表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
391/443

まさかの世界デビュー?

「今日はご無理を聞いて頂き、ありがとうございました。

他に何件も当たったのですが、なんせ信者でもないしこんな時間だし、

急な話過ぎてどこも断られて…。

神父様が快く引き受けて下さったお陰で、大切な友人の門出を皆で一緒に

祝福してやることが出来ました。」


式が滞りなく終わり、この教会を手配した優が神父様に握手を求めて礼を言う。


「いいえ、あなたの熱意がきちんと伝わったからですよ。

わざわざ日本から親友のために飛んでくるなんて、ここでお引き受けしなければ

私が神様から叱られてしまいます。」


神父様がそう微笑みながら健人、雪見とも握手する。


「あなた達も良い友人をお持ちで幸せだ。

今度はあなた達が、その幸せを皆に分け与えなさい。

イエス様の教え『汝の隣人を愛せよ』とは、あなたに関わるすべての人を

大切にしなさいと言うことです。

友人は勿論、今一番感謝して大切にすべきはご両親だ。

たとえすでに天国に召されていたとしても、二人が出会い伴侶となることが出来たのは、

あなた達をこの世に生んでくれたご両親のお陰なのですから。」


神父様の言葉に雪見も健人もハッとした。


そうだ、日本にいる家族に結婚の報告をしなくては。

まさか今日、式を挙げるなんて思ってもいないからビックリするだろうな。

当麻やみずきや多くの友達、スタッフ、応援してくれたファンのみんなにも

写真と共に感謝の気持ちを伝えよう。

幸せな今があるのは、支えてくれたみんなのお陰なのだから。

そして母にはこう伝えよう。『産んでくれてありがとう』と…。


雪見は病床の母を思い出し、幸せそうな娘の写真を見たら少しは元気になってくれるよね、

と淡い期待を抱いた。


「翔ちゃん、写真撮って!ルミックスフォンに変えたんでしょ?

この中で一番いいカメラ機能搭載してるのはそれだもん。

私、カメラなんて持ってきてないし。」


「えーっ!俺が撮るのぉ?俺も写りたいのにー!」


「あとで撮ってやるって!

まずは新郎新婦を撮って、ウエディングドレスの出資者にも報告メール送らないと。」


優になだめられ、翔平は渋々スマートフォンを構えた。

目の前の二人は、幸せオーラを全開にしてキラキラと輝いてる。

普段から仲良しでお似合いの美男美女だとは思ったが、今日はいつもの百倍増しに見えた。

『結婚ってやっぱ、いいもんなんだね。俺にもいつかこんな日が来るかな…。』


画面を覗きながら、絵になる二人をボーっと眺める。

すると被写体である雪見から、すかさず叱責が飛んだ。


「翔ちゃん!撮影中は考え事しないっ!ちゃんと集中して!

いい?綺麗に撮ってくんないと怒るからっ!」


「ちょっとぉ!俺、素人だよ?プロのカメラマンにそんなこと言われたら泣くよ?」


みんなで大笑いしながら撮影会は続く。

優、翔平、ホンギが健人と交代。新郎のフリして雪見と写真に収まったり、

神父様とも一緒に記念撮影したり。

最後の一枚は、神父様に何度もシャッターの切り方を教えて優、健人、

雪見、翔平、ホンギが勢揃いして撮してもらった。


「わ!神父様が撮してくれたのが一番素敵♪

ありがとうございました!本当に何とお礼を申し上げたらいいのか。

お母様にも、こんな素敵なブーケをプレゼントして頂いて…。

遅い時間になってしまったから、お母様はもう休まれてしまったかしら。

もしよろしければ…お礼と言っては何ですが、お母様に私から一曲、

歌をプレゼントさせていただけませんか?」


「えっ?」


突然の申し出に、神父様は目をパチクリ。

だが、すぐに何かを思い出したように「あなたはもしや…。」と雪見に尋ねた。


「あなたたち、ホワイトハウスからここへ来たと言いましたよね?

もしかして…大統領がおっしゃってた日本の歌姫とは、あなたのことでは?

パーティーで『アメイジンググレイス』を歌いませんでしたか?

ここへ来た時に着ていたブルーのドレスにも見覚えがある…。

そうだ!さっき、あなたをニュースで見た!」


「ええーっ!ニュースぅぅう!?」


「なになに?神父様、何て言ったの?」

英語が得意ではない翔平が、隣の優に通訳を求める。


「ゆ、ゆき姉が…どうやらアメリカの有名人に仲間入りしちゃったみたい…。」


優が訳したことは、微妙に間違いだった。

なぜなら、神父様が言った「ニュースで見た!」とは、アメリカの

ニュース番組だけの話ではなかったから。


なんと、雪見が大統領ファミリーの前で歌い大絶賛された時の映像が、

何者かの盗撮によってYou TubeにUPされてしまったのだ。

その事をアメリカのテレビ局が大々的に報じたのだが、知らぬは本人ばかりなり…。

ホワイトハウスを後にして、この教会で健人と誓いのキスをしてる頃には、

その動画再生回数は百万回を突破。

すでに雪見は世界の歌姫になっていた。


「是非とも歌を聴かせて頂きたい!今、母を呼んで来ます!」

慌てて聖堂を出て行った神父様の後ろ姿を、ただボーゼンと眺めるだけの雪見。


「うそ…。またおかしな事態になってる…。どーしよ…。」


「一体ホワイトハウスで、何やらかしてきたんだか。」


さっき雪見に叱られた仕返しとばかりに、翔平が大袈裟に呆れてるところへ、

神父様が高齢の母の手を引きながら聖堂へと戻って来た。


「先程はこの花束、ありがとうございました。

とっても嬉しかったので何かお礼をと思ったのですが、生憎何も持ち合わせてなくて…。

昔たった一回だけ、教会で歌ったことがあるのを思い出したんです。

中学生の頃に入ってた合唱団でのことなんですけどねっ。」


「20年も前に歌ったきりで、上手く歌える保証はないんですけど。」

と笑いながら雪見が歌い出したのは…。

シューベルト作曲「エレンの歌第3番」の『アヴェマリア』


いつものごとく目を閉じて歌い出したのだが、その瞬間皆は身動き一つ出来なくなった。

聖堂に響き渡る歌声は柔らかく、だけど力強い聖母マリアの声そのものだと

誰もが錯覚してしまったのだ。


「おぉ、なんてことでしょう…。マリア様が降臨された…。」


神父様の母が、涙を流しながら十字を切る。

その年老いて小さくなった肩を抱き締めながら、神父様も涙していた。

もちろん優も翔平もホンギも。

しかし健人だけは、泣くのを忘れて見とれてる。


こんなに凄い人なんだ、ゆき姉は…。

なのに歌をやめちゃったなんて…。俺の…ため…に?





「はぁあ!?結婚指輪、日本に忘れて来ちゃったのぉ!?

だから誓いのキスしか無かったってわけ?どんな結婚式だよ、まったくー!」


「翔ちゃん!健人くんが泣くから言わないで!」


「あははっ!健人らしからぬ失態だな、そりゃ。

ま、どーせ日本に戻って落ち着いたら、身内だけでもう一回やるんでしょ?

そん時に忘れなきゃ、それでいいさ(笑)

それより、まだ乾杯してなかったな。

ニューヨーク着くまであと3時間はかかるから、車ん中で祝賀会やろうぜ!」


やっと癒えた傷を再び翔平に突かれ、落ち込む健人を優が笑いながら慰める。

ホンギはよっぽど翔平とウマが合うのか、絶妙なボケとツッコミで漫才コンビのよう。

結婚式帰りのリムジンの騒がしさは、いつもながら小学生の遠足バスだった。


「じゃ、健人とゆき姉の結婚を祝して、カンパーイ!

うめーっ!さすがドンペリくんだぁ♪これ、優のおごりだよね?」


「翔平と全部ワリカンだよっ(笑)」「うっそーっ!?」



ワイワイがやがや大はしゃぎしてるところへ、雪見のケータイがふいに鳴る。

見ると…それは学からの電話であった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ