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元カレへの情けは自分の為ならず

「言ってる意味がわかんないんだけど…。

私達ついさっき、久しぶりに会ったばっかなんだよ?

それも、こんなニューヨークのド真ん中で奇跡的に…。

これからお茶して『元気だった?』とか『こっちで何してんの?』とか

まずは近況報告でしょ?普通。

それをいきなり、一生に一度のお願いだからパーティーに同伴してくれ

って、そんな話あるっ?

…えっ…?ちょっと待って…。

まさか…会ったのは偶然じゃない、とか…言わない…よね?」


「悪い…。偶然…じゃないよ。雪見がこっちに来てることは知ってた。

日本のネットニュースとか見てるから。」


「嘘でしょ!?私が健人くんとニューヨークにいて、どこで何してるのか全部知ってて

あの公園にいたって言うのっ!?」


「違うよ。公園で雪見を見つけたのは本当に偶然なんだ。

ほんとはあのアカデミーに行って、話をしようと思ってた。

だけど早く着きそうだったから、時間調整しようと思って公園に行ったら

人だかりが出来てて…。」


「まさか…健人くんの前で、そんなずうずうしいこと頼もうとしてたのっ!?

信じられないっ!一体どーいうつもり!?ちゃんと説明しなさいよっ!!」


雪見はドレスを着たまま試着室に仁王立ちになり、凄い剣幕で学を怒鳴り散らす。

それに慌てたのは店員だった。

日本語はひとつも解らないが、それが痴話喧嘩であることぐらいは察しが付いた。


「あ、あの、お客様っ!ただいまお飲物をご用意致しますので、お着替えになって

どうぞあちらのソファーでお休み下さい。

そのドレスは試着室に掛けたままで結構です。

コーヒーがよろしいですか?それとも紅茶になさいます?」


「えっ?あぁ…じゃ私は紅茶を…。」

「僕はコーヒーをお願いします。」


「かしこまりました。ただいまお持ち致します。」


上品な笑顔で丁寧に一礼したブロンド美人は、そそくさと階段を下りて行く。

その後ろ姿を見送って、雪見は図らずも冷静さを取り戻した。

『ちょっと聞いてっ!二階の日本人カップル、いきなりケンカ始めちゃってさぁ!

あのドレス、買ってくれるの?どうなの?って微妙な感じ。』

とか、このあと同僚に話すんだろうな…と。


まぁいいや。まずはこんなドレス、早く脱いでしまおう。


試着室のドアをパタンと閉めた…まではよかったが、目の前にある高級白シャツと

泥だらけの自分のシャツの間で思案した。


果たしてこんな状況で、この高級シャツに袖を通して良いものか?

たとえ誕生日プレゼントという名目であっても、これを受け取ると言うことは…だ。

あさってのパーティーとやらに、同伴してもいいですよー!という

暗黙の了承と受け取られやしないか?

てか、そもそもあと何日かで結婚するってのに、元カレからこんな高い

誕プレ受け取るってどうなの?健人くんになんて言う?

学に偶然出会って、カフェでお茶しようと思ったら服が泥んこで、恥ずかしいから

新しい服を買ってもらっちゃった!えへっ♪…て?


「雪見、まだなの?紅茶が冷めちゃうよ。」


「あ…今行く。」


結局…雪見は白シャツを着て試着室を出た。渋々と…。

最後まで心が抵抗したが、カフェに行く以前の問題で、元の泥んこ服で

この二階から下りてく勇気がなかったのだ。自分の意気地なしっ!


「やっぱり雪見には、白い服が昔から良く似合う。」


コーヒーカップ片手に、目を細めて嬉しそうに言う学が何だか憎たらしい。

結局着てんじゃん!とか内心思ってるかと思うと、敗北感さえ覚える。


「ありがと。でも全然嬉しくないし。それって白衣が似合ってた、ってことでしょ?」


「相変わらず素直じゃないねー。彼氏の前でもそんななの?」


「悪いけど、素直になれないのは学の前だけですっ!

健人くんの前じゃ…って、そんなことはどーでもいいのよ!

なんなのよ、もぅ!いきなり目の前に現れて、一体私にどうすれって言うの!?」


段々とこの状況が面倒くさくなってきた。

いつまでも聞く耳持たないでいても、時間がただ過ぎてゆくだけ。

私にはこの後、健人くんとの大事なデートが待ってるのよ!

どーせカフェに行ってもこの話で終わるなら、とっととここで片を付けよう。


「だから…明後日のパーティーに俺と同伴して欲しい。」


「ねぇ。それって普通、自分の彼女に頼むことだよね?

こんなニューヨークで、わざわざ私を探し出してまで頼むってことは、

あなたはまだ結婚してないどころか彼女もいないってわけね。

女性同伴が決まりなら、研究所の同僚にでも頼めばいいじゃない!

なんで元カノの私が、のこのこ付いて行かなきゃならない…あ!この紅茶!

私の大好きなアールグレイだ…。美味しいっ♪」


「雪見、紅茶ならアールグレイが好きだったよね。

コーヒーは、カフェオレじゃなきゃ飲めないし。」


「えっ?これ…もしかして学がリクエストしてくれたんだ…。ふーん…。」


きっと私が着替えてる間に、店員に伝えたのだろう。

紅茶はアールグレイで、と…。

昔から、さりげなく私を喜ばすのが好きな人だった。

勉強一筋でセンスがなくて、気の利いた会話も出来ない人だったけど、

私にだけはどんな時も一途に向かってきて…。


「はぁぁ…。どんなに出世しても、世話が焼けるのだけは昔と一緒ね。

で、そのパーティーとやらは、どこでやるわけ?何のパーティー?」


「えっ!行ってくれるのかっ?助かったぁー!恩にきるよ。

じゃ、そのドレスに合う靴を選ぼう!髪飾りも一緒にね。

あとは何がいる?バッグとか?俺、よくわかんないから自分で好きなの選んで。

あ、お金は心配しなくて大丈夫だから。これでもテレビで結構稼がせてもらってる。

ほら、ドレス持って下に行くぞ!さっきの店員がヤキモキしてるだろうから。」


学は、契約成立!とばかりにコーヒーを飲み干し、雪見を置いてさっさと

階段を下りてしまった。


「ちょっとぉ!もぅなんて自分勝手なヤツ!情けなんか掛けなきゃ良かった!」

ドレスをそっと抱え、プンプン怒りながら階段を下りると、学はまたしても

セレブなご婦人方に囲まれてサインをしてる。


「どんだけ人気者なの?まぁいいや。今のうちに靴を選んじゃお♪

Excuse me!すみませーん!このドレスに合う靴はどんなのがいいですか?」


ドレスに関しては、まったくセンスも知識も持ち合わせてないので、

ここはさっきのブロンド店員にお任せするのが間違いないだろう。


「このブルーのドレスには、こちらの靴をお薦めします。

あぁ、それと髪飾りは先程のがお似合いですよ。

あとネックレスとイヤリングはこのセット、バッグはこれで。」

彼女がここぞとばかりに次々持ってくるので、雪見は慌ててストップをかける。


「待って!いくら彼が買ってくれるといっても、こんな高い物全部は買えませんっ!

どうせちょっとしたパーティーだろうから、最低限靴があればいいんです!

あ、やっぱティッシュとハンカチぐらい持たなきゃならないから 、バッグもいるかな?」


「何をおっしゃるのっ!?

ホワイトハウスにご招待されてるのですから、きちんとしなければなりません!」


「ほ、ほわいとはうすぅぅう!?」



雪見の大声に、店内の客が一斉に振り向いたのは言うまでもない。



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