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米国留学へいざ出発!

「健人くん、忘れ物ないっ!?パスポートあるよね?お財布も持った!

めめとラッキーもOK!ガスの元栓も閉めたし…。」


いよいよ渡米当日。今野が迎えに来る15分前。


雪見は緊張と興奮と心配とでほとんど寝られず、夜明け前にはベッドを飛び出し

今だドタバタと部屋中を動き回ってる。

一方の健人はと言うと、朝からずっと雪見にかまってもらえず少々ふて腐れ気味か。

支度を早々に終えた後はソファーに腰を下ろし、雪見がせわしなく動く姿を目で追ってた。


「ねぇ。大丈夫だから少しは落ち着いたら?俺はゆき姉さえ…」


「ストーップ!ゆき姉さえ居たらそれでいいなんてこと、あるわけないでしょっ!

そんなんじゃ暮らしていけな…」


「いいんだって!」

説教し始めた雪見の腕をグイと引き、健人はその唇を強引に封じるという強硬手段に出た。


本当にゆき姉さえ居てくれたらいいんだから…。

それだけですべてを乗り越えてみせるし、どんな事も耐えてやる…。

いっつも俺の隣にいてよ。俺がゆき姉を見てる時はゆき姉も俺を見て!


言葉の代わりに熱く長く官能的なキスをする。が…。


「やっべ!時間無いのに…どうしてくれんの?」

唇をやっと離した健人が、雪見をギューッと抱きしめ呟く。


「…何が?」

キスによって心が落ち着いた雪見は、小首を傾げて健人の顔を見上げた。


「ゆき姉が…欲しくなったに決まってんじゃん!」

なにぃ!?寂しげな子犬みたいな目でこっち見てるー!その芝居には引っかからないぞ!


「ダーメッ!もう今野さんが迎えに来るでしょ!?

てゆーか私のせい?仕掛けてきたのはそっちのくせにーっ!

続きはニューヨークまでお・あ・ず・けっ♪」


「ちっ!バレタかー!」




成田11:00発ニューヨーク行き。


それに乗り込むためには、2時間前にはチェックインを開始しなければならない。

なぜなら、めめとラッキーを連れて出国するには、多くの書類と雑多な手続きが必要だから。

かなり早めに着いた出発ロビーだったが、すでに大勢のビジネスマンや

観光客でごった返してる。

その人混みに紛れ健人と雪見も、何とか無事搭乗手続きを済ませることが出来た。


小さなケースの中で、アパートまで15時間ほども過ごさなければならない二匹。

心配で可哀想で、一瞬連れて渡米することを後悔もしたが致し方ない。

「良い子にしててね!」と声を掛け、グランドホステスには健人が

「こいつらの事、よろしくお願いします!」と頭を下げた。

あとは無事を祈るだけ。アパートに着いたら真っ先に出してやろう。



ペットを出国させるという、経験のない一番の不安事をなんとかクリアし

ホッとしながら今野と及川の待つ場所へ戻るその時だった。

ほんのわずかな距離に、キャーッ!と騒ぐ大声が上がった。

健人の存在に気付いた女子大生グループらしい。


健人は黒のキャップを目深に被り黒縁メガネを掛け、シンプルな服を着て無言でいたのだが

ホッとして見せた笑顔で、斉藤健人だとバレたと雪見は思った。

斉藤健人のオーラとは、そんな幼稚な手で覆い隠せるほど弱々しいものではないのだ。

困ったことに、それをきっかけにあちこちからキャーキャー騒ぐ声が聞こえ始め、

健人の隣で雪見はずっとうつむいたままだった。


「雪見っ!顔を上げてろ!

最初からうつむいてたんじゃ、斉藤健人のマネージャー失格だぞ!」

今野がいつになく厳しい顔で雪見を叱った。


「お前、俺と常務に言い切ったよな?『私が健人を超大物俳優にしてみせる。

だから健人の人生の専属マネージャーにしてくれ!』って。」


「…はい。」


「あの時の強い目と強い意志はどこ行った!今の弱々しいお前じゃ健人は任せられんぞ!」

今野が本気で言ってるのがよくわかる。

それほどまでに健人の存在とは、事務所にとっては国宝級の宝なのだ。


そうだ…。ここから先は今野さんも及川さんも同行しない。

こんな凄い人気俳優を私一人で守り、二ヶ月後無事に事務所に返さなくてはならないのだ。

私が恥ずかしがって下を向いてる場合ではない。

誰よりも堂々と前を向き、常に盾となって健人を守りかばう。

それがマネージャーの最重要任務ではないのか。

そう…恋人であるとかフィアンセである前に、私は斉藤健人の生涯マネージャーなのだ!


パチンと背中のスイッチがONになる。

シャキーンと顔を上げた雪見は、今野と及川を交互に見た。


「今野さん、及川さん!私、頑張りますっ!ここから先は私に任せて下さいっ!

必ずや斉藤健人を命賭けで守り抜き、無事二人の元へと連れ帰りますっ!」

なぜか雪見は姿勢を正し、婦人警官のように最敬礼して見せた。


「おいおいっ!SPじゃねーんだからっ!ドラマの見過ぎだよっ(笑)

そこまで気負わなくてもいいよ。」

今野と及川がゲラゲラ笑ってる。

健人も「ゆき姉、サイコー♪」とお腹を抱えて笑いながら、雪見の手をギュッと繋いだ。


「大丈夫!自分の身は自分で守るし、ゆき姉のことも俺が守るから!

つーか、俺は命を狙われてんのかっ?(笑)まぁいいや。

じゃあSPさん。ここじゃ敵が多すぎる。どこか二人で身を隠しましょう!」


今野と及川が『はぁぁ!?』という顔して健人を見てる。


「今野さん、及川さん!色々とありがとうございましたっ!

こっから先は、俺たち二人でどーにかやります!

あ、小野寺常務にもよろしく伝えといて下さい!

斉藤健人、更に男を磨いて帰国しますっ!では、行って参ります!」

健人までがビシッと敬礼するので、慌てて雪見も習って敬礼する。


「じゃ、お茶でもしよっか♪」

健人と雪見は目を見合わせ、にっこり笑って手を恋人繋ぎした。


「お、おいっ!俺たちに、とっとと帰れってことかぁ!?

最後まで見届けろって、常務からの業務命令なんだぞーっ!

大騒ぎになったらどーすんだ!」


「その時はその時っス!

これからずーっと二人でいるんだから、そんなのにも慣れてもらわないと。

大丈夫ですよ!今この人の背中のスイッチ、入ったまんまだから(笑)

向こう着いたら真っ先に連絡します!じゃ!」


健人と雪見は、まだどこかから聞こえるキャーキャー言う声を気にも留めず

二人で楽しそうにおしゃべりしながら人混みに消えて行った。


視界からあっという間に消えた残像を、今野はしばし眺めてる。


「…まぁな…。いつでもどこでも俺らが守りきれるもんでもねぇし…。

新米マネージャーが有能であることを祈るとするか…。

てか、雪見なら本気でマネージャーやらせろ!っていつか言い出すかもな。

及川っ!お前、危機感もって仕事した方がいいぞ!失職しないようにな!」


「ちょ、ちょっと今野さんっ!脅かさないで下さいよー!

ヤバイっす!それ、マジ勘弁して欲しいっ!!」


今野の高笑いが、幸せな喧噪にかき消されてゆく。

健人と雪見は、きっとたった今から新しい人生を歩き出したのだ。


少し早いがおめでとう!幸せな顔して帰って来いよ。

斉藤健人と斉藤雪見の未来に、今日は乾杯!


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