雪見プロジェクト
腹が減っては戦は出来ぬ。
作戦会議の前に真由子が、あり合わせの材料でパスタを作ってくれた。
「うわ、めっちゃ美味しそう ♪ いただきまーす!
うーん、さすが。また腕上げたね。」
「そりゃそうよ。男をつなぎ止めるには、胃袋を掴むのが一番!でしょ?そのためには日々精進しないと。
あんたが食べないで行っちゃったこの前のパスタも、相当美味しかったんだからね!」
「ごめんごめん!あれは謝る。
けどあの時、パスタ食べないで飛び出したお陰で、健人くんと一緒に仕事することになったんだから。
本当に真由子には感謝してるよ。」
「ゆっくり食べてたら、チャンスを逃してたってわけね。
それなら食べきれずに捨てられたパスタも、浮かばれるわ。
じゃ今日は第二回作戦会議、兼雪見のお祝いってことで、とっておきのワイン開けちゃお ♪
うちの社でこれから輸入開始の、一押しワインだよ。
私が買い付けたの。飲んでみて。」
「やった!ワイン輸入のプロが選んだワインなら間違いなし!楽しみ~♪」
こうしてまた、お酒を飲みながらの作戦会議が始まった。
「ねぇ。うちの父さんの所から写真集出したいって話、健人の事務所に通してあるの?」
「いや、まだ何も。」
「まーた始まった!お得意の直感で行動ってやつね。
どうでもいいけど、あんたのシナリオは?」
「私ね、健人くんと約束したの。必ず、本物の斎藤健人を撮してあげるって。
健人くんの魂が感じられる、一番の写真集に私がしてみせるって。
それなのに…。
また次に同じような噂流されたら、きっと私は専属カメラマンを降ろされる。
でも他の人が撮った写真じゃ意味がないの。
だから、この写真集が完成するまでは、誰にも邪魔されたくない。
これ以上、余計な気を配って写真を撮りたくないの。
少しでも私たちの後ろ楯になってくれるような大手出版社と契約して、この写真集を成功させたい。」
私は、珍しくワインに口も付けないまま熱く語ってた。
「そう。そんなに大事な仕事なんだ、雪見にとって…。
よし、わかった。 雪見が命を張って挑む仕事なら、私も全力で力になるよ。
でも、父さんに頼むのは簡単だけど、向こうも仕事だからね。
もっときちんとした戦略でプレゼンしないと。
いくら編集長と言えども、父さんの一存では決められないと思うから。
まぁ、ちゃんとした提案ができれば、その先は大丈夫だと思うよ。
なんせ、今をときめく斎藤健人の写真集だもん。
きっとどこの出版社だって、喉から手が出るほど欲しい仕事に決まってる!」
「そうだといいんだけど…。でも、一つだけ不安があるの。
今までの健人くんの写真集は全部、名だたるカメラマンが撮してるんだ。
カメラマンと健人くんとのコラボって形で、二倍の話題性があったわけ。その分、売れ方も大きかった。
でも私ときたら、無名のフリーカメラマンなわけ。
これまで猫ばっかりで、人物の写真集なんて出したことないし。
あ、健人くんを撮ることに関しては、誰にも負けない自信はあるよ!
けど、カメラマンの私が話題になることは一つもない。
本当に写真だけで勝負しなきゃならないのが、プレッシャーで…。」
ワインを飲みながら聞いてた真由子が、ニコッと笑った。
「じゃあ、あんたも話題になればいいんだ。」
「えっ?どういう事?」
「いいから、この私に任せて。いい考えがある!」
何を思いついたのか。
真由子はクローゼットへ行き、たくさんの洋服と化粧道具を持って戻って来た。
「何をしようってわけ?ねぇ、教えてよ。」
「あんたを売り出すのよ!健人の親戚の、美人カメラマンとして。」
「えっ?なにそれ?
猫の写真集しか出してないカメラマンを、どうやって売るわけ?」
「この際、写真集の実績なんてどうでもいいの!
私が狙ってるのは、いま流行の美人カメラマンって分野。
まぁ、あんたを美人カメラマンって呼ぶのは、私的には抵抗あるけど。
でも悔しいかな、あんたはその線でいけるよ。
あとは、いかにビジュアル的に話題を呼ぶか。
あ、一番の売りは、もちろんあんたが健人の親戚だってこと!
これほど強力な売りは、誰も持ってない。
みんなが欲しくたって、努力で手に入れられるものじゃない。
それを生かさない手はないでしょ。」
「でも今回の写真集、私と健人くんが親戚だってこと、全面には押し出さないって言ってるよ。」
「なに言ってんだろね、健人の事務所は。
そこを推さないでどーすんのよ、まったく!
いい?それを敢えてアピールすることで、あんた達が仲良くやってても誰も怪しまなくなるの。
十二歳も年が離れてて赤ちゃんの時からお姉さん代わりだった、って公表すればみんな納得するでしょ?
と言うことは、次の噂に先手を打って封じ込められるってわけ!
しかも、あんた達だって堂々としてられる。
だって、本当にはとこ同士なんだから嘘じゃないもんね。
まぁ、恋人同士ってことだけはトップシークレットだけど。」
「そんなにうまく行くかなぁ。
誰にも邪魔されないで、撮影続けられるなら嬉しいけど…。」
「真由子様に任せなさいっ!
私があんたを、美人カメラマンに仕立てて見せるから。」
そう言って真由子は、たくさんの服の中から幾つかをチョイス。
私を売り出すためのイメージ作りを開始した。
雪見プロジェクトのスタートだ。