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みんなの可愛い人

「絶対負けねー!ゆき姉はダメでも俺と優とで何とか勝つ!」

「あまーい!俺らに勝とうなんざ百年早い!だってそっちは二人とも野球部じゃん!

しかも二人対三人で勝てるわけなかろーが!」

「ひっどーい!私も頑張るのにぃ〜!」


小さな体育館に響き渡る健人&当麻両チームキャプテンの雄叫びと雪見の嘆き。

それを他のメンツが大笑いしながらもゲームはスタートした。


全員がみずきデザインの『秘密の猫かふぇ』Tシャツをユニフォーム代りに着てる。

雪見チームはグレー、翔平チームは黒。

以前この店がチャリティー用として作ったTシャツで、胸に英語で

『SAVE THE CAT 』と書いてある。

背中には背番号を模したシリアルナンバーが入っていた。


最初に主導権を握ったのは、やはり3人共バスケ経験者の当麻、みずき、翔平チーム。

鮮やかなパス回しで立て続けにシュートを決め、あっという間に10ポイント先取。


「ナイッシュー♪俺たち楽勝じゃね?百点くらい取れる気がする。」


当麻が翔平にハイタッチしながら言った。

みずきも息を弾ませながら「楽しぃ〜♪」と最高のスマイル。

なのに雪見が突然「ちょっと待ったぁ!」と試合の流れをぶった切る。


「ねぇねぇ!私この3on3って、ルールがよくわかんないっ!

だってすぐ翔ちゃんが私のボール盗んでシュートしちゃうんだもん!ずるいよー!!」


「ぬ、盗んでって人聞きの悪い!

そーいうゲームなんだから、しょうがないでしょっつーの!」


健人と優は、二人だけでパスを回した方が確実に点を取れるのはわかっていたが、

それでは雪見が可哀想だと思い、すべてのボールを雪見にも回していた。

それゆえの失点なのだが…。


「大体さぁ、なんでゴールが二つあるのに一個しか使わないの?

半分しか使わないからすぐ翔ちゃんに盗られちゃうんだ!

せっかくなんだから広く使ってやろうよー!」


コート半面だけを使用するからこそ攻守が目まぐるしく切り換わり、

そのスピーディーなゲーム展開こそが3on3の醍醐味だと言うのに。


「なんだよー!俺一人が悪者みたいじゃん!ほんっと、ゆき姉にはかなわねぇな。

しゃあない、全面使って普通にやるかぁ?

ほんとは飲んでるから、あんまり走りたくないんだけど…。

じゃルールも単純にして、シュート本数の多い方が勝ちってことにしよう。

で、試合時間も前後半15分ずつってことで、試合再開っ!!」


今の翔平の言葉を聞いて、頭の回転の早い健人は瞬時に作戦を練り直し

それを優と雪見に小声で伝えた。


仕切り直しでやっと始まった3人対3人のバスケ勝負。

190センチの長身を誇る優にジャンプボールで勝てる相手などこの中にはいない。

優が楽々と大きく自陣に弾き飛ばしたボールは、健人が素早くキャッチ。

それをゴール下に走り込んだ優に再びパスして、軽やかにシュートを決めた。


「キャーッ!やったやったぁ!優くんてかっこいーんだね♪」

「やっと気付いた?(笑)よしゃ!一気に攻めるぞー!」


今日が初対面の雪見と優だったが、お互いなぜか昔からの友人のように話が弾む。

その光景を健人が走りながら、嬉しそうに笑ってながめた。


しかし、バスケ経験者チームがこのまま引き下がるわけはない。

なにくそー!とエンジンが掛かり、当麻と翔平は本気モード全開でコートを駆け回った。

が、それこそが健人の仕掛けた作戦だとは夢にも思わず…。


前半戦は当麻チームの圧勝だった。

敵ながら雪見も「かっこいい!」

を連発。

調子に乗った翔平はダンクシュートまでお披露目した。


そして迎えた後半戦。

健人の罠にまんまと掛かり、走りまくった当麻たちはどうしたかと言うと…

すでに試合開始前から息も絶え絶えであった。

健人らと合流前に上機嫌で飲んだ酒が、もくろみ通り全身に回ったのである。


一方の雪見と健人は、猫かふぇ到着後に飲んだのは乾杯時のシャンパンと

ボウリング終了後に飲んだ缶ビール一缶だけ。

優も大して飲まずに久々に会った友人と話し込んでたらしく、酔いが回るどころか喉が渇いて

冷たいビールが飲みたくて仕方なかった。


「早くやろうぜ!終わったらシャワー浴びて、ラウンジで生ビール飲もう!

キンキンに冷えたジョッキでさぁ。くぅーっ!早く飲みてぇ〜!!」


「おぇっ!酒の話は止めてくんない?優の話聞いたらなんか気持ち悪くなってきた…。

ねぇ、マジで後半もやんの…?

こんだけ点差が開いたんだから、俺らの優勝ってことでいいんじゃね?」


「当麻の意見に賛成っ!俺、これ以上走ったらヤバイかも…。

てか、なんで俺らがこんなにきてんのに健人たち平気な顔してんの?」


当麻と翔平が一向に立ち上がる気配もなく、体育館の壁に寄り掛かって

座り込んでるのを、腕組みして仁王立ちのみずきが上から睨み付けてた。


「それはね、アンタ達二人が調子に乗って飲み過ぎたからっ!ほんとにもぅ!

ゴメーン、ゆき姉!私に免じてこの試合、ドローにしてもらえる?

この二人、ウォーターベッドんとこで少し休ませるわ。

ゆき姉たちはこのまま遊んでってね。

ほら、立って!たった15分間走っただけでしょ?

って言うか二人とも、私から見たら無駄に走り回ってたよ! 結局は自滅じゃないの。」

みずきに叱られながら当麻と翔平は体育館を出て行った。


「なんか悪いことしちゃったかな?まさかあそこまで酔いが回るとは…。」

三人の後ろ姿を見送った健人が、少し心配顔で言う。


「まぁ気にすんなって!すぐ復活するさ。

それよりこの後どうする?シャワーしてカラオケの場所にでも行かない?

俺、ゆき姉の生歌聴いてみたい!健人が泣くっていう歌、聴きたい!」

優が、まだ引かない汗をタオルで拭きながら、健人と雪見を代わる代わる見た。


「いいよ♪私も優くんの生歌聴いてみたい!

健人くんから、めちゃ上手いって聞いてるから一度ライブに行きたかったの!

目の前でタダで聴けるなんてラッキー♪

あ!でもその前に、どうしてもやりたいことがある!」


雪見がそう言いながら、なぜかバスケットボールを手に持って立ち上がった。

そして健人に向って一言。


「翔ちゃんのやってたダンクシュート、私もやってみたーい!」

「えぇーっ!?」


当然、雪見が自力でダンクシュートを決められるはずはなく、

身長170センチの健人が156センチの雪見を持ち上げる羽目になるのだが…。


「俺がやってやろう…か?」


どう考えても辛い目に遭うであろう健人を、優がクスクス笑いながら見る。

しかし健人は苦笑いしながらも首を横に振り、やる気満々の雪見を

可愛いなぁと思いながら「よしゃぁ!」と自分に気合いを入れた。


「じゃ、やるよ!せーのっ!…重っ!!早く入れろ~っ!」

「ごめーん!キャッ!入ったぁ~♪楽しぃ~!」


かくしてダンクシュートは見事一回で決まったのだが、調子に乗った雪見は

あと3回おねだりして健人にやらせた。

翌日健人の二の腕が筋肉痛でプルプル震えたのは、お互いの名誉のため

秘密にしておこう。


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