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親友優の祝福と不安

「じゃ改めてカンパ〜イ!うん、汗かいた後のビールは最高〜!」


健人ら三人はシャワーを浴びたあと、一旦バーラウンジまで引き返した。

カウンター席に雪見を挟んで両隣に健人と優が座り、まずはビールを注文して

一気に喉に流し込む。


「もう、めっちゃ楽しかったぁ〜!けど、たまには身体も動かさなきゃダメね。

私、歌やりだしてからすっかり運動不足になってたもん!

猫の写真撮ってた頃は、毎日重たいカメラバッグ担いで歩き回ってたのに。

あ、お代わり下さーい!ほら、二人とも早く空けちゃって!」


「早っ!なんか話に聞いてたより凄そうじゃね?」

そう言いながら、優も慌ててビールを飲み干す。


「やだ!どーせ大酒飲みだって聞いてるんでしょ?みんなが言うほど飲まないよーだ。」


「いいじゃん!健人の彼女の条件、大きくクリアしてんだから(笑)

こいつの理想って酒が強いことでしょ?料理が上手いことでしょ?

そんで、ギャップがあって華奢な人…が基本だったと思うけど…。」

優がマジマジと雪見を見て小首を傾げた。


「なによーっ!今の目!あとは条件に当てはまってないなぁ、って思ったでしょ!?」


「だってダンクシュートん時、健人が『重っ!』って叫んだから…。」

優が笑いながら健人に目を向ける。


「違うって!あれはそう言う意味じゃなくてさ!

だって赤ちゃんを高い高いするみたいに持ち上げんだよ?そりゃ誰だって重いだろ!

いや、マジゆき姉は華奢だから!けど筋肉も適度についてんだよね。」


「お!なんか想像しちゃう発言!脱いだら凄いってやつ?」


「やだーっ!想像しないでーっ!!」


三人は昔っからの友人同士のように笑ってた。

初めて会った雪見と優だったが、健人が今一番親しくする優が悪い人であるはずはなく、

健人が結婚相手に選んだ雪見が素敵な人であることに疑いはない。

お互いがお互いを当然のように受け入れられた。


と、その時である。

「あっ!猫ちゃんだぁ〜♪おいでおいで!」


雪見は店の奥からゆっくりと歩いてきた子猫を見つけ、椅子からピョンと飛び降り

足元に寄ってきた三毛猫の子を抱き上げる。

するとそれにつられたかのように、あちらこちらから猫が顔を覗かせ

雪見の元にそろりそろりと集まって来るではないか。


「うそっ!凄くね!?なにこの現象!」

初めて見る雪見の能力に優は目を白黒させてる。


「え?あ、これ?一応これでも猫カメラマンですから。

猫にだけは超モテモテなのよ。あ、そーだっ!

猫君たち!私、明日からこのお店のお手伝いするの。よろしくねっ!

今日はお近づきの印に、少し写真撮らせてもらえる?

可愛く撮って、お店の壁に貼ってあげるから。」


そう言うと雪見は手の中の子猫をそっと降ろし、自分のバッグの中から

小型の一眼レフカメラを取り出した。

長い髪もクルクル素早くまとめ、いきなり完全なる仕事モードに突入である。


「えーっ!せっかくの打ち上げなのに、何もこれから仕事しなくたって!

明日にしたら?」


健人がちょっとだけ不満げな顔をする。

だが、すでにファインダーをのぞいて子猫を見つめる雪見には、

健人のそんな顔などまったく視界に入らない。


「ごめん!健人くん。少しだけ!今すっごくいい写真が撮れそうな気分なの!

私の事は気にしないで、優くんとカラオケでも行って来ていいよ!」


雪見はそう言いながら、すでにシャッターを切り始めていた。

その表情は、先ほどまでの屈託ない笑顔から一転。

被写体を追うプロカメラマンの、鋭くも自信に満ち溢れた横顔だった。


「なるほどねー!確かに凄いギャップだわ。さっきまでのゆき姉とは別人みたいだ。

凄腕カメラマンだとは噂じゃ聞いてたけど、こりゃ健人が惚れ込むのも良くわかる。」


「優にそう言ってもらえると 嬉しいよ。

ま、猫撮ってる時は俺なんて眼中にないんだけどね、この人。

ほら、こうやってどこでも寝ころんじゃうし(笑)」


愛しそうに笑って見つめる先には、他の客のビックリ顔もお構いなしに

深紅の絨毯に寝そべり、シャッターを夢中で切り続ける雪見の姿が。


「なんか天然…というかナチュラルな人だよね。見てて飽きないだろ?」


「わかる?次にどんな顔すんだろ?なに言うんだろ?って一日中眺めてたいくらい。

きっとね、一生楽しく暮らせる気がする。」


「ほんっと良かったな!お前さんのそんな顔見られる日が来るなんて…。

ヤバッ!なんかウルウルしてきた。花嫁の父みたいな心境…。」


「なんでーっ!?俺が花嫁なんかーいっ!」


健人と優は大笑いしながら再び乾杯したが、お互いの瞳はまだ潤んでた。

親友に祝福される喜びと、親友の幸せを自分のこととして感じられる喜びとで。

プラス、あと一週間ほどでしばしの別れになることを思い出したせいもある。


「早いなーっ!アメリカ行きまでもう一週間しかないや。

まだ全然荷造り済んでないのに。大丈夫か?俺たち。

まぁ2ヶ月ぐらいのことだから、金さえあればどうにかなるけど。」


「てか、ゆき姉さえいれば、だろっ?どーせ。」

優がニヤリと笑って健人に顔を向ける。


「わかった?さすが親友!」


夢中でシャッターを切り続ける雪見には、そんな二人のやりとりなど

一つも耳に入ってこない。

ただ目の前の被写体のベストショットを狙うことだけに全神経を集中し、

健人の方なんて振り向きもしなかった。


「健人のライバルは案外こいつらかもな。強敵かも知れんから用心しとけ。」


始めは冗談のつもりで言ったのだが、あまりにも真剣すぎる雪見の横顔が

優に一抹の不安を与える。

それはかつて健人も感じたことのある感覚だった。

だが…。


「やった!我ながらいい仕事が出来たかもー!

集中したら喉乾いちゃった!すいませーん!ビールくださーい!

ねぇねぇ!二人の写真も撮ってあげる!めっちゃ今なら男前に撮れるよ!

あ、元々男前だから!って顔したぁ〜!!」


またいつもの雪見に戻ってテンション高く、太陽のように弾ける笑顔を見せられると

さっきの不安は幻だったのかとも思う。



その時撮した健人と優のポートレートは、確かに今までどのカメラマンさえも

撮したことのないような、3次元に存在するのが奇蹟に思えるほどの

完璧なツーショットに仕上がった。


この極上に男前な一枚と、こっそり忍び足で撮りに行った当麻と翔平の可愛い寝顔は

今日3月31日をもって閉鎖される健人のブログの最後を、贅沢に飾って華を添えた。


明日からの未来に幸多かれと祈りを込めて…。


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