表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
339/443

翔平のサプライズ打ち上げ

「ちょい待ちっ!お前さぁ!俺の話、聞いてなかったの?

リムジンとかいらねーって言ったんだけど。

ゆき姉の好きそうな店を選んでやってってだけ頼んだんだよ!?」


「聞いてたよ。だからリムジンじゃなくて今回はハマーにしたじゃん!

それにこれから連れてく店は、ぜーったいゆき姉も気に入ってくれるの!

まだ店にも着いてないのに何言ってんの、健人は。」


「目隠しもいらねーって言ったのに、なんだよこれぇ!」



三月最後の日の午後7時半過ぎ。

翔平からの連絡通り、マンション一階のエントランスで車の到着を待ってた健人と雪見は

あまりにも目立ちすぎる超大型高級外車のお迎えに、慌てて車に飛び込んだ。

が、その途端、先に乗ってた翔平にアイマスクを装着され、健人は叫んでる。


「いいじゃないの、健人くん。

せっかく翔ちゃんが無い知恵振り絞ってサプライズしてくれたんだから。

私、こういうの初めてだから、なんかワクワクしてきたっ!」


「お!ゆき姉が喜んでくれたっ!てかなんだよ、無い知恵振り絞って、って!

まぁ翔チャン呼び、嬉しいから許すけどー。

これね、前にやった健人の誕生日企画のパクリなんだけどね。

俺に打ち上げ任せた健人が悪いんだよ。」

そう言って翔平は愉快そうに笑ってる。


そう、今夜はこれから全国ツアーの打ち上げなのだ。

とは言っても本当の打ち上げはすでに済んでるので、今日は気の置けない仲間との

飲み会兼当麻らの結婚を祝う会的なものなのだが、どうやら翔平は

相当張り切ってこれを企画したらしい。

最近仲間内で流行ってるドレスコードまで指定した上、車中ではテンション高く

まぁ喋ること喋ること。


「カジュアル過ぎないフォーマルなカジュアル、ってさぁ…。

翔平の言ってることって、みんな理解できてんの?

俺なんか昼間、スタイリストさんに相談したら笑われたから!」


「いいのいいの!取りあえず胸に赤い薔薇さえ付けてれば。

これから行くとこね、一回だけ偉い人に連れてってもらったんだけど、

絶対ゆき姉も気に入ると思う!

俺、速攻で会員登録したもん。まぁ会費がめちゃ高いのが難点なんだけど。

なんかステータスって感じ?俺も一流の仲間入りしたかなーみたいな。

でね、ほんとは会員制の店だから一般客は入れないんだけど、なんとなんと!

オーナーが偶然知り合いでさぁ!今回は俺の顔で特別にねっ。

あ、もうすぐ到着だ!アイマスクは店ん中に入るまで外すなよ。

地下駐車場に秘密の入り口があるなんて、なんかワクワクでしょ?」


「秘密の…入り口?」



健人と雪見が同時に頭に思い浮かべた通り、アイマスクを外して店内を見回すと

そこはなんと…。


「うそっ!?『秘密の猫かふぇ』じゃん!」


「えーっ、うっそ!?健人、知ってんのぉ?この店!

うわっ、めっちゃショック!絶対みんな来たこと無いと思ってたのに!

て、まさか…ゆき姉も?」


「ごめーん!私達この店の会員なの。」


翔平のハンパない凹み具合に二人が大笑いしてる所へ、胸に赤い薔薇を付け

ドレスアップしたみずきがコツコツと近付いてきた。


「ようこそ『秘密の猫かふぇ』へ!本日はご来場頂き誠にありがとうございます。」

そう言いながら丁寧にお辞儀したみずきは、三人が思わず見とれるほど

凛としたたたずまいで光り輝いている。


「みずき、今日は一段と綺麗!それになんか生き生きとしてる!

なんか良いことでもあった?」

雪見がみずきの顔を覗き込むと「えへっ、ナイショ。」と笑顔を見せた。


「しっかし、みずきも人が悪くね?!

オーナーだってことも最後の最後に言うし、健人とゆき姉が会員だなんて

一言も言わなかったじゃん!

俺がここで披露してみんなを驚かせようと思ったのに、サプライズが一個無くなったぁ!」

子供みたいに口を尖らせた翔平に、すかさず雪見が突っ込んだ。


「ばっかねぇ!たとえ知り合いだとしても、オーナー自ら会則破るわけないじゃない!

読んでないの?ここの会則。他のお客さんのこと口外したら、罰金一千万なんだよ!」


「い、いっせんまんー!?やっべぇ!危なかったぁ!」


ビビリまくる翔平にまたも大笑いしてると、ちょうどよいタイミングで当麻が到着。

「相変わらず綺麗だねぇ!」とニコニコしながらみずきの隣に並んだ。


「ありがと♪ さ、当麻も揃ったことだし中へどうぞ。

あ、今日は私、他のお客様にもご挨拶して回らなくちゃいけないから

バタバタしてるけど、ゆっくり楽しんでってね。

翔平くんが幹事さんってことで、特別に出血大サービスしといたから。」


「そっか…。今日がみずきオーナー最後の日…なんだね。

なんか寂しくなっちゃう…。」

雪見は目を潤ませたかと思うと、すぐにぽろんぽろんと涙をこぼし始めた。


「やだぁ!ゆき姉が先に泣いたら私までつられちゃうでしょ!

今日は最後まで笑顔でいよう、って決めて来たのに…。

なんでそんなに泣き虫なのよ、ゆき姉…。」


「ごめんね、ごめんね…。」


雪見とみずきは、お互いをそっとハグしながら泣いていた。

大好きだった亡き父から受け継いだこの店を手放すみずきの無念さが、

体温を通して雪見の身体に伝わってくる。

つらいよね、悲しいよね…。


この店が今すぐ消えて無くなるわけではない。

だが、明日経営権が事務所に移管してからが正念場なのだ 。


みんなの大事な大事な思い出が詰まったこの店を、何としてでも守らなければ。

図らずも、翔平がこの店に今日連れて来てくれたことに感謝する。

ありがとう!明日からの決意が固まったよ。




「よしゃ!では皆さん、お手元のグラスをお取り下さい。

今日は俺の顔で飲み放題となってますんで、どーぞどーぞ盛り上がってね!

それと秘密のオーナーさんのご厚意で、店の半分からこっちは貸し切りになってます。

ずーっと奥の方には特別会員専用のボーリングレーンと、バスケのコートがあるそうで

そこも俺らのために開放してくれたから、思う存分くつろいで遊んじゃって下さい!

ではでは、SJとYUKIMI&のツアー成功と、こいつらの幸せを祈ってカンパーイ!」


「 カンパ〜イ♪おめでと〜!!」「おめでとう!!」


翔平の俺様な挨拶にクスッと笑いながら、雪見と健人はグラスを合わせる。

当麻とみずきの周りには大勢の仲間が集まり、二人に祝福の言葉を掛けながら

次々グラスをカチンと鳴らした。


「俺も幸せにすっから安心して。」「えっ?」


幸せそうに笑ってる二人を眺めてる雪見に、健人がぶっきらぼうに言う。

そして照れ隠しのように琥珀色のシャンパンを一気に飲み干すと、

「遊んでこ!」と雪見の手を引いて店の奥へとズンズン進んで行った。


まだ見ぬ秘密の洞窟探検。


二人は初めてここへ来た時のように胸を高鳴らせ、再び繋いだ手をギュッと握り締めて

長く続くトンネル内で素早くキスをした。


今までの私、バイバイ。明日からの私、こんにちは!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ