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幸せな結婚式

「これを…私…に?」


信じられない気持ちで箱から取り出し、そっと広げてみる。

それはシルクサテンで出来たマーメイドラインのウェディングドレス。

箱に再び目をやると、なんと雪見が今着てるブルーのドレスと同じブランドではないか。


「うそ…。このブランド…。」


「気に入ってくれた?俺と翔平からの結婚祝い。当麻とみずきとTakaも出資したから。

あ!あとホンギも頑張って一口乗ったよ。」


「晩ご飯一回分だけ…。そんなんでゴメンナサイ…。」


「ホンギくんまで…。ありがとう…。」


お金がなくて朝も昼も食事を抜くのを知ってるから、雪見は有難くて涙が止まらない。

それを見てホンギが「泣かないで。」と優しく頭を撫でた。


「当麻たち…どうしても都合つかなくて来れなかったけど、スゲェ来たがってたよ。

ゆき姉のウエディングドレス姿、写メして送ることになってるから。」


「あのねあのね、言っとくけどそれ、めーっちゃ高かったから!

俺、思わずゼロの数かぞえ直したもん!え?えぇーっ!?て(笑)

けど…健人がその青いドレスに、負けるわけいかねぇだろ?」


「えっ?」


翔平が言う「青いドレス」とは、学を指してるとすぐにわかった。

だが優と翔平は、肩を組みながら不敵な笑みを浮かべてる。

俺たちをナメんじゃねぇーぞ!と言わんばかりに…。


「もしかして…それでわざわざ日本から飛んできた…の?

健人くんを心配して…?」


「ほんとはさ、『ホワイトハウスゆき姉救出作戦』ってのも計画にあったんだけど、

どーみてもムリそうだから止めといた(笑)

ゆき姉が一人で出てきた時はホッとしたよ。」


「ごめん…私のせいで…。」


ゲラゲラ笑う翔平の横で、優が反対側の手を健人の肩に回した。


「こいつの大事なお姫様は、みんなでお守りしないとねっ。

健人の泣き顔なんて、俺たち見たくないから…。」


「あれ?そう?俺は健人の泣き顔も結構好きよ♪」


「優…。翔平…。」


健人が自分より20センチも高い優を横から見上げてる。

いつも自分を雨風から守ってくれる、揺るぎない大木のような優…。

その向こうで翔平は、草原にそよぐ若草のように屈託なく笑ってた。


「ホンギも来いよ!俺たち今日から心友だろ?神様に永遠の友情を誓おうぜ!」


黒のタキシードを着たイケメン4人が、幸せそうに肩を組んでふざけ合ってる。

顔をくしゃくしゃにして笑う健人の嬉しそうな声ときたら…。

こんな幸せな光景は久しぶりに見た気がする。


みんな…本当にありがとう。

いつまでも健人くんのこと、よろしくお願いします…。


「あー、お取り込み中のところ申し訳ないが、そろそろ始めようか?」


待ちくたびれて苦笑いの神父様。

雪見は「ごめんなさいっ!」と大慌てでドレスを抱え、着替えに出て行った。

翔平が言うところの見届け人である3人は、最前列に着席。

これから行われるセレモニーを前に、我が事のように神妙な顔してる。

そして健人はと言うと、ドアの手前で雪見の登場をドキドキしながら待っていた。


本当は3日後に、二人きりで挙げるはずだった結婚式…。

介添人どころか親も友人もなく、新郎新婦と神父様だけでひっそりと執り行われるはずだった。

それが今、ここに3人の親友が見守ってる。


信仰心はないけれど、今日ばかりは神に感謝しよう。

この生涯に素晴らしい友と出会えたこと…。

そして何より、命を懸けて守りたいほど愛する人を、花嫁としてここに

迎えることが出来ることを…。


その時だった。

ギギーッと聖堂のドアが開き、純白のウエディングドレスに身を包まれた雪見が

恥ずかしげにゆっくりと、健人の隣りへとやって来た。

手には野の花のブーケを持って…。


「これ、神父様のお母様に頂いたの。

何も無いと手が寂しがるでしょ?って。綺麗でしょ?」


嬉しそうに健人の目の前に突き出したそれは、つい今しがた夜の庭先から摘んできたらしい草花に

ピンク色のリボンを掛けた、急ごしらえのブーケ。

だけどとても良い香りがして可憐で、まるで雪見のような花束だった。


「良かったねっ。綺麗だよ、ゆき姉も花束も。」

「えへへっ。このドレス、似合ってる?」

「うん、似合ってる。いっそ、このブランドのモデルになれば?」

「ならないよ。これから健人くんのお嫁さんになるんだから。」

「そっか。俺のお嫁さんか…。」


健人は雪見が可愛くて愛しくて、嬉しくて仕方なかった。

今すぐ抱き締めて、百万回のキスをしたいほど。

だけどレースのヴェールが邪魔だった。


「ねぇ。これって被ってないとダメなの?」

健人が雪見の顔に掛かるヴェールを上げようとした時だった。


「コッホン!誓いのキスはまだ後です。それよりも、二人ともこちらへ来なさい。

そんなところに居たんじゃ、神様に誓いの言葉が聞こえませんよ。」


「あ…!」


健人と雪見はまだ聖堂入り口でいちゃついてたのだ。

慌てて腕を組み、神父様の前へ歩み寄る。

後ろからは「クックック…。」と3人の噛み殺した笑い声が聞こえてきた。



「健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、

これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、

真心を尽くすことを誓いますか?」


「はい、誓います。」「誓います。」


「では、誓いのキスを。」


「キスだってー!」「シーッ!」


翔平が優に怒られた。

目の前で3人が、固唾を呑んで凝視してるのがわかる。

雪見は恥ずかしくて仕方なかった。

みんなは俳優だから、人前でするキスなんて慣れっこかも知れないけど、

私は女優じゃないのよ!と…。


「やだ…。みんな見てるもん。」


「ヤダ…ってったって、誓いのキスしないと式が終わんないでしょ?」

やっと訪れたこの時に、何を言い出すのやら…と健人が溜め息をつく。


「だって翔ちゃん、絶対ヒューヒュー♪とか言いそうだもん!」

「言わねーよっ!小学生のガキじゃあるまいし。」


「コホン!では誓いのキスを!」

再び神父様に促され、健人が両手でそっと雪見のヴェールを持ち上げて瞳を見つめる。


「愛してる。一生変わらずに…。」


「私が健人くんを幸せにしてあげる。永遠の愛は…ここにあるよ。」


お互いの柔らかな微笑みが、お互いの心を真綿のように包み込む。

永遠の愛なんて無いと思って生きてきた健人が、確かに今ここにあると信じることが出来た。


二人の唇が静かに重なった時、やはり翔平は「ヒューヒュー♪」とはやし立て、

優はパチパチと大きな拍手をし、ホンギはウルウルと涙ぐんでた。


永遠の愛の見届け人として…。


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