表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
331/443

いきなり驚きラストライブ!

暗闇の中、薄いカーテンの向こうの高い位置に三人のシルエットが浮かび上がる。

アカペラで息の合ったハーモニーを聴かせた後、ストンとカーテンが落ちると

ステージ上に組まれたやぐらの上に斎藤健人、三ツ橋当麻、浅香雪見の三人が登場!

ファンに向かってそれぞれが大きく手を振ると、超満員の客席からは大絶叫がこだました。


ツアーのオープニング曲は、もちろん絢香×コブクロの『WINDING ROAD』


緊張感など一切感じさせず、想い出の一曲を実に楽しそうに歌い終えた三人は

上気した笑顔でお互いハイタッチし完璧なスタートを讃え合った後、

やぐらの螺旋階段をトントンと軽やかに下りてきてステージ中央に整列した。


「みんなーっ!僕らのラストライヴにようこそーっ!

こんなに大勢集まってくれて、めーっちゃめちゃ嬉しいです!

今日は最後まで、思いっきり楽しんでって下さいっ!よろしくーっ!!」


健人が一番手で挨拶し、頭上で大きく両手を振ったあと頭をぴょこんと下げて

最高の健人スマイルを見せる。

するとファンからは「キャーッ!!けんとーっ!!」と、すでにトップギアの大歓声が。

続いての当麻も、手を大きく振って会場をぐるりと見渡しながらの第一声。


「みんな、元気だったぁ〜!?会いたかったよ〜!!」


当麻の弾ける笑顔が会場全体をキラキラビームで乱射したかのように、

心打ち抜かれたファン達が悲鳴を上げた。


「あ、さっき健人がラストライヴって言ったけど、『SPECIALJUNCTION』はまだ解散しないよ!

健人がニューヨークから帰って来るまで休止するだけだから!

ほんっと、ちゃんと伝えろよー、健人ぉ〜!

明日のスポーツ紙に『もう解散か!?』とかって大見出し付けられるじゃん(笑)」


「わりぃわりぃ!俺、最近日本語が苦手でさ(笑)」


「嫌みかっ!」


仲良い二人のやり取りに、会場中が大爆笑!

観衆の興奮と緊張感が一気にほぐれ、場の空気が丸くなった。

それを受けての雪見の出番。

和気藹々とした笑いの中、雪見の緊張もほぐれ、軽やかに挨拶して手を振って

次の曲に移るはずだった。

だが…。


雪見はすでに泣きそうな顔をしていた。

瞳に涙を浮べて二階席の上を見上げ、涙がこぼれ落ちないよう懸命に堪えていた。

胸に下げた健人とお揃いのクロスペンダントを、右手でギュッと握り締めて…。


もう二度と立つ事のないこのステージ…。

もう二度と会う事はないファンのみんな…。

そしてもう二度と共に歌うことはない、愛しい二人…。


明日まだワンステージが残ってるというのに、雪見はたった今歌った歌が

ラストソングかのような錯覚に陥っていた。


「おーいっ!ゆき姉っ!なんで今から泣いちゃうの!?

これから始まるんだろーが、楽しい時間がぁ!」


左隣に立つ当麻が、笑いながら雪見の肩をトントンと叩く。

右隣の健人は小さな声で「大丈夫?」とだけ聞いて雪見を優しい眼差しで見守った。


「ゆきねぇーっ!頑張れぇーっ!!」

「ゆきねぇーっ!!」


会場全体から声援が飛んでくる。

多分、当麻のファンからも、健人のファンからも。


「悔いが残んないようにしなきゃね。思い残すことのないように…。」


健人の言葉とファンの声援が、雪見の背中をそっと撫でる。

やっと心が前を向いた雪見は足元を見つめ、ふぅぅぅ…と大きく息を吐いたあと

マイクをギュッと胸元で握り、そのまま深々とお辞儀した。


「みなさん、ありがとう!」

雪見が発した言葉に、会場中が静まり返った。


「ダメだなぁー私って。なんでいっつもこんなグダグダなんだろ。

せっかくオープニングが今までで一番の出来だったのに…。

よしっ!もう泣かないっ!たぶん…。」


「多分かよっ!しょーがねーなぁ!ゆき姉は俺らが付いてないと生きてけないね!

しゃーない!健人をゆき姉の一生の護衛に付けてやっか!」


突然の当麻の発言に、健人と雪見は『ええっ!?』と驚きの表情で同時に当麻の顔を見た。

会場からも、その言葉の意味に気付いた一部のファンから悲鳴に似た声が上がる。


「な、なんだよ、いきなりっ!」


そう、目を見開いて驚く健人の言う通り、いきなり過ぎた。

何故なら、打ち合わせではライヴのラストで結婚報告をすることになっていたから。

ステージ袖で腕組みしながら見ていた今野や小野寺も、突然耳に飛び込んできた言葉に

慌てふためいてる。


「また当麻の奴め、やりやがったなっ!なんであいつはいっつもこうなんだ!」

常務の小野寺がいまいましそうに吐き捨てたが、もう進むしかないと瞬時に判断すると

直ぐさま側にみずきを呼び寄せた。


「出番が早まったが、上手くフォローしてくれるよな!?

あいつをコントロールできるのは華浦みずきだけだよ。

負けたっ!俺達ゃお手上げだ!頼む、みずき!なんとか上手くやってくれっ!」


「わかりました。本当に申し訳ございません!」

みずきが落ち着き払った声で深々と頭を下げ、当麻の勝手な暴走を妻として謝罪した。


「いいっ!謝らなくていいから早くなんとか頼むっ!」

騒然とし出した会場に、焦って小野寺がみずきの背中をグイッと押し出す。


タンッ!とステージ上に一歩目を踏み出した途端、みずきはハリウッド女優

華浦みずきのオーラを身にまとった。

大輪の薔薇を思わせる華々しい笑顔を振りまき、優雅に手を振りながら颯爽と現れた大女優に

会場中から地響きを伴った大絶叫が巻き起こる。


めちゃめちゃ笑顔の当麻。

呆気にとられた健人。

茫然と立ち尽くす雪見。


そして…反対側のステージ袖で、にっこり微笑む夏美がいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ