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親友へ贈る拍手

「う、うそっ!!お前らマジで結婚したのっ!?」


健人が大声を張り上げ、大きな目を更に大きく見開いて、隣りにニコニコと立つ

当麻とみずきを見る。

一方雪見はと言うと、これまた健人と同じく「うそっ!」と叫んだあと

瞳にみるみる涙を浮かべて「おめでとう!良かったねっ!」とみずきに抱き付いた。


その瞬間、会場中が光の洪水でおぼれそうになるほどのフラッシュが一斉にたかれる。

思いもかけず向こうからもたらされたビッグニュースに、報道陣は右往左往。

だが一番慌てて右往左往してるのは、勿論こちらの事務所サイドだった!


「な、なにぃーっ!?おい、悪い冗談だろっ!?いつもの当麻の悪ふざけだよなっ?

おいっ!誰かみずきの事務所に確認取ってくれっ!大至急だーっ!!」


雪見のマネジャーでもあり事務所のマネジメント部長でもある今野が、

当麻や健人のマネジャーにまで指示を出し、確認作業やらマスコミ対応に大わらわ。


今回の事後報告は、当麻とみずきも考え抜いた末の大決断だったのだが

それにしたってあまりにも無謀過ぎる、若い二人の行動だった。



二人に向かって四方八方からマイクが突き出される。

その様子を健人と雪見もただの傍観者になり、横で見つめるしかすべがなかった。

なんせ当人二人にしか事情は話せない。

それ以外の者達は誰一人として聞かされてはいなかった、完全なる事後報告。


そう思うと…健人も雪見も少しだけ寂しさがこみ上げてくる。

いや、少しと思っていた寂しさが瞬く間に細胞分裂を繰り返し、短時間で

巨大なる寂しさへと変貌を遂げた。


俺たちって…そんな付き合いだったんだ…。


雪見ももちろん寂しさは感じてた。

だが自分が思う寂しさなど比ではないほど、健人は今この状況に茫然としてるに違いない。

そう思ったとき、健人が可哀想で切なくて、今すぐギュッと抱き締めてあげたい衝動に駆られた。


だが、いくら交際宣言したからと言って、そんなこと出来るはずもない。

雪見はそっと目立たぬよう健人の背中に手を回し、ポンポンと二度だけ優しく合図して

また静かに手を下ろした。


『大丈夫だよ。当麻くんの話を聞いてあげようね。』

そんな気持ちを伝えたくて…。



「おめでとうございます!事務所の方も今初めて知らされたご様子ですが、

なぜこのようなタイミングで発表を?」

「もしかして、みずきさんのオメデタですかーっ?」

「みずきさんは引退されるのですか!?」


矢継ぎ早に繰り出されるあちこちからの質問を、今野が大慌てで遮った。

「すみませーん!今日の囲み取材はライヴ関係だけとお願いしたはずです!

申し訳ありませんが、もうリハーサル時間が過ぎてますのでこれで終了とさせてもらいます!

お忙しい所お集まり頂きまして、ありがとうございましたーっ!」


今野がそう言いながら当麻たちの背中を押し、この場からの退散を促す。

だがこれには一斉に報道陣からのブーイングとも取れる声が殺到した。


「ちょっと待って下さいっ!こんな重大発表なのに本人たちから何も無しって、

そりゃあんまりじゃないですかっ!」


「そうですよ!これを聞かなかった事にしろとでもおっしゃるんですか!

あえて本人たちがこの場を選んで発表したなら、それを聞いてやるのが筋ってもんでしょ!」


会場中が蜂の巣を突いたような騒ぎに発展し、それを収めようと今野や及川が

報道陣と押し問答になる。

予定通り一度終了したはずの囲み取材が、まさかの展開により再びヒートアップし

取り返しのつかない大騒動にまで発展する気配を見せた。


だが健人だけはその様子を『たまにはマスコミも真っ当な事を言うもんだな…』

と、ぼんやりした瞳で見つめてる。

すると突然、横に立つ当麻が「みなさん!聞いて下さいっ!」と

一歩前に出て大声で呼びかけ、一礼をした。


場が一瞬にして静まり返り、報道陣たちは『きたっ!』とばかりに身構える。

今野ら事務所関係者もさすがに観念したらしく、成り行きを見守るしかないと

再び後ろに退いた。


当麻が、環境が整った事を目で確認すると、斜め後ろに立ってたみずきの手を引いて

自分の真横へと導く。

それを見て慌てて健人と雪見がその場から外れようとしたその時、

「ここにいてっ!」と二人に向かってみずきが呼び止めた。


「お願い。ここで聞いてて。」


その柔らかな声と微笑みは、『あなたたちに一番に聞いて欲しいの。』

と言う、二の句の代わりに思えた。

健人と雪見は再び背筋を伸ばし、当麻とみずきよりも半歩下がって隣りに並んだ。



当麻の小さな深呼吸が聞こえる。

みずきの普段見ることのない緊張した横顔は、それでもハリウッド女優の風格をたたえ

光り輝いた瞳で前だけをじっと見据えていた。


「済みません。時間がないんで簡潔にお話させて下さい。

今日3月25日、僕三ツ橋当麻と彼女、華浦みずきは婚姻届を無事提出し、

晴れて夫婦となった事をここに皆さんにご報告させて頂きます。」

そう言って、まずは当麻とみずきが二人揃って深々とお辞儀をした。


再び辺り一面がフラッシュで真っ白になり、雪見もそのまぶしさに目が眩む。

だが次の瞬間、ハッと息を呑む場面に出くわした。

雪見の隣りに立つ健人が、スッと両手を前に突きだしたかと思うと二人に向って

力一杯の拍手と笑顔を送り始めたのだ。


当麻とみずきに拍手を送ったあと、今度は目の前にずらり並んだ報道陣に向きを変え、

当麻たちへの拍手を促すかのように目で一人ずつを見回し、拍手の同意を求める。

すると、一人また一人と拍手の輪が広がり、いつの間にかロビー一杯に

力強く大きな祝福の音が鳴り響いた。


嬉しそうに見つめ合う当麻とみずき。

それを拍手と共に、満足そうにうなずきながら見守る健人。

雪見は…そんな健人を胸を熱くして眺めてた。


自分の寂しさよりも、今は親友の祝福の方が大事なんだね…。

いつもあなたは自分の思いよりも、人の思いを優先する人。

大好きだよ、そんな健人くんが…。健人くんが大好きだからねっ!


雪見の視線に気付いた健人が、小首を傾げて顔を覗き込む。

『 どした?』と言うように。

『ううん、なんでもない。』そんな返事のつもりで笑顔を見せて首を横に振る雪見。


すると次の瞬間、健人は何を思ったか、拍手する雪見の手をびっくりするほどの力で

グイッと引き寄せた。


「え?…なに?」


突然起こした健人のアクションに、雪見は戸惑いを隠せない。

きょとんとした顔で健人を見ると、彼は飛び切りの笑顔で前を向いた。



「俺たち…俺たちも結婚しますっ!!」


「え?ええーっっ!!??」


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