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嬉しい出迎え

「うそ…。健人…くん?え…?

ちょっ、ちょっと止めてっ!Pull over!(車を止めてっ!)」


おいおい、またトイレかい?

このお嬢さんに止めてと言われたのはこれで2度目だぜ、まったく…。


…と、従順な執事と言えども思ったに違いない。

幸いにして、雪見が一足先に会場を後にしたお陰で後続車はない。

運転手は緩やかに車を止め、「どうぞ。」と言うように雪見を振り向いた。


「Thank you!」


雪見がブルーのドレスの裾をつまみ、スッと車から降りる。

その途端、ホワイトハウスから出てくる有名人を一目見ようと集まった人々から

キャーッ!と黄色い歓声が上がった。

その歓声の向こうに立っていたのは…まぎれもなく健人である。


「健人…くん?本物…?私…夢を見てるの?」


ここに居るはずのない健人が、すぐそこにいる。

会いたくて会いたくて仕方なかった人が、今ここにいる…。

雪見は周りの視線も声も一切届かない、雲の上を歩いてるような心地で

一歩ずつ確かめるように足を前へ進めた。


「お帰り、ゆき姉。迎えに来たよ。」


健人はなぜか黒のタキシード姿でそこに立っていた。

穏やかな笑みをたたえ、まるでシンデレラを迎えに来た王子様のように…。


「うそ…健人くんは今頃ニューヨークにいるはずなのに…。

私やっぱり…夢見てる…?」


「オバケじゃないよ。ほら、ちゃんと足がある。

早くゆき姉に会いたいって願ったらドラえもんが、どこでもドアを出してくれた(笑)」


目の前の人が笑ってる。

私の大好きな笑顔で、顔をクシャクシャにして嬉しそうに…。

あぁ本物の健人くんだ…。神様、ありがとう…。


その姿が涙にぼやけてゆらゆら揺れた時だった。

横から大きな声がした。


「誰がドラえもんやねんっ!」 

「…えっ?…ゆ、優くんっ!?」


「健人ぉ!それを言うなら、どこでもドアじゃなくてタケコプターでしょ(笑)

ヤッホー!ゆき姉ーっ!俺も迎えに来たよー!」

「うそっ!?翔ちゃん!」


「ついでに俺もお供しました、ワンッ!」

「ホンギくんまで!…ねぇ、なんで今『ワンッ!』て吠えたの?」


「うらしまたろう?…いや違った。犬がお供したのって、ももたろう?

なんかそんな感じで付いてきたから、急に吠えたくなった(笑)」


健人も優も翔平も、お腹を抱えて大笑いしてる。

まるでずっと前から親友だったみたいに居心地良さそうに…。


「予想外にめっちゃ面白いヤツだよ、こいつ。

俺、ここに着くまでに何回も車ん中でビール吹いたもん。

タキシードの股間が、いい感じにまだ濡れてる(笑)」


翔平とホンギが、じゃれ合って仲良く肩を組んでる光景が信じられない。

健人と優が、顔を見合わせて目の前で笑ってるのが信じられない。

だってここは、みんなが居るはずのない遠く離れたワシントンなのだから。


「やっぱり私、夢の中…?それとも酔ってる…?

だって優くんと翔ちゃんは日本に居るはずだもん…。

それに健人くんとホンギくんだって、今頃はレッスン終わってヘトヘトで

NYの家に居るはず…。

しかもなんで4人ともタキシード姿なの?あり得ない…。」


「おいっ!ゆき姉がユーレイでも見てるみたいな顔してるぞ。

早く誰か説明してやれよ(笑)」

優が翔平に向かって大笑いしながら言う。


「えー!めんどくせー!それよか早くここを退散しようぜ。

なんか盛り上がってるうちに、めっちゃ写メられてんですけどー!」


翔平が自分らの状況に気付き、辺りをキョロキョロ見回した。

確かに、出待ちをしてる人達以外にも報道陣のカメラさえこっちを向いてる。


「みんな勘違いしてるみたい。

あなた達がそんな格好だから、パーティーの招待客と勘違いされてるのよ。

私、早く帰りたくて先に出て来ちゃったけど、これからここにいっぱい

ハリウッドスターや著名人の乗った車が出て来るの。」


「え?そーなの!?それでゆき姉にまで黄色い歓声が上がったんだ。

あの人達はゆき姉を、女優さんかなんかと勘違いしてるってわけね。

てか、その衣装綺麗だねー!」


「マゴニモイショウ!」


「ホンギ、ナイス突っ込み!」


イェーッ!とホンギと翔平がハイタッチしてはしゃいでる。

雪見は「相変わらず失礼なヤツ!」と頬を膨らませ、翔平の腹に軽くジャブをお見舞いした。


健人がキャハハ!とお腹を抱えて笑いながら、幸せそうに嬉しそうにその光景を見てる。

その横顔を眺めながら優は、日本から飛んで来たことは間違いじゃなかった、と

親友にプレゼント出来た笑顔を嬉しく思った。


「せっかくだから、帰る前にここで記念写真撮ろうぜ!

もう撮られまくっちゃってるから、どーせなら開き直って『俺たちハリウッドスターだぜ!』

って顔でさ。」


優の面白そうな提案に翔平は大乗り気。


「いいねいいねー!どーせツイッターなんかで拡散されるなら、

思いっきりカッコイイ写真にしようぜ!世界が勘違いするようなさ♪」


「じゃあ私、運転手さんに頼んでくるっ!」


雪見は、乗ってきたリムジンの窓をコンコン♪

「Could you take our picture,please?」(シャッター押してもらえますか?)


デジカメの使い方を知らない運転手に、操作を説明しシャッターを切ってもらう。

カメラマンの腕は定かではないが、なんせモデルは超一流。

雪見と健人を真ん中にして、両側に優、翔平、ホンギが勢揃い。

まるで何かのレッドカーペットだ。

この時の画像は瞬く間にネット上に拡散し、日本ではこのメンバーで新作映画か?

とまことしやかに噂が流れた。


「じゃあ、騒ぎが大きくならないうちに、そろそろトンズラしようぜ!

車があっちで待ってるし。」


そう言いながら翔平とホンギは、肩を組んで歩き出す。

それに続いて健人と優も歩き出すと、雪見が慌てて後ろから声を掛けた。


「ちょっと待ってぇ!もちろん私もそっちの車に乗せてくれるんでしょ?

こっちの運転手さんに、乗らないって言ってくるー!」


雪見は、散々世話を掛けた運転手に多めのチップを手渡し謝りながら、

ホワイトハウスに戻って学を乗せてやって欲しいと頼み込む。

そして了承した車が、ゆっくり走り出そうとしたその時だった。


「あ、待ってーっ!STОP!!」


何を思ったか雪見が突然車の前に飛び出し、両手を大きく広げて立ちはだかるではないか!

急ブレーキを踏む音に誰もが悲鳴を上げ、健人は血相を変えて駆け寄った。


「何やってんだよ!バカじゃないのっ!」


普段大声を出したりしない健人が凄い勢いで雪見を叱った。

心臓が破裂しそうになった。目の前で愛する人が轢かれでもしたら…。


「ごめん…。車に大事な物を忘れたの…。取ってくるね。」


雪見が車に乗り込んで取って来た物。

それは健人への大事なお土産『ホワイトハウス・ハニー・エール』であった。


「これ、どうしても健人くんに飲ませてあげたくて…特別に大統領から頂いてきたの。

帰ったらすぐ乾杯できるようにって、車の冷蔵庫で冷やしてたのを忘れてた…。」


ビールの由来と共にもらえた訳を伝えた雪見は、健人にビールを差し出し、

大統領に言われた通りにニッコリ微笑んでこう言った。


「次はホワイトハウスでこれを一緒に飲もう。」


「ゆき姉…。」


大統領と雪見からのエールを、健人は一生忘れないだろう。

『101回目のプロポーズ』よろしく車に飛び出した雪見の勇姿と共に…。

まぁ一番忘れられないのはきっと、3回も車を止められた運転手に違いないが。



「おーい!そろそろ次行くぞー!時間が押してるから早くー!」

「???」


「翔ちゃん、またリムジンなのぉ!?」と憎まれ口を言いながら雪見と健人が乗り込むと、

白い大きな車は滑るように発進。


「なぁ、次行くぞって、真っ直ぐニューヨークに帰るんじゃないの?」


「お前らの送迎のために、俺と翔平がわざわざ日本から来たと思う?」


不思議顔した健人の質問に、優が翔平と目を合わせてニヤリと笑う。

それを合図に、あっという間に目隠しされてしまった二人。


「お前ら、またリムジンに目隠しかよぉぉぉ!」


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