表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/443

真由子プロデュース

真由子は自分のワードローブの中から私に似合いそうなものを引っ張り出し、次々と着替えさせた。


「うーん…。どうもしっくりこないなぁ。なんか違うんだよね。」


真由子はバリバリの商社ウーマン。仕事着はスーツ。

性格的に気崩した格好が出来なくて、私服もパリッと糊のきいたシャツにパンツスタイルが多い。


それは真由子自身を象徴していて良く似合うのだが、私が着てもそのかっこよさは再現できない。


「だって、真由子と私じゃタイプが違いすぎるもん。」


何でもテキパキ、性格きっちり。

竹を割ったような姉御肌の真由子と、どちらかというとおっとりのんびり、ぽわ〜んとした性格の私。

あまりにもタイプが違いすぎる。

真由子の服は借り物を着せられてる感ありありで、さっぱり身体に馴染まない。


「健人くんとの仕事初日にね、真由子の格好を真似して行ったんだ。

あの斎藤健人の専属カメラマンなんだから、出来る女に見られなくちゃ、って。

けど…それに見合った行動しなくちゃと思ったら、くたびれちゃった。

やっぱりこの格好は、真由子だから似合うんだよね。

私が着ても、らしくない気がする。」


「そうだね。私もそう思った。

うーん。バリバリの美人カメラマン、って路線はアウトか…。

じゃあ、次はどんなイメージで行こうかな。

やっぱ、むやみやたらと服を着てもダメだね。

もっとしっかりしたイメージ、作ってからじゃないと。

よし。どんなタイプの美人カメラマンでいくか、コンセプトから決めるか。」


「その美人カメラマンってのは、どーにかなんないの?」


「戦略なんだから慣れなさいっ!」


二人はファッションショーを中断し、また座り直してワイン片手に作戦を練り直した。



「やっぱ、雪見から離れすぎたタイプじゃダメだね。

最初は取り繕えても、次第にボロが出てくるようじゃマイナスだ。

会見直後からあんたは日本中の注目を集めるんだから、どこから見ても自然でないと。」


「ちょ、ちょっと待って!なに?その会見って。

私が日本中の注目を集めるって、どういう事?

一体なに考えてんのよ、恐ろしい!」


「写真集を成功させるための戦略に決まってんでしょ!それ以外に何があるの?

まず早いうちに健人とあんたで、制作発表会を開かなきゃ。出版社主催でね。

うちの出版社からクリスマスに、斎藤健人の写真集を刊行しますって発表してもらうの。

写真集のコンセプトや、あんたと健人の間柄なんかも説明するわけ。


で、そこで重要な事が一つ!

あんたが次の日のスポーツ紙に、大見出しで載るぐらい注目されなきゃダメなわけよ。

『斎藤健人と美人カメラマンの夢のコラボ写真集発売!』とかね。

だからあんたは『美人カメラマン』ってワードが浮かぶようでなくちゃダメなのっ!」



はぁぁぁ……。


もはや私は、ため息しか出ない。



「これからどうなっちゃうの?私…。

しかもさ、よく考えたらそれって、ただ真由子が頭ん中で考えてるだけの話でしょ?

何一つ現実のものにはなってないんだよ?

健人くんの事務所はもちろん、真由子のお父さんにだって、まだ一言も交渉してない。」


「じゃあ、交渉すればいい。」


「そんなに簡単な話じゃないから!」


「意志が固まってんなら、あとは実現に向けて進んでくしかないんだよ?

どうしようどうしようってオロオロしてても、何一つ夢は叶わない。

あんたはこの仕事に命を賭けるんでしょ?

だったら一歩ずつでも進むしかないじゃない。


ねぇ。

私の作戦、もし実現したとしたらどう思う?こんな売り方じゃ、嫌?

何か他に雪見が考えてる事はある?」


「別に、考えてる事はないけど…。

本当に真由子のシナリオ通りになってくれたら、仕事もやり易くなるなぁとは思うけど…。

私も健人くんも…。」


「よし。じゃあ決まりだ!

どんなタイプの美人カメラマンにするかは後で考えるとして、まずは話を進めるね!」


そう言いながら、真由子はどこかへ電話し始めた。



「あ、もしもし、パパ? 元気だったぁ?

うん、真由も元気にしてるよ!昨日までニューヨークだったの。

相変わらず忙しいけど、仕事は楽しんでるから大丈夫!安心して。

それより真由ねぇ、パパにお願いがあるんだ。

今、俳優の斎藤健人が、写真集を企画してるらしいんだけどぉ…。

その出版を、パパの会社で受注できないかなと思って。

あー、まだ出版社は決まってないらしいんだ。

それをなんとかパパの所で採って欲しいの。

他社に決まったら困るから、明日にでも交渉して欲しいの!


え?理由?そうだね。それが解らないと交渉のしようがないか。

…わかった。じゃあこれから、家に説明しに帰るわ。

友達一人連れて行くから、ママにも伝えといて。

じゃ、これからタクシー乗るから、また後でねっ。


さ、雪見!出かけるから用意して。」



私は呆気にとられてた。

真由子の行動力は、さすがに商社ウーマンの真骨頂。

だが、それ以上に衝撃的だったのは、真由子が父親と話す時の変わりよう!

今まで聞いたこともないような甘え声で「パパ」と呼んでいた。


一気に真由子に対する印象が変わった。

なんだか、見てはいけないものを見てしまったよう。

このあと、どんな顔で真由子と話せばいいのかわからなくなった。



それに気付いた真由子が一言。


「あ、私、ファザコンなの。」と言った。


私は「あぁ、そうなんだ…。」としか返事ができなかった。




突然、真由子の実家へ連れて行かれることになった私。

一体、自分で蒔いた種は、この先どうなってしまうのか。


あのまま健人くんと、ご飯行ってれば良かったかな…。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ