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初めてのお客様

「うそっ!こんなスゲーとこに住んでんのっ!?ケントって何者!?」


ホンギがリゾートホテルのようなアパートを見上げ、本気で驚いてる。

夜8時近くのライトアップされたアパートは、住人である健人が見上げても

スゲーや!と思う。


確かに…。ここに住んでるって言ったら、当麻も優も驚くだろうなぁ。

翔平は…ズルイ!って騒ぐよな(笑)


ふと日本の親友たちを思い出し、あいつら元気かなぁ…と顔を思い浮かべた。


「まぁ話は部屋に行って、ゆっくり飲みながらしよ!

ゆき姉がご飯並べて待ちくたびれてるかも。」




「ただいまー!ゆき姉、連れてきたよ!

あ、ストップ!ここで靴は脱いで!日本式にしてあるから。」

玄関先から健人の声が聞こえ、雪見はパタパタと急ぎ足で二人を出迎えた。


「お帰りなさい!お疲れ様っ。お腹空いたでしょ?

ホンギくんもようこそ!中へどうぞ。」


「おじゃましまーす♪」


健人は、雪見が機嫌良くホンギを迎え入れたことに安堵。

本当はちょっとだけ、まずかったかな…と内心ヒヤヒヤしてた。

第一印象が良くはなさそうだったし、今まで会ってすぐの人を自宅に招き入れるなど

したことがなかったから。

だけど…なぜか彼とは、もっと色んな話をしてみたいと思ったのだ。


「なにこれ?スッゲーご馳走っ!ここはホテルのバイキング?

ケントって、毎日こんな美味そうなもん食ってんの!?

それになに?この部屋っ!えーっ!?こんな広いとこに二人で住んでんのぉ!?信じられん!

お宅らって、ほんと何者っ!?」


リビングに入った途端、テーブルいっぱいに並んだご馳走を見てホンギが大騒ぎ!

それにしても日本語が上手いことには関心する。

「お宅ら」って言い回しには雪見と顔を見合わせ、思わず笑ってしまった。

同年代の日本人に紛れてお喋りしても、多分彼が韓国人だとは誰も気付かないだろう。


まぁ、テンションの高さは…翔平の上を行くな。

健人は苦笑いしながら、ホンギが一通り部屋を見て回ってる間に着替え、

コンタクトを外してリビングへと戻ってきた。


「めっちゃ腹減ったー!喉もカラッカラ!まずはビールで乾杯しよう。

ゆき姉もここ座って!じゃ今日も一日お疲れ〜!カンパーイ!」


「カンパーイ!うっめ〜♪ねーねー、これ食べていいの?

俺、昼飯食ってないから、死にそうに腹減ってるんだけど。

いただきまーす!なにこれ!スゲーうまいっ!

こっちは日本食?あーっ!俺の大好きなチヂミもあるーっ!」


凄い勢いで食べ出したホンギに、一瞬呆気にとられる。

だが、彼があまりにも美味しそうに幸せそうな顔して食べるのを見て、

今夜彼を招いたことは間違いじゃなかったと、二人とも微笑んでその様子を眺めた。


「俺たちも食べよっか。久々にめっちゃ身体動かしたから腹ペコ!

いただきまーす!うん、間違いなくうまいっ♪

急に頼んだのに、いっぱい作ってくれたんだね。ほんと、ありがと。」


「だって健人くんの初めてのお友達を招待するんだもん。うーんと張り切っちゃった!

にしても…作り過ぎちゃった?」


雪見がビールを飲みながらケラケラと笑ってる。

そんな彼女が大好きで、どうしようもないほど愛しくて。

今すぐ抱き締めてキスしたくなったが、目の前には友がいる。

グッと堪えて雪見の頭をポンポンと撫で、健人はもう一度「ありがとう!」

と優しく微笑んだ。


それから三人は、時間を忘れて飲んで食べて語っての大忙し!

健人の直感通り、ホンギはとてもいい奴で会話が面白く、しかも頭が良かった。

韓国ですでに俳優業はしていたが、脇役ばかりで芽が出ず、これではダメだと

一念発起して渡米してきたらしい。

なのに家はめっちゃ貧乏だ!ともアッケラカンと笑って言う。


「だけどね、親がさ。お前なら出来るよ!って俺の夢を後押ししてくれるんだよね。

一度も辞めろとは言わないの。ビンボーなんだよ?それなのにさ(笑)

だから俺は何としてでも役者として成功して、親に恩返しがしたいんだ。

そーだ!売れたらここみたいな、でっかい家を建ててやろう!

あ、でも掃除が大変そうだから、もうちょっと小さくてもいいや(笑)」


酔いも手伝ってか、底抜けに明るく笑い飛ばす。

だけどこの人の明るさは、きっと底辺を知ってるからこその明るさだと思った。

つらさも痛みも知り尽くしてるからこそ、どんな小さなことも笑い飛ばせる勇気がある。

メンタル面の強さがきっとこいつの強みだろう、と健人は少し羨ましくも思った。


翔平や当麻、優とも、絶対気が合うだろうな…。


と、そんな事を思った時だった。

「うわっ!」とホンギが突然大声を上げた。

見ると、雪見手作りのキムチに箸を付けている。


「ごめんなさい!お口に合わなかった?

あーバカだなぁ、私!本場の人にこんな浅漬けのキムチ出すなんて。

こっちに来てからすぐ漬けたんだけど、まだ5日しか経ってないもんね。

サラダ代わりにと思ったんだけど…。」


雪見が申し訳なさそうにホンギの顔色を伺った。

すると彼は、思いも寄らぬ言葉を口にしたのだ。


「このキムチ…。母さんのキムチと…同じ味だ…。」


「えっ…?」


ホンギの瞳には…見る見る間に涙が浮かび上がった。

だけど顔は嬉しそうに微笑んで、懐かしい母の味をむさぼるように

口いっぱいにキムチを頬張った。


「母さんも…キムチは浅漬けが好きだったんだ…。

ちょうどこれくらい…。うん…これくらい…。」


「お母さま…。」


亡くなったのか…?と口から出掛かった言葉を、雪見は飲み込んだ。

答えは…思ってる通りだろう…と。

これ以上、彼を泣かす必要もなかった。


健人は、雪見が自分の母を思い心を痛めたのではないかと心配だったが何も聞かず

雪見の作ったキムチを黙って口に運んだ。


「これ…うちの母さんの?」


「そう、おばさんから教わったレシピで作ったの。

疲労回復にいいし、健人くんもお母さんの味を食べたいかなーと思って。

おばさんの味にするには、もっと長く漬けとかなくちゃいけないんだけどねっ。

あ、そーだ!ホンギくん。もし良かったらこのキムチ、もらってくれないかなぁ?

健人くん一人で食べるには、たくさん漬け過ぎちゃって。」


「えっ…?いい…の?もらう、もらうっ!」


なんて嬉しそうな顔!

この人のそばにいる人はきっと、どんな時もつられて笑顔になっちゃうね。


……そーだ!


「ねぇ、ホンギくん!

あと一週間したら私とバトンタッチして…ここに住まないっ!?」


「え?ええーっ!?」



にっこりと微笑んだ雪見が、ホンギには女神さまに見えた。


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