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いざ!演劇学校へ

「あー美味しかったぁ!お腹いっぱいで幸せ〜♪

コンシェルジュさんに良いお店教えてもらったね!帰ったらお礼言わなくちゃ。」


「コンシェルジュさんじゃなくて、マーティンさんっ!(笑)」


相当早いランチを終え、雪見と健人は上機嫌でお洒落な店を後にした。

東京にいる時はどこへ行くにも車だったが、ここはニューヨーク。

マネージャーのお迎えもなければ雪見の車もない。

しっかりと手を繋ぎ、てくてくと歩いて最寄りの地下鉄駅へ。


勿論東京じゃ二人で地下鉄に乗ったためしなど一度もない。

いつも敵から逃れるようにそそくさと車に乗り込み、黒い窓ガラスの向こうを

自由に行き交う人々に、羨ましげな視線を送ってた。


それが今はどうだろう。眩しい太陽を浴びながら二人で街を闊歩し、ふざけながら地下鉄の階段を軽やかに下りる。

ホームで目にするカップルのマネをして、ふざけて雪見にキスを迫る健人の

はしゃいだ笑顔ときたら。


すべての束縛から解放されると、人ってこんなにも笑顔が倍増するんだ…。

良かったねっ!健人くん。


幸せそうに笑ってる健人を見てると、なんだかウルウルしてきた。

この人の幸せが私の幸せなんだ…。

確かにそう思える自分がいた。


地下鉄に乗り込んでも涙が出そうになる。

誰からの視線も注がれない。隠し撮りされる恐怖もない。

握手を求められたり、いきなり写メされたり、キャーキャー騒がれて

周りの迷惑を気にかけることもない。


人気者になった代償として失った自由。

もう元には戻れないと諦めてた人間らしい普通の暮らしが、まだここにはあった。

今、健人の心はどんなだろう…。

それを思うだけで胸がいっぱいになり、必死で涙を堪えてた。

が、そんな様子に気付いた健人が、笑いながら頭にポンと手を置き、

小首を傾げて顔を覗き込む。


「まーた泣こうとしてるし。今度はなに?

デザートもう一品食べたかったのにぃー!とか?

あ!なんで健人くんてそんなにカッコイイのよぉ〜!か?

いや、今のは取り消す!自分で言ってみたら冗談でも恥ずかった(笑)」


「ばぁーか!」


泣きそうな私を笑わそうとして、普段口にしないセリフもおちゃらけて言う。

優しすぎて余計涙が出るじゃない…。だから大好き!


地下鉄を降り、また手を繋いで階段を上ると、地上の風が優しく二人の頬をくすぐった。




地下鉄駅から真っ直ぐ十分ほど歩くと、正面に重厚な建物が見えてくる。

ここが今日から健人が学ぶ、ハリウッドアクターズアカデミーだ。


「さて…と。ちょっと早く着きすぎたね。どしよっか?どっかで時間潰す?」

健人はさして緊張してる様子もなく雪見を見た。


「いや、もう中に入れるなら先に少し写真を撮らせてもらいたい。

私が交渉してきてもいい?」


「うん。俺は構わないよ。んじゃ、乗り込みますか!」


由緒漂う風格を身にまとった建物を前にして、雪見の瞳はもう仕事モード全開だ。

人格が変わるとはまさにこのことで、先程までの泣き虫雪見はどこへやら。

戦隊ヒーローよろしく、戦いの前にはすでに変身を遂げていた。


「聞いた?マーティンさんて若い頃、俳優やってたんだって!

やっぱそんな感じしたよなー。絶対格好良かったよね。」


「健人くんはみんなに、どう見られるのかなぁ?

きっと、可愛い男の子が入ってきたぞ!って注目の的だろーな。」


「やっべ!そんなこと言うから緊張してきたー!」


「うそだーっ!綺麗な女優さんでもいないかなー?ってワクワクしてるくせに(笑)」


「あれ?またバレた(笑)」


二人は学校の扉に手を掛ける寸前まで戯言を言いながらも、お互いの中に

静かな熱い炎を燃やし始めていた。

今から二ヶ月間の真剣勝負が、いよいよ始まる!




「こんにちは!私、カメラマンの浅香雪見と言います。彼は斉藤健人。

彼が今日からここにお世話になるんだけど…。」


学校の受付でここまで話して、はたと気付いた。

なんか私って、過保護な母親みたいじゃない?これじゃイカン!


「健人くん!あとは健人くんが話してみて。もし通じないとこがあったら私が訳すから。

結構ギリギリまで勉強してたよね?英会話。習うより慣れろ!だよ。

さぁ、Give it a shot!(挑戦してみて!)」


「…わかった。」


健人は、雪見が想像したよりもずっと流暢な英語を話した。

この留学が決まる前から、時間があれば英会話のレッスンを受けたり

少しの空き時間にも聞き流す英会話教材で学んだり。

努力家の彼は着実にその日に備えてた。

『今日』…ではなく、世界に飛び出す『いつかその日』に向かって…。


「OK!じゃご案内します。どうぞ!

もう自主レッスンに集まってる生徒もいるから紹介するわね。」


受付のお姉さんが席をにこやかに立ち上がり、長い廊下を先に歩き出す。

その後ろで健人が子供のように小躍りしてた。


「やった!俺の英語、全部通じたってこと?」


「何も問題なかったわよ!ちゃんと私の仕事の交渉もしてくれたし、発音も綺麗だった。

完璧です!良く出来ました♪」


「ひゃっほーい♪ゆき姉に褒められた〜♪」


突然ぴょーんと跳びはね大声を出した健人に、前を歩く受付嬢がビックリ顔で振り向く。

『しまった!』と思った健人がにっこり笑って「Sorry!」

それがまた可愛くて可愛くて、一気に心が和みリラックスした。


さーて!仕事が楽しみになったぞ。

あそこまで健人くんが話せるなら、私は撮すことに集中できるもんね。

今度の写真集…健人くんの世界進出の後押しにしたい…。


よしっ!いっちょ本気モード全開で行きますかぁ!!


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