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結婚宣言!

「ちょっ、ちょっと健人くんっ!なに言い出すの!?だめっ!!」


雪見が健人の驚くべき発言を、こわばった表情で素早く強く制する。

だが健人は、明るさの消えた雪見の瞳をじっと見つめ、なぜか穏やかな笑みを浮かべた。


「け…んとくん…?」


健人の大きく澄んだ瞳が、真っ直ぐに雪見に言葉を伝えてる。

『いいんだよ、もう…。何も心配はいらないさ。』

確かに…確かにそう伝わってきた。瞳からも笑顔からも…。


「いいの…?ほんとに…いいの?」


健人の瞳を見つめ返し、声に出して真意を確かめる。

その言葉に健人は、ただただ優しい微笑みでうなずいて見せた。


不思議な事にその瞬間、雪見には周りの騒がしさが徐々に心地よいものへと聞こえてきた。

二人の登場を今か今かと待つ、ライヴ開幕前の客席の喧噪にも似た…。

あるいは、街の雑踏を流れる浮かれ気分のクリスマスソングのような…。

クリスマス…ソング?


自分で感じた感覚が何故かとても季節外れで、雪見は一人可笑しくてクスクスと笑い出す。

そんな雪見を見て、健人にも笑顔がこぼれた。

なんだか改めてプロポーズを承諾されたような嬉しさが、じわじわと込み上げた。


「ね、ね、なんで今、笑ったの?」

「教えなーい!」

「けち!じゃあ帰ったら教えて。」

「忘れなかったらねっ。」


健人と雪見がいつものごとく、たわいもない事を二人の世界で楽しげに会話してる。

それを呆れ顔の当麻が、「はいはい!」と横から口を挟む。


「お二人さん!もういい加減にしないと今野さんがブチ切れそうだよ。

マジ、早く終らせてリハーサルに行こうぜ!」


「わりぃわりぃ!そうだった!よし!じゃあとっとと終らせよ!」

そう言うと健人は、雪見にサッと右手を差し出した。


一瞬躊躇した雪見だったがすぐに「ちょっと待って。」と断りを入れ、

右手薬指にはめてた指輪をおもむろに外して左手薬指へと付け替える。

それは…健人からプレゼントされた、永遠の愛を誓うリングであった。


もう、右手にはめる事もないだろう。

今日からは堂々と、誰に遠慮もせずに左手を飾ってあげよう!


そうして差し出された雪見の左手を、健人はニコッと笑ってギュッと握り締める。

『もう絶対に離すことはないから…。ここでみんなに愛を誓うよ。』

心の中で雪見に宣言し、落ち着いた顔でスッと前を向いた。


手と手をしっかりつないだ二人に、場内が静まり返る。

健人の口から今まさに語られようとする真実を、誰もが一字一句聞き漏らさぬよう

全神経を集中させて二人を見守った。


「えーっと…。みなさんもご存じの通り、僕たちは来月から二ヶ月間

日本での活動を休止して、ニューヨークへ行って来ます!

僕の念願だった芝居の勉強のために彼女も付いてきてくれる訳ですが、

向こうでは通訳を務めてくれたり生活全般をサポートしてくれたり…。」

そこまで一気に説明すると、健人は雪見の顔を見て嬉しそうに微笑んだ。


その弾けるような笑顔は、雪見と共にニューヨークへ旅立てることを心底喜び

心待ちにしてることを如実に物語る。

ファインダー越しのカメラマンも、思わず顔をほころばせながらシャッターを切った。


「本当は彼女…来月から仕事の予定が詰まってたんです。

カメラマン浅香雪見に復帰する日をたくさんの人が待ち望んでて、写真集の撮影とか

他にもいっぱい予定が入ってたんだけど…。」

笑顔から一転、健人が申し訳なさそうに視線を落としたので、雪見が慌てて言葉をつないだ。


「あのっ!すべては私の自己責任において決定したことであって、何一つ

健人くんのせいなんかじゃありませんからっ!

健人くんに同行することを決めてから、お引き受けしてたクライアントさんには

直接お詫びに伺って、仕事のキャンセルをお願いしたんです。

でも…。みなさん「待ってるよ。」とおっしゃるんです。

私のこと、ニューヨークから戻るまで待ってるから!とおっしゃって下さって…。

本当に私のわがままなのに、みなさんには感謝の気持ちで胸がいっぱいで…。」


雪見は感極まって涙をポロッと一粒床に落とす。また一粒、もう一粒…。

それを見た健人も胸にグッとくるものがあり、何も言わずただ雪見の頭を

よしよしと撫でては励ました。

雪見が落ち着いたのを見届けて、健人がキリッとした男らしい表情で前を向き直す。


「彼女の才能は、この僕が誰よりも知ってます!ずっと近くで見てきたんだから…。

本当に素晴らしい人です。尊敬してます!

俺ごときが、絶対に彼女の才能を潰すわけにはいかないと思ってる…。」

健人は自分に言い聞かすように、自分に向かって呟くように言った。

そして…。


「だから俺、決めたんです。今まで散々ゆき姉には面倒見てもらいっぱなしで。

今度は…これからは、俺が彼女の一生を面倒見て行こうと…。

だから…僕たち6月、ニューヨークで挙式することに決めましたっ!」


健人が言い終わるか終らないかのうちに、場内が「おおーっ!!」とどよめき

再び目が眩むほどのフラッシュがたかれた。

唐突とも思える宣言だったが、やっと心が解放された健人は雪見と目を合わせ、

顔をクシャクシャにして笑ったあと「あースッキリしたぁーっ!」と雄叫びを上げた。




今野らマネージャーにガードされ、四人が上機嫌で囲み取材会場を出た途端、

今野は怖い顔してくるりと後ろを振り向いた。


「お前ら4人とも、ちょっと来い!常務が楽屋でずっとお待ちかねだっ!」



最後の2daysライブのリハーサルは、まだまだ始まりそうにもなかった。


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