよ!勝手に出席しちゃったもんな…)

あのっ!今回のことは健人くんには一切関係ありませんっ!

だから処分されるのは私であって、健人くんは何も関わりない事ですから!

そーですそーです!パーティーは結婚式挙げる1時間前のことだから

まだ夫婦じゃなかったし、連帯責任とか…」


『は?なに言ってんだ?お前だよ、お前っ!

お前さんに世界中からオファーが殺到して、さっきから事務所の回線がパンク状態だ!』


「…え?……おっしゃる意味が…。」


「なにっ?どうしたの?ゆき姉っ!」


今野と雪見のやり取りを心配そうに見守ってた健人が、雪見のケータイを奪い取り

今野に慌てて詰め寄った。


「ゆき姉が処分されるんですかっ!?

ホワイトハウスのパーティー出席は、俺が承知したことです!

事務所に報告しなかった俺が悪いんであって、ゆき姉は何も…」


『おいっ!俺の話をちゃんと聞けっ!まったく似たもの夫婦で困った奴らだ(笑)

いいか?驚くなよ?

雪見に、いや『YUKIMI&』に…世界デビューの話が来たぞっ!」


「…えっ?」


健人は意に反して頭の中が真っ白になった。

それを今野はビッグニュースとして興奮気味に伝えてきたが、自分の内側にある扉は

その話の続きをシャットアウトしたがってた。


でも…。


これはゆき姉本人が聞くべき話。

俺が聞いて、どうこう言うべきことじゃない…。

たとえ結婚してたとしても、ゆき姉の人生はゆき姉のもの。

俺はそれを受け止め、支え、見守るだけ…。


ついさっき思った事とは裏腹な定義を頭に教え込む。

たった今、急ごしらえで立てた夫婦の定義…。

もしそれが綺麗事に聞こえたとしても、自分の本心に鎧を着せてたとしても

愛する人が望むのであるなら、甘んじてそれを受け入れよう。


「わかりました。詳しい話は直接ゆき姉にしてやって下さい。喜ぶと思います。

俺は彼女の決定に従いますから…。」


そう言うと健人は「今野さんからビッグニュースだって。はいっ。」

と雪見にケータイを手渡した。



程なく、暗がりの窓の外に目を移した健人。

すれ違った車のヘッドライトが、綺麗で寂しげな横顔を浮かび上がらせる。


大丈夫。私はここにいるよ。いつでも健人くんの隣りに…。


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