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パーティーの朝に

『ただいまユナイテッド航空 ワシントン・ダレス国際空港行き804便の

最終ご搭乗案内を致しております。ご利用のお客様は、お急ぎ…』


「しょーへーっ!こっちこっちー!急げぇ〜!!」


今の今まで何とかオーラを消して待ち続けた優だったが、こんな緊急事態だから仕方ない。

人混みの中で大声を出す暴挙の結末は目に見えてたが、なんせ一分の猶予もなかった。


190センチもある優が背伸びをし、向こうに見つけた翔平に向かって

手招きしながら出した大声は、ごった返す人々の頭上を音速で駆け抜けて

ピンポイントで翔平の元までたどり着いた。

…が、その瞬間、居合わせた全員が振り返ったように見えたのは思い違いではないだろう。


「ごめんなさい!時間がないんです!

連れが来たら、猛ダッシュでゲートをくぐらなきゃならないんで!

だからお願い!どうかそっと見逃してー!!」


案の定、囲まれてしまった優。

そこへ、瞬間移動したかのように翔平が息せき切って現れた。


「ハァハァハァ…し、死ぬ…。もう絶対ヤダ!こんな海外旅行…。

ハァハァ…とにかく行こ…。みんな、悪いっ!通してっ!」


あまりにも翔平が、イケメン俳優にあるまじき瀕死の形相だったせいか

スッと道が二つに割れ、いとも簡単に優救出に成功!


「ありがとう!じゃあ、行ってきまーす!」


どこまでも優しい優は、お願いを聞いてくれた人達に飛び切りの笑顔でお礼を言い、

息も絶え絶えな翔平と共に、目指すゲートまで駆け出した。


さぁ!健人にナイショのサプライズ旅行の始まり始まり〜♪



昨日の朝、突如思いついて決めた今回のアメリカ行き。

マネージャーやスタッフらにも驚かれ呆れられたが、快く諸々の手配をしてくれた。

NY在住の古くからの友人は、昨日いきなり頼んだ無理難題をクリアして

全ての手はずを整えてくれた。


そして隣の翔平は…すでに爆睡中。

無理もない。連日のハードスケジュールはお互い様だが、この最終便に乗るために

夕方まで入ってた取材を急遽変更してもらい、すべて午前中に終わらせて

猛ダッシュで駆け付けたのだから。


最初から無謀な思いつきなのはわかってた。

だけど行かずにはいられない気持ちが勝ってた。

きっと翔平もわかってくれたんだと思う。

何も聞かずに「よし!行こっ!」と話に乗ってくれたから。

自分一人じゃ無理だった。ありがとな、翔平…。


親友のピンチには地球の果てからでも駆け付ける。

それが俺たちのキズナ。




機上の人となった二人が早々に寝息をたてる頃、NYの健人と雪見は

微妙な緊張感漂う朝を迎えた。


「おはよ。良く眠れた?何だか寝返りばっか打ってたみたいだけど…。」


寝ぼけまなこでリビングのソファーにドサッと腰を下ろした健人に、

雪見がスッとカフェオレを差し出し、自分も隣に腰掛けた。


「サンキュ。うーん、寝たような寝てないような…。

そーいうゆき姉こそ、ちゃんと寝たの?遅くまでなんかやってたじゃん。」

カップ片手に肩を抱き寄せ、おはよう代わりにほっぺにチュッとキスをする。


「あ、ごめん!だから眠れなかったの?

今日、大統領の娘さん達にプレゼントしようと思って、猫の写真集をラッピングしてたの。

情報によると犬派らしいんだけどねっ(笑)」


「そう!でも喜ぶよ、きっと。あ!うちのコタとプリンの写真集も入れてくれた?(笑)」


「もちろん!だから健人くんとつぐみちゃんも一緒に行くの、ホワイトハウスに。

健人くんが一緒だと思えば、どんなことも楽しめる…。」


楽しめると言いつつ、雪見はちっとも楽しそうじゃなかった。

好奇心旺盛な彼女のこと、本来ならホワイトハウスでのパーティーご招待に

浮かれていてもいいはずなのに…。


「ゆき姉…。俺なら大丈夫だよ。何とも思っちゃいないから。

そりゃ話を聞いた時は多少ムッとしたけど、今は別になんにも思わない。

だから楽しんでおいで。こんな事、もう一生ないんだから。

俺が写った写真集をアメリカ大統領が見るって、よく考えたら凄くね?

まぁ主役はコタとプリンで、俺はおまけだけど(笑)」


そう言って笑った健人が優しすぎて、涙がじんわり滲んでくる。


「あれ?なんで泣いてんの。涙は結婚式まで取っときなさい(笑)

ねぇ…。俺、やっぱ帰りは迎えに行くよ。終わりは9時頃でしょ?」


「無理だよ。だってアムトラック乗ってもNYからワシントンまで

3時間はかかるんだもの。

5時までレッスンして、それからなんて無理!

だからホンギくんのユキミ救出作戦とやらも計画倒れになったでしょ?(笑)

大丈夫。学とタクシーで往復するけど料金は学持ちだし、心配することは何にもないから。

ちゃんとベッドで私を待ってて。

ドレスの後ろのファスナー、手が届かないから下ろしてもらわないとねっ♪」


雪見は小さくウインクして健人に口づけた。

私が愛する人はあなただけ…。



「じゃ、行って来る。ゆき姉も頑張ってきて。」


「うん。健人くんもねっ。明日はビシッと仕事するから覚悟しといて(笑)

じゃ、行ってらっしゃい!気をつけて。」


いつもは二人で歩く道を、今日は健人一人で歩いてく。

角を曲がるまでアパートの外で見送って、背中が見えなくなったら気持ちを切り替えた。


よしっ!じゃあ急いで家事をやっつけて、美容室の時間までお肌の手入れでもしますか!

最近ずっとサボってたからなぁー。

あんな高級ショップの美容室なんて、ほんとは行きたくないんだけど…。

だってなに言われるか、わかったもんじゃない!


ぶつぶつ言いながらエントランスを通る。

すると先程は席を外してたコンシェルジュのマーティンが、雪見に声を掛けてきた。


「おはようございます。今日は斉藤さま、お一人で行かれたのですか?

あ…そうでしたっ!今日はホワイトハウスでパーティーのある日!

ネットニュースで拝見致しました。なんと名誉なこと!明日の新聞が楽しみです。」


「えっ!?し、新聞っ??大統領の個人的なパーティーって聞いてるんだけど…。

ご一家が親しくされてる方々を呼んで、飲んで食べながらおしゃべりする、みたいな…。」


「えぇ、そうでございます。でも親しくされている方々と申しましても著名な方ばかり。

ですから毎年その豪華な顔ぶれを一目見ようと、ホワイトハウス前には

多くの観客が集まるのです。もちろん報道陣も多数。」


「う、うそっ!聞いてない…。そんなこと一言も聞いてない…。

くっそぉぉぉお!学のヤツぅぅぅう!」


「く、くそ…でございます…か?」



今までにない形相で雪見が怒り爆発寸前なのを、マーティンは見なかったことにして

エレベーターを下りてきた他の住人に挨拶をした。


「おはようございます。今日も素敵な一日を!」



雪見にとっては素敵な一日になるかどうだか。

でも…こうなったら、やるっきゃないっ!


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