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偶然の出会い

「おはようございます!打ち合わせがあって小野寺常務に呼ばれてるんですが…。」


健人の撮影現場をこっそり覗いた後、雪見は行きつけのドーナツショップで

大好きなカフェオレを飲みドーナツを食べ、自分の気持ちを整理してから

渡米前の最終打ち合わせのため、事務所ビルへとやって来た。


8階オフィスフロアの受付嬢に聞くと、第3応接室で待つようにとの常務からの伝言が。

事務所の中を応接室に向かって進んで行くと、あちこちから声が掛かった。


「アメリカ行きってあさってだっけ?3日後かぁ…。健人のこと、よろしく頼んだよ!」

「任せて下さいっ!」


「おみやげなんて気にしなくていいからねー!」

「ぜーんぜん気にしませーん!(笑)」


「戻ってきたら健人のマネージャーやんなよ(笑)」

「及川さんが失業しちゃいます!」


みんなが私達のことを認めてくれてる…。

そう思える温かな眼差しと声が嬉しくて、じんわり涙が滲んできた。


あ、第3応接室!ここって私が初めて事務所を訪ねた時に通された部屋だ…。

なんだろ、この偶然…。あの時と私、きっと同じ気持ちでいる…。

あれっ?ギターの音だ。うわっ、なんて素敵な曲!誰?小野寺常務が弾いてんの?


トントン♪

「失礼しまーす!常務、めちゃ素敵な曲…??!!! しっ、失礼しましたぁ〜!!!」


う、うそーっ!?常務じゃないっ!今の人って?私の見間違いっ??

え?え?ここ第3応接室だよね?うん、間違いない。

なんで?なんでぇ?今の人、あの有名人じゃん!あの大物ミュージシャンでしょ?!

いや同じ事務所だし、健人くんを可愛がってくれてるのも知ってるけど

まさか本物がここにいるなんてぇ!!どーしよっ!?


一人でドア越しにドギマギうろたえてると、中から声が聞こえた。

「ここ使うんでしょ?入っていいよ。俺もう行くから。」


ちょ、ちょっとぉ!私に話しかけてるんですけどーっ!どうすりゃいいのぉ!?

「い、いや、結構ですっ!私、違う所へ行きますからっ!失礼しましたっ!」


ドア越しに大声で返事をし立ち去ろうとした瞬間、あろう事か内側からドアが開いた。

「いいから、どぉーぞ♪」


にこやかに雪見を迎え入れたその人は、まぎれもなくこの事務所の看板俳優であり

超人気ミュージシャンでもある福原雅人本人であった!


「い、いや、ほんっとうに結構です!ごめんなさい!勝手に開けてしまって。」


雪見が顔もまともに上げられず、深々と頭を下げたまま後ずさりし

回れ右して逃げだそうとした時だった。

「すまんすまん、待たせたなっ!」と小野寺と今野がやって来た。


「何やってんだ?中で待ってりゃいいのに。

あれっ?雅人じゃないか!こんなとこでギター持って何やってんの?

あぁ、それで雪見が外に突っ立ってたって訳か。まぁいい、入れ!」

小野寺が、雪見の背中を突き飛ばすようにして応接室の中へ押し込んでしまった。


「紹介するよ、浅香雪見だ。うち所属のカメラマン。つい何日か前までは歌ってたがな。」

「は、初めましてっ!浅香雪見と申しますっ!先程は大変失礼いたしましたっ!!」


雪見はここで初めて顔を上げ、恐る恐る雅人の目を見て非礼を詫びた。

機嫌良く笑ってるのを見て、心底ホッとする。

テレビで見るのとまったく同じ印象。気さくで男前、顔小っちゃ!


「で、雅人はさしずめ、通りすがりにいいフレーズ浮かんだもんだから

ここ飛び込んで曲作ってた…ってとこだろ?」


「さーっすが小野寺さん!ダテに付き合い長くないっすね。

で、その子に褒めてもらいましたよ、新曲。期待してて下さい。

あ…どっかで見たことあると思ってたけど、いま思い出した。

きみ…健人の彼女だよね?」


「えっ!!?」

まさか自分ごときを知ってるなどとは夢にも思わず、大いに油断してた。


「すっげぇ面白い顔したよ、今(笑)。健人は俺の話、やっぱしないんだ。

あいつも律儀な奴だからねぇー、そーいうとこ。

けど他人の話は口外しないくせに飲むと彼女の自慢してくる。まったく可愛いやつ!

んで、自慢の彼女さんってカメラマンなの?俺にはアーティストって言ってたけど。

ぜんぜんカメラマンには見えないね。」


マジマジと超有名人に見られて、どんな顔すりゃいいの?

穴があったら入りたいよー!


「あぁ健人ね、きっと雪見をカメラマンって紹介しちゃうと『俺も撮って欲しい!』

って頼まれるから言わないんだと思う。

俺も今まで知らなかったけど、あー見えてあいつ、結構ヤキモチ焼きだよ。」

小野寺が可笑しそうに笑ってる。隣の今野も笑うことで同意した。

ねぇ、この場合私はどう反応すればいいの?誰か教えて!

て言うか私、常務に大事な話があるんだから早く打ち合わせ始めようよー。


と、その時だった。

ノックする音と、ほぼ同時に開いたドアの向こう…。


「ハァハァ…間に合ったぁ?」息を切らした健人が立っていた。


『会いたかったから走ってきたよ。』

真っ直ぐに雪見を見つけた瞳は、きっとそう言って微笑んでたに違いない。


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