親友の一大事!
「ホワイトハウスぅ!?」
「ホワイトハウスぅ!?」
「健人くん、ゴメンっ!ほんっとーに、ごめんねっ!
…って、なんでホンギくんもここにいるのっ!?」
「だってこいつ、腹減ったけど給料日前だから、水飲んでバイト行くって言うんだもん。
置いて来れると思う?」
「お世話かけまーす♪」
夕方から健人とデートだというのに、降って湧いたような学との一件で
すっかり時間を食ってしまった。
レッスンが終わる頃、アカデミーに健人を迎えに行く約束だったが
間に合いそうもなかったので、近くのカフェで待っててもらうことに。
それから大至急、学とパーティーの打ち合わせをし、買ってもらったドレスや靴を抱えて
大慌てでタクシーに飛び乗ったのだが、カフェにやって来ると想定外にもホンギがいた。
「取りあえず俺も腹減ったから、今日はここでメシ食お!
適当に注文しちゃうよ?Excuse me!Order,please.」
もうすっかり英語が馴染んでる。
健人が何の躊躇もなく店員との会話を楽しんでるのを見て、短期留学の目的は
すでに半分クリアしたようなもんだと雪見は安堵した。
あとはお互いのノルマをきちんとこなすだけ。
健人は世界にも通用する役者になるため、更に学んで演技に磨きをかけ、
雪見はそんな健人を後押しする写真集を作るため、全神経を傾けてシャッターを切る。
残り少ない二人のニューヨーク時間の中で…。
…のはずだったのに、なんで大事な時間を元カレに費やすことになっちゃったんだろ?
「でもさ、もう返事しちゃったんでしょ?自分の意志で決めたんでしょ?
だったら行くしかないじゃん。
あさって一日ぐらい撮影休んだって、どうにかなるよ。」
今日午後からの一部始終を雪見から聞いたあと、健人はそれだけを言うと
ニコッと笑ってビールを飲み干した。
それから「Give me one more beer.」と、ビールのお代わりを注文。
だが…。
頬杖をつき、窓の外を行き交う人々に視線を漂わせた横顔は、笑顔とは裏腹の
そこはかとない悲しみ色の瞳をしていた。
ごめん…。そうだよね…。いい気はしないに決まってるよね…。
結婚式の三日前に、彼女が元カレと一緒にパーティーだなんて…。
なんでそんなこと了承しちゃったんだろ、私…。バカとしか言いようがないな…。
料理が運ばれてくる間の、永遠にも思える沈黙…。
…は、ものの数分で打ち破られた。
「すっげー!ユキミってそんなに凄い人だったのぉ!?
そう見えないところが凄いー(笑)」
今まで黙ってたホンギがいきなり大声で喋り出すもんだから、雪見も健人も
ビックリして顔を上げた。
「だってホワイトハウスに招待されるって、フツーじゃないでしょ!?
俺、招待されたことないもん!ケントはあるの?」
「あるわけないじゃん。」
「でしょ?だったら凄いことじゃん!もっと喜べば?
俺だったらそんな彼女、鼻高々で自慢しまくるけどなー!」
「いやホンギくん、あのねっ!私は凄くも何ともないの!
元カレがお呼ばれしたのに、同伴する彼女もいないってゆー情けないヤツで、
たまたま私が…」
「…ねぇ。なんでケントは、そんなふくれっ面してんの。」
ホンギが雪見の言葉を無視し、おちゃらけてたのをやめにして真顔で健人を見据えた。
「ふくれっ面なんてしてねーし!」
健人が語気を強めて言い返す。笑い飛ばすでもなく、それが図星であることは明白で…。
「ケントって役者なのに、ユキミに関しては演技が出来ないんだね。バカ正直。」
「………。」
何も言い返さず健人が黙りこくった。
ホンギに対して、かなりイラッとしてる。相当怒ってる。
雪見はそれが健人の怒りの態度と知ってるので焦りまくった。
「あ、あのねホンギくんっ!悪いのは全部私なのっ!
やっぱ今回の件は断る!いくら何でも結婚式の三日前に…」
「ケント!これはセンセンリダツだよ!そいつからのねっ。
上等だよ!受けてやるよっ!ふざけんなっつーの!」
「…え?センセン…リダツ?」
「えーっとホンギくん…。もしかして戦線離脱…じゃなくて宣戦布告って言いたかった?
意味がまったく違うんだけど…。」
「リダツ?フコク…?日本語ムズカシイ!」
思わず健人も雪見も吹き出した。
お腹を抱えて大ウケしたあと、お互いを見てにっこり笑う。
大丈夫。どんな時も俺たちは揺るがないよね…と言うように。
そんな二人を見てホンギもホッとした。
笑ってくれて良かった…。わざと間違えるのも案外ムズカシイや…と。
「じゃあメシ食いながら作戦会議!ちょっと待ってて。シーッ!静かに!」
ホンギがケータイを取り出して、どこかに電話し始めた。
「あ、もしもし?店長?俺です。なんか今日、腹の調子がヤバくって…。
友達に三日前のホットドックもらって食ったからかも…。
う…ヤバ…。ト、トイレ…!てことで、今日から三日間ほど休みます!よろしくっ!
……よしっ、OK!あー腹が減っては作戦会議は出来ぬ!いっただっきまーす!うめぇ♪」
「三日前のホットドックぅ!?」
健人と雪見が目を白黒させてホンギを見る。
「どう?俺の演技。今度のアカデミーの発表会で主役もらえそうじゃない?
あ、さすがの俺でもそれは食わないから安心して。」
ホンギが満面の笑みを浮かべ、向かいに座る二人にウインクした。
作戦会議って一体…?
ニューヨークより13時間先の東京。
都内某所の撮影スタジオにも活気溢れる朝が来た。
今日はここでビールのCM撮影が行われる。撮られるのは健人の親友である、この二人。
「おはようございまーす!よろしくお願いします!」
どこの現場でもスタジオに一番乗りするのは優だった 。
準備が整うまでの間、邪魔にならないよう大きな体を小さくし、スタジオの隅で
世界各国のネットニュースに目を通すのが毎日の日課だ。
「おっはよーございまーす!苅谷翔平、只今参上!よろしくお願いするでござる!」
優から遅れること20分。
もう一人のCMキャラクターである翔平が、いつものごとくスタッフを笑わせながら
上機嫌でスタジオ入りした。
「優、おはよっす!なんか二人でCMって、嬉しくて眠れなかったんだけど(笑)
健人や当麻も一緒だったら良かったのにねー!って、なに朝から恐い顔して見てんの?」
翔平が、優の見つめる10インチのタブレット端末を後ろから覗き込む。
「何だよ、これ…。嘘だろ…?翔平、見てっ!」
「さっきから見てる…。けど読めない…。」
「うゎ、ごめんっ!じゃ日本語翻訳に切り替える!
これ、ちょっと前に更新されたニュースなんだけど、もうツイッターにも
目情上がってるし、写真までUPされてるし…。大丈夫かな、健人…。」
「う、うそぉーっ!これ、ゆき姉ぇえ!?
相手の男が健人じゃねーし!てか、ゆき姉の元カレじゃん!
てか、なに?ホワイトハウスに招待ってぇーっ!?」
優が、あちこちの情報を大慌てで調べてる。
その大筋を把握した二人は顔を見合わせた。
「…まさかのピンチじゃね!?こいつ…ゆき姉を奪って逃走する…とか?」
翔平が真顔で言うものだから、優は更に慌てた。
「翔平っ!明日のスケジュールは!?」
「え?明日は夕方まで取材で、そのあと久々に二日間オフだけど…?」
「神様が背中押してる!俺も半年ぶりの休みだっ♪」
「え???」