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ウェディングソング

「なんで!?みずきの出番は一番最後なのに…。」

「どゆことっ!?お前ら…また何か企んでんだろっ!」


雪見と健人が問いつめてるにも関わらず、当麻は近づいてくるみずきを

惚れ惚れと眺めながら「さぁ?」とだけ、にこやかに答えた。


「えへっ、来ちゃった!」


そこへみずきが合流する。

その瞬間見せた笑顔は、当麻と居る時にだけ見せる少女のような照れ笑いだった。

…が、そこからが一悶着。

あまりに突飛すぎる当麻とみずきの行動に、振り回されっぱなしの健人と雪見は

黙っちゃいない。


「ねえっ!どーゆーことなのっ?教えてくれたっていいでしょ!」

「どーすんだよっ!また常務を怒らせちまっただろ?確実に。」

「いーから、いーから!俺らに任せとき!」

「いーからじゃねーし!一日に何回思いつきで行動すんだよ!」

「思いつきなんかじゃないって!ちゃんと夏美さんと…。」


マイクを通さないオフレコ会話を続ける三人に、会場のざわつきが一層強まる。

そりゃそうだ。まだライブはさっぱり進んじゃいないのだから。

みずきは早急に自分の役目を果たすべく、健人らの会話を断ち切った。


「もぉーっ!私、先に進めるからねっ!」

みずきがマイクを手に前へ出る。

何を先に進めると言うのだ?そんな顔して健人と雪見がみずきを見た。


「みなさーん!こんばんは〜!華浦みずきです!

うわぁー凄いたくさんのお客様!今日はようこそ、SJとYUKIMI&のライブへ!

…って、なんだか私がMCみたいね(笑)。

あ、違う違う!ほんとにそうだと思っちゃった?ごめんね!

私はただの通りすがりの人です(笑)。

でも一度こういうの言ってみたかったんだぁ!念願叶っちゃった。」


みずきは一瞬で会場中の視線を集め笑いを誘い、そして巧みな話術で観客の心をつかむ。

その華のある容姿とウィットに富んだ会話センスは、さすがハリウッドで生き残る女優だと

ステージ袖で見守る小野寺や今野も感心しきりであった。


「さすがは華浦みずきだ。こっちにいる若手女優とはオーラがまるで違う。

彼女がうちの所属になるとはな…。

もしかすると、とんでもなくラッキーな出来事かも知れんぞ。本人には悪いが。

それに今日からは当麻のカミさんときたもんだ。

明日のマスコミ発表後、どえらい騒ぎが起きるぞ!覚悟しとけ。」


「はい、健人と雪見も…。まずはここにいるファンがどんな反応を示すか…。」


小野寺の言葉に今野がうなずき、今野の言葉に小野寺がうなずく。

明日からの事務所対応の忙しさを想像するとめまいがしそうだったが、

今はそれを置いといて、このライブの成功だけを祈ることにしよう。

口に出さずとも、お互いが心の中でそれに同意した。



「みんな、私が突然出て来てビックリした?なんだ、来ると思ってたの?

ありがとう!さすが当麻ファンさんは私の行動もお見通しなのね。光栄です!

ほんとはね、ライブの最後にちょっとだけご挨拶させて頂く予定だったの。

なんだけど…オープニングをあっちで聞いてたら急に私も歌いたくなっちゃって。

それで足が勝手にここに向かって歩き出したものだから、予定外の私の乱入に

この三人が揉めてるってわけ。お騒がせしました(笑)。

だってね、この人達が悪いのよ!すっごく楽しそうに歌うんだもん(笑)。

でね…今日は私にとって特別な日になったから、どうしても一曲だけ

歌わせてもらいたいんだけど、聴いてもらえるかなぁ?」


みずきの登場自体がサプライズなのに、更に歌まで聴けるとは!

会場中は大興奮に包まれた。

何しろみずきの歌はドラマや映画の中でしかお披露目されたことがないのだが、

そのプロ並みの歌唱力はデビューしないのが不思議との評判だ。


そんなレアな歌声を、今この場で聴ける!

なんだか自分達が、シークレットライブの特別な招待客にでもなったかのような気分で

観客らは見知らぬ隣同士とも喜びを分かち合い、不思議な一体感のもと

みずきに大きな声援を送っていた。


「今日は私にとって特別な日になったから…。」

どうやらこの言葉は頭から消え去ってるようだが…。


一方、雪見と健人こそビックリ眼でみずきを見た。

「うそっ!みずきが歌うの!?」

その驚きの表情を楽しむように、みずきは二人の前をクスクスと笑いながら横切り、

ストンとグランドピアノの椅子に腰を下ろした。


「ええーっ!弾き語りすんのぉ!?マジでぇ?」

健人のリアルな驚きに、会場中から笑いが起こる。


雪見が慌ててピアノのそばに駆け寄った。

「みずき、何歌うの?」 「ひ・み・つ!」


雪見とみずきのやり取りにも、会場からは笑いが聞こえた。

そして当麻はもちろんこの展開を知っていたので、観客と健人らの反応に

満足げに微笑みながら、みずきの一番近くに歩み寄った。


みずきが深呼吸を一つしてから、鍵盤の上に白く長い指を置く。

そして一瞬顔を上げ当麻と見つめ合ったあと、滑らかに前奏を奏で始めた。


その聞き覚えのあるメロディに会場からは「キャーッ!」という悲鳴が上がり、

同時に大きな拍手が巻き起こる。

みずきが透き通る声で歌い始めたのは、なんと木村カエラの『Butterfly』

ウェディングソングの名曲であった。


「えっ…!?」

「うそっ!自分で歌うか?これを…。」

呆気にとられる雪見と健人を尻目に、みずきは実に嬉しそうに伸びやかな声を披露する。


しばらくすると、我に返ったであろうファンの中から、自然発生的に

この歌を口ずさむ声が聞こえてきた。あちらからも、こちらからも。

やがてバラバラだった歌声は一つの大きな固まりとなり、みずきの歌と

重なりながらエンディングを迎えた。

と、その瞬間会場の照明が落ち、ピアノ周りの四人にだけスポットライトがあたる。


「な、なんだぁ!?この演出!リハじゃこんなの無かったぞ!

誰だ、スポット当ててんのは!夏美ぃ!何か変更事項でもあったのか?

夏…美?あれ?あいつどこ行った?」

小野寺がキョロキョロしてる間に、みずきがピアノ前から立ち上がり

当麻の隣に列んで二人深々と頭を下げた。


「みんなぁ!今日俺たち、めでたく夫婦になりましたぁー!!

今まで応援ありがとう!そしてこれからも、どうぞよろしくっ!!」

当麻が大きな声でそう叫んだあと、嬉しそうにみずきのほっぺたにチュッとキスをした。


会場からは大きな拍手と「おめでとう!」の嵐。

いつかはこの日がやって来ると思ってたので、すんなりその言葉を受け止めて

自分らが結婚式の参列者かのように、思いを込めて精一杯の祝福をした。


「次はお前らの番。ガンバ!」

当麻とみずきが温かな眼差しで、小声で健人と雪見にエールを送る。


思いの外早くやって来たその時に、緊張しながらも健人はスッと前を向いた。

その瞳には揺るぎない雪見への愛をたたえて…。




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