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祝福の後押し

「ゆき姉、来て。」


雪見に隣に列ぶよう健人が促した。

だが…心の準備が済んでいない雪見の足は、ピアノの側から一歩たりとも離れられない。


「さぁ、健人の隣に行ってあげて!大丈夫。きっとうまく行く!」


「健人に任せとけば大丈夫だって!

とっとと終らせて、早くライブ始めようぜ!行ってきなさいっ!」

みずきが優しく微笑みかけ、当麻は雪見の背中をトンと前へ押し出した。


やっとステージ中央に列んだ二人に対し、全てを察したファンからは

「キャーッ!!」という悲鳴が飛び交う。


拒絶反応…だと思ってしまった。

その悲鳴こそが自分に対する返事なのだと…。

雪見は身体から血の気がサッと引き、目を伏せたまま顔もろくに上げられずにいた。


その時、ふいに健人が手をつなぐ。

温かくたくましい手でギュッと握り、雪見の顔を下から覗き込んで

不敵な笑みを見せた。


「大丈夫でしょ?これで。」イタズラっ子のように目が笑ってる。


大きく大きく澄んだ瞳。全てを包み込む優しい瞳。

真っ直ぐ前だけを見つめる力強い瞳。うそ偽りのない正直な瞳。


そう…この瞳には嘘がない。

彼が大丈夫だと言うなら本当に大丈夫なんだ…。

そう思った瞬間、冷たくなった指先に一気に健人の血潮が流れ込んだ気がした。


自分自身の気持ちを確認し、雪見はスッと顔を上げる。

そして健人に向かって「よろしくねっ!」と笑って見せた。


まったく健人の嬉しそうな顔ときたら!

やっと二人の心が一つになって、百万力のパワーを得た気がしてた。

目を見て微笑み合ったあと、健人と雪見は堂々と前を向き一礼する。

もちろんその手は固く繋がれたままに。


「みなさんに、聞いてもらいたい事があります!」


健人の第一声に会場は静まり返る。

次に出て来る言葉を、皆が固唾を呑んで待ってるのがよくわかった。

健人は思いのすべてをきちんと伝えようと、ゆっくり言葉を選んで語り始める。


「ずっと心苦しく思っていました…。

ブログで発表して以来、きちんとお話してこなかった事を…。


本当は今日もライブの一番最後まで、黙ってる予定だったんです。

でも…。それでほんとにいいのかな?って。

俺とみんなとがお互い気持ちを誤魔化し合って、そんなんでライブが

楽しくなるのかな?って…。

あれこれ考えるのに行動に移せないでたら、さっき当麻に背中をドンッと押されました。

やっぱヤツの行動力は、すげーや!ほんっと尊敬する。サンキュ♪当麻。」


「いやいや、お褒めにあずかり光栄です。」

当麻はそう言いながら『頑張れよ!』と目でエールを贈った。


「週刊誌なんかで色々読んだ人もいるだろうけど、俺の口から直接話すことだけが真実です。

どうか頭を真っさらにして聞いて下さい。


俺は来月から二ヶ月ほど、ニューヨークに芝居の勉強に行って来ます。

ずっとずっとやりたかった事なんだけど、みんなや現場にも迷惑かけるから

どうしても踏み切れないでいた。

だから今、念願叶ってめちゃめちゃ嬉しいです!

色々調整して仕事を空けてくれた事務所にも、心から感謝しています。

本当にありがとうございました!」


小野寺や今野が見守るステージ袖に向かい、いきなり健人と雪見が頭を下げたので

慌てて二人は腕組みを解き、背筋を伸ばしてお辞儀を返した。


「ニューヨークへ行ける!って決まった時…。

たった二ヶ月だけど、どうしてもここに置いてけないものに気が付いた。

それが…ゆき姉です。」


そう言いながら健人は、隣に立つ雪見を嬉しそうに見つめてニッコリ微笑み、

繋いだその手を再びギュッと握り締める。


愛しくて愛しくて、どうしようもないほど愛しくて…。


雪見を見つめるその瞳は真綿のように柔らかく、優しく温かくて

両手で大事な宝物をそっと抱えてるような眼差しだった。

その宝物を片時も離したくないという感情が、素直に瞳に表れている。

誰が見ても、健人はそんな顔をしていた。


今まで見たこともない健人の表情に、一体誰が異議など唱えられよう。

見守る会場中がそんな二人に納得し始めた時、健人が表情を正して前を向く。


「今回のことで、俺の人生にはゆき姉が必要で、ゆき姉の人生には俺が必要なんだって

はっきりとわかりました。だから…。

だから俺たち、6月にニューヨークで式を挙げる事に決めました!」


健人が言い終わらないうちに会場が揺れるほどのどよめきが起こり、

弾かれたように大きな拍手と「おめでとう!」の大声援が飛び交う。

…が、次の瞬間、それは耳をつんざく大絶叫へと更に変化したのだ。


「おめでと〜!!おめーら、サイコー!!!」


大絶叫の少し前、聞き覚えのある声がモニタースピーカーから聞こえた気がした。

…気のせいか??


キャーキャー騒ぐ声が止まらない。

それほど衝撃的な発表であることには間違いないのだが、会場の視線が

なぜか健人達背後の巨大スクリーンに釘付けであると気付いた四人が

揃って振り向くと、なんとそこには香港にいるはずの翔平が大写しになり、

笑顔でみんなに手を振ってるではないか!


「翔平〜っ!?なんでぇ??」


いきなりの友人登場に、ビックリ仰天の健人ら。

それ以上に会場は、次々と訪れるサプライズの嵐に興奮度合いも頂点だった。


「やっほ〜♪みんな、元気ぃ!?俺、ちゃんと映ってる?」


「う、映ってるけど…。てか、映ってるじゃねーし!

なにやってんの、そんなとこで!?」

健人が、スクリーンの中の大きな翔平と嬉しそうに会話を始めるが、

それがVTRだとすぐ気付き、照れ笑いをした。


「えー会場にお集まりのみなさん!苅谷翔平です!

今日は俺の大事な親友四人…いや、みずきさんは恐れ多くて親友とはよべないな…。

ま、当麻の奥さんならいっか!俺も『みずき!』って呼び捨てしちゃお!(笑)

もとい!俺の大事な親友たちよ!結婚おめでとぉぉぉ!!

いやぁ、なんでこんなおめでたい瞬間に俺は立ち会えないの!?悲しすぎる!

けど俺一人の祝福なんかより、こんなに大勢のファンに祝福された方が

百万倍嬉しいに決まってるよね!

どうか会場のみなさん!

俺の代わりにたくさんの祝福を、この素敵な二組のカップルに贈ってやって下さい!

あれ?カップルって言葉、なんか古くさいよね?

ゆき姉と仲良くなってから、どーも俺の言葉が今ドキじゃなくなった気がする(笑)。

そんなわけで、あとのお祝いは会場のみんなに托します!

力一杯の祝福で、このライヴを盛り上げてやって下さい!

俺は香港から心の声で声援を送るから。…なんちゃって!

今の格好良かったでしょ!俺のことも応援よろしくねっ!

香港で撮影中の苅谷翔平でした!またね〜!!」


翔平の姿がスクリーンから消え、四人が再びライトに照らされた瞬間、

割れんばかりの拍手と「おめでとう!!」の大合唱が巻き起こった。

皆が次々と椅子から立ち上がり、今ここに誕生した二組の正式なカップルに

惜しみない祝福の拍手を贈る。



大事な友達と、会場を埋め尽くす大事なファン。

そして…夏美が仕込んだであろう素敵なプレゼントで始まったライヴは、

その後これ以上ないほどの盛り上がりを見せてラストを迎えた。


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