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私の代わりに…

「バトンタッチって…ケントとユキミ、もうすぐ結婚するんでしょ?

どーゆーことっ?」

ホンギは「あと一週間で」と言う意味がわからず、雪見と健人の顔を交互に見る。


「私ねっ、結婚式終わったら日本に帰ることにしたの。」


「えっ?」

さすがに笑える状況ではないと判断し「どうしたの?」と真面目な顔して聞いてきた。


それから雪見は事情を話して聞かせた。

母の状況を、まるで他人事かのように淡々と。いや、むしろ努めて明るく。

ホンギが亡くした母を思い出し、涙した後に更に涙の上乗せはしたくなかった。


「あのね、健人くんってね、こー見えても寂しがり屋さんなの。

だーれも居ないお家が大っ嫌いなんだよ(笑)」


「え?そーなの?めっちゃカワイイじゃん♪」とホンギが健人を冷やかす。


「いやマジ違うって!俺、別に嫌いでもなんでもないから!

帰って来た時にさ、家ん中がシーンとしてたら寂しいなぁって思う瞬間、あるじゃん!」


「やっぱ寂しいんだー!俺、ぜーんぜん思ったことない!

けどそーいうのって女子のポイント高いよねー!母性本能くすぐるって言うんだっけ?

俺も、もうちょっと寂しがっておくかな?

いや、そーなるとケントとキャラかぶるから人気が分散しちゃうな。」


「かぶんねーよっ!お前とはまったくキャラかぶんない!(笑)」


やっぱり思った通り。ホンギくんには嘘がない。

だから健人くんも警戒心ゼロで心から笑えてる。本当に楽しそう。

居心地いい相手なんだよね…。

こんな人が私の代わりに健人くんのそばに居てくれたら…。よしっ!


「ねぇねぇ!ここの家賃はこっちで払うからさぁー。

私が帰国した後の二ヶ月間、ホンギくんが一緒に住んでやってくれない?

そしたら私、安心して母さんの看病がしてられる。

ねぇ、悪い話じゃないと思うけど…どう?」


つい何時間か前に初めて話したばかりの相手に、なんてお願いしてんだろ

とは思ったが、自分の直感は正しいはずと信じてアタック、アタック!


「そ、それって…マジで言ってんの?」

ホンギも健人も、目をまん丸にして雪見を見てる。


「もちろんっ!あ、ただし一つだけ条件があるの。

アカデミーでは健人くんに、一切日本語で話しかけないで欲しい。」


「え?」


「私ねっ、今回の留学で健人くんには完璧に英語を話せるようになって欲しいんだ。

いつか必ず…彼は世界で仕事をする人だと知ってるから。」


「ゆき姉…。」


ニコッと微笑んで健人を見つめる瞳は確信に満ちていた。

もうすでにその姿を見てるかのように、目を輝かせて…。


「だけどね、ここに帰ってきた時には心からホッとしてもらいたいの。

それでねっ、凄くわがままなお願いなんだけど…。

この家に居るときだけは今みたいに日本語で会話してあげて欲しいんだ。私の代わりに…。」


本当はそれが私の役目だったんだけど…と一瞬雪見が悲しげな目をしてうつむいたのを

健人もホンギも見てしまった。

だが雪見は、すぐ笑顔を作り直しておどけてみせた。


「て言うかね。寂しがり屋の健人くんを一人残して帰って、もし浮気でもされたらやだなって。

で、用心棒を置いときたいってのがホンネなんだけど(笑)」


雪見は見え透いた嘘を言ってケラケラ笑ってる。

本当は健人を疑ったことなど、ただの一度もないのに…。


「ほーんと、これじゃあ健人くんの生涯マネージャー失格だよなぁー。

思いっきりタンカ切って出てきたのに、今野さんと常務に怒られちゃう。カッコ悪ぅ!」


「ゆき姉っ!まだそんなこと言ってんの?いい加減怒るよっ!

おばさんは俺の母さんでもあるんだよ?ちゃんと看病してくれないと困るのっ!

ねぇホンギ…。ゆき姉がこんなだからさ、ここ来てくんない?

じゃないと帰る直前に気が変わった!とかこの人、言い出しかねないからさ。

悪いけど頼まれて!」


健人がホンギに両手を合わせてお願いしてる。

きっとその方が彼も気兼ねなくYesと答えられるだろう。

そんなさりげない気遣いが健人の優しさだ。


「…わかった。そこまでお願いされたら来ないわけにはいかないな。

よしっ!二ヶ月間イチャイチャ同棲しちゃう?俺、ケントみたいなイケメン大好きよ♪」

ホンギが健人に向かってウインクした。


「え…?う、うそっ!?」

「やだ、ウソでしょーっ!!??」


しまったぁーっ!そんな可能性、これっぽっちも疑ってなかった!

ヤバイっ!どうしよう!健人くんが狙われてるぅぅぅ!!


「ププッ…ギャハハハッ!お宅らのリアクション面白すぎーっ!

嘘に決まってんだろ!俺は女の子にしか興味ないのっ!」


ホンギがお腹を抱えて笑い転げてる。

それを見た健人と雪見も顔を見合わせ、吹き出して大笑い。

久しぶりに涙が出るほど笑った。そして安心した。


彼なら健人くんと、きっと上手くやっていける。良かった…。


その夜は新しいルームメイト決定祝賀会と称し、ホンギを泊めることにして

心置きなく飲んだ。

まるでずっと以前から親友同士であったかのように、楽しく心地よく…。

そのうち健人とホンギは、床に敷いてある毛足の長いムートンラグの上に

ゴロンと寝転がり語り合うも、いつしか気持ち良さげに寝息をたてた。


「おやすみなさい。また明日…。」

二人にそっと毛布を掛け、あくびをしながら寝顔を何気なく覗いてみた。


ホンギくんも、健人くんに負けず劣らず綺麗な寝顔だなぁ…。

二人とも天使みたい。凄く写りがいい顔だと思うんだけど…。

…って、ヤバッ!仕事を忘れてたぁ!飲んでるとこを撮る約束してたのにぃ!


雪見は大慌てでカメラを持ち出し、二人が爆睡してるのをいいことに

バシャバシャと間近でシャッターを切り続けた。


良かったぁ!私が寝る前に気付いて。

初めてのお客様を載せないわけにはいかないもんね!

NYで初めて出来たお友達だもん。

いや、お友達と言うよりはきっと…もう親友だよね。


うん!思った通りホンギくんもフォトジェニック♪

これ健人くんの写真集出たら、出版社に問い合わせが殺到するんじゃない?

一緒に写ってたイケメン寝顔君は誰ですか?って。

そこからホンギくんが注目され出して、この二人が日本のドラマで共演でもしたら…。

キャーッ!絶対大人気ドラマになるでしょ!

なんかホンギくんのこと、応援したくなってきた!

よーし!何が何でも注目集める写真集を作ってやる!


一人で盛り上がった真夜中の撮影会は終了。

食器を静かに片付けた後、部屋の明かりを消して雪見は寝室へ。

時計の針はもう午前2時を指していた。

ベッドの上には先回りしためめとラッキーが、健人のいない場所を埋めている。


日本は今頃、午後3時か…。

そうだ。母さんに電話してみよう。




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